1970年3月15日:EXPO’70(大阪万博)開幕、食が近代化した日【食品産業あの日あの時】

4月13日(日)から開幕するEXPO 2025大阪・関西万博。「いのち輝く未来社会のデザイン」という万博のテーマを目にすることも増えてきた。ではあなたは、今回の万博のコンセプトをご存じだろうか?
『「テーマはただのキャッチフレーズ、大事なのはコンセプト、何をするか、何を見せるか」です』
と述べたのは、1970年のEXPO70大阪万博の企画に通産官僚としてかかわった作家・経済評論家の堺屋太一だ(『婦人画報』2017年4月号)。堺屋はのちに自著などで「人類の進歩と調和」がテーマだった55年前の大阪万博のコンセプトが「規格大量生産型の近代社会」であったことを明かしつつ、6422万人を動員した一大イベントを誇らしげに振り返っている。
食品産業にとっても1970年の大阪万博が大きな転機となったことは間違いない。企業ではサントリー、ペプシコーラ、フジパンが単独でパビリオン出展したほか、プリマハム、タマノイ酢 中村屋、日本ハム、ニッカウヰスキーが「生活産業館」に共同出展を果たした。
米国商務省が旗振り役となった合同展示館「アメリカン・パーク」にはコカ・コーラ、サンキスト(オレンジ生産業者の組合)といった企業・団体が参加し展示を競ったが、とりわけ高い人気を誇ったのは、当時まだ高嶺の花だったステーキを手ごろな価格で提供したレストラン「ウェスタン・ステーキハウス・ロイヤル」。運営を手掛けたのは日本の外食企業、ロイヤル(現・ロイヤルホールディングス)だった。
当時まだ福岡を中心に数十店舗を構えるほどの規模だったロイヤルが、なぜ米国のゾーンでレストランを運営することになったのか。ロイヤル創業者の江頭匡一の回想によれば、米国大使館から出店の打診があったのは万博開幕の前年の5月のことだった。当初「アメリカン・パーク」には米国の大手レストランチェーン「ハワード・ジョンソン」の参加が予定されていた。ところがハワード社は採算性が見込めないことから出店を辞退。ハワード社と人事交流があったロイヤルに白羽の矢が立ったのだという。
ちょうどロイヤルはセントラルキッチンを建築中(万博前年の9月に完成)。江頭は「もし赤字が出ても将来の産業化に向けた授業料だと思えばいい」と考え、万博出店を決めた(日本経済新聞 『私の履歴書』1999年5月)。困難を経てオープンした「ウェスタン・ステーキハウス・ロイヤル」は連日盛況。江頭によればステーキが毎日ニ千枚も提供され、各国のレストランの中でも売上高一位を記録したという。
実はロイヤルはこの時、「アメリカン・パーク」内に合計4ブランドの飲食店を運営している。ひとつは前述の「ステーキハウス」、当初自前で出店するはずだった「ハワード・ジョンソンショップ」、軽食とコーヒーがメインの「ロイヤル・アメリカン・カフェテリア」、そして「ケンタッキー・フライド・チキン」だ。
万博開催中の7月、三菱商事と米国ケンタッキー・フライド・チキン・コーポレーションの共同出資により日本ケンタッキー・フライド・チキンが設立され、同年11月には名古屋に日本1号店がオープンするが、万博会場内の“ゼロ号店”はロイヤルによって運営されていたのだ。
大阪万博が閉幕した翌1971年12月、ロイヤルは万博で培ったセントラルキッチンのノウハウを活かし、北九州にファミリーレストラン「ロイヤルホスト」一号店を出店。同年7月にはマクドナルドも日本に上陸。こうして万博を機に、食においても「規格大量生産型の近代社会」が次々と実現していった。
さて、間もなく開幕する2025年 大阪・関西万博のコンセプトはいったい何か。公式サイトによれば「-People’s Living Lab-未来社会の実験場」。人類共通の課題解決に向け先端技術や英知を集め、ソリューションを共有、新たなアイデアを創造・発信する場…になるのだという。

そのコンセプト通り、今回、ロイヤルホールディングスはコカ・コーラボトラーズジャパンと協働で「ラウンジ&ダイニング」を運営する。エリア内にはハラールやビーガンなどにも対応したメニューに加え、遠隔で操作可能な接客ロボットも導入されるという。果たして今回の万博では、食品産業にどんな転機が訪れるだろうか。参加各社が「何をやるか、何を見せるか」を楽しみにしたい。
【岸田林(きしだ・りん)】