〈マンデー・オピニオン〉それを言っちゃあおしまいよ

幾つかの記事で映画「男はつらいよ」シリーズ新作の製作発表を知った。50作目になる主役もやはり「寅さん」で、車寅次郎役も故渥美清になるという。ただ22年ぶりの新作なのに過去の全作品の映像を盛り込み、団子屋の錚々たるメンバーが登場し、懐かしい過去全作の出演者の映像も出てくると聞いて少々違和感を持った。1ファンとして新鮮味がないばかりか次につながる要素がない。せっかく作るなら2代目寅さんの誕生といった過去の栄光に浸かるものでない未来志向の作品が欲しいと…。しかし山田洋二監督の「主演はあくまでも渥美清。その上で今、僕たちは幸せかい?との問いかけが、この作品のテーマ」とのコメント(概要)を読み、この映画が長く支持されてきたのは効率化に邁進する社会に対し、昔から温め続けた人情的なものの価値を表現しているからと思い直した。

とはいえ、経済社会に生きる我々には着実に階段を上がらなければ明日はない。その意味で、業務用食品卸の大京食品が前期、悲願の売上100億円の壁を乗り越えて突破したことは特筆すべきだ。微減益になったが、特に同社の主力先は容器回収の日配弁当で、価格競争にもまれ人手不足に悩まされる最大の業界。物流費高騰の中、物流大改革を断行し、新規拡大に医療シルバー施設に対応した営業マン専任や事務担当者制度、食品開発部との連携、更には自社で新商品を開発し中国からコンテナで運んで大半を自社で売りさばく一連の流れをつくった努力が実った形だ。

昨年一部上場した大光は前期600億円を突破し、売上・利益とも過去最高を更新した。今期は更に3.4%増626億円を目指すが、外商事業では関東地区(千葉?)に新たな拠点を開設するなど営業体制を強化し、アミカ事業では新規出店の他、本部内に物流センターを増設して今後の多店舗展開に対応する。つまり先行投資による減益を図ってまで今後の成長を見据えた。確かに同業他社からの業務用スーパーの利用度を考えれば可能性は高い。

食品メーカーでも、上げ潮に乗って成長し続けているケンコーマヨネーズは前期比2.7%増727億円と、6期連続の過去最高売上高を更新した。なかでもロングライフサラダのFDFは昨年発売40周年を迎え、現在まで約450品を発売、同社の売上構成比でもサラダ類は44%と貢献し、ロングライフサラダ市場のシェアでも42%に達する勢いだ。これらの企業を見る限り人手不足などどこ吹く風だが、大京食品の取引先で構成する「大翔会」(14日開催)で、会長の大沼一彦日東ベスト社長は、テニスの大坂なおみ選手を題材にして、「昨年迄は個性が強く難しい選手だったが、新しいコーチによるコーチングで急成長して全米で優勝した。会社は人。人手不足にも人材育成こそ重要」とあいさつした。

人を育てると言えば、昨夏、学校給食用食品メーカー協会研修会で長野県の伊那食品工業を訊ね、同社塚越寛会長の行った講演を思い出す。概要で恐縮だが、同社が「田舎」で人気企業になれたのは社員を大事にしてきたから。コストダウンや合理化より職場をいかに快適にするかに注力した。会社に成長は必要だが絶対条件は変化する。売上数字より社員のモチベーションを上げる努力に社員も応える。経済活動はあくまで幸せになるための手段。「利他」をすれば必ず自分に返る―そうした内容に心を強く打たれた。

「それを言っちゃあおしまいよ」という寅さんの声が聞こえてくる。喜劇と現実は似て非なるものだが、フラれてもフラれても人を好きになって突進していくように、巨大な障壁に行く手を遮られても猪突猛進し、ひたすら2年後の東京五輪までを信じて堅実に商品開発、事業発展を行っていけば明日はある。人手不足・物流費高騰と嘆く前に、企業経営者の様々な姿勢が問われている。

〈冷食日報 2018年9月25日付より〉