外食は「厳しい状況」もAIアバターなど活用し店内飲食の価値向上へ/エッグスンシングス・松田公太代表インタビュー
その中で、コロナ時代に対応できるサービスとして、従業員の手間を減らせるシステムや、非接触の注文の仕組みを導入している。
エッグスンシングスなど飲食事業の運営や、システムの開発を行うクージュー(東京都港区)の代表取締役を務める松田公太氏に、現状や今後の展望を聞いた。
エッグスンシングス代表取締役 松田公太氏
―コロナ禍における現状は
コロナ前は既存店の売上が100%を超えていたが、新型コロナウイルスの影響で、4月と5月の既存店売上は前年比で約90%減、6月は同35%減となった。
7月は再び感染者が増加し、外食を控える動きが出ており、6月よりも減少すると見ている。
―外食産業の現状は
コロナ禍において、店内飲食を主とするテナント型の事業者は、非常に厳しい局面に立たされている。出口の見えないトンネルが続いている状態だ。
薬やワクチンが開発されたとしても、外食はコロナ以前の状態へは戻らないと思っている。もし、新しい生活様式が進み、テレワークが定着すれば、都心部のランチ需要は減少するだろう。
店内飲食の売り上げはこれまでの70〜80%になる可能性もある。テークアウトやデリバリーによって以前の90%の売上に押し上げることができたとしても、損益分岐点比率が高い飲食業では、この売り上げでは赤字になってしまう。
この10%を埋めるためには、DX(デジタルトランスフォーメーション)によって生産性を上げつつ、ホスピタリティの面も進化させる必要がある。
―DXの取り組みは
私たちは現在、「事前注文システム」、「テーブルオーダーシステム」、「カスタマートラッキングシステム」を一部店舗で導入している。これらの仕組みは、コロナ以前から開発を進めてきた。
中でも「カスタマートラッキングシステム」(技術協力:サトー)は、飲食業界で初めての取り組みだ。来店客の行動を確認することができるデバイスを渡すことで、利用客の座席位置を従業員が店舗のタブレット上で把握できる。物流で使われているシステムを飲食にも生かせないかということで開発した。
このシステムの導入で、来店された方は好きな座席で料理が出てくるのを待つだけで良い。
店舗にとっても、利用客を探す手間を減らせるため省人化が期待できる。実際に導入店舗では、5人配置していたスタッフを、時間帯によっては2人にすることも可能だ。
人時売上高が6000円から1万円に増加した店舗もあった。勤務時間も1カ月当たり約250時間削減できている。また、利用客の行動をデータとして蓄積することができるため、人気の座席の情報などから、次に出す店の内装づくりにも生かせるのでは。
今はセルフサービスのカフェ店舗「エッグスンシングス コーヒー 御殿場プレミアム・アウトレット店/イーアス沖縄豊崎店」で導入しており、順次拡大を予定している。
エッグスンシングス「テーブルオーダーシステム」
―AIを使った実験も進めている。現状は
10月からは「AIアバターレジ」(共同開発:ウェルヴィル、技術協力:アルプスシステムインテグレーション)の実証実験を開始する。来店客は、モニターに映っているアバターと会話をすることで、タッチパネル操作の必要なく料理を注文することができる。
AI対話機能により、主語を省略した発言や、あいまいな発言に対しても、今までの会話の流れから意図をくみ取ることができる。将来的には、自動支払い機能も搭載し、注文から決済までを「AIアバターレジ」で行えるようにする予定だ。
この構想は2年前からあった。この頃に人件費や原材料費は高騰し、消費税増税も加わって3重苦の状況だった。生産性を高めるのは重要と考えていた。しかし、ロボットが料理を提供する仕組みは、デリバリーでも良いと言われかねないため、境目が分かりにくかった。そこで、最後は人の手で料理を提供することで、デリバリーと差別化できるようにした。開発は昨年立ち上げた会社で行っている。
―今後については
「カスタマートラッキングシステム」でより改良したモデルも検討している。環境問題への意識の高まりからタンブラーを持つ人は少なくない。
これにデバイスを装着すると、利用される方の好みの味などを記憶させておくこともできる。キャッシュレス決済も可能になる。接客の質を高めることにもつなげられる。
バリスタにとっては接客やコーヒーづくりにより力を注げるようになると考えている。作っている人とのコミュニケーションも生まれてくると思う。こうしたことにスタッフが時間を使えるようになれば、店舗で飲食することの価値をより高められるのでは。
〈食品産業新聞 2020年8月6日付より〉