楽天がオーガニック冷凍野菜の工場を愛媛に新設、農業で地域に貢献を
ネット通販大手の楽天は、グループ会社の楽天農業で国産オーガニック野菜の普及に力を注いでいる。
自社で農地を貸借し、今年2月にはオーガニック野菜の冷凍野菜工場を愛媛県内に新設して、安定的に野菜を供給できるようにする。
楽天の農業事業部事業企画グループの梅村周平マネージャーは「日本のオーガニック比率は0.2~0.4%ほどで、欧米と比べて15年遅れているとも言われている」と話す。
広がらない要因として、一般的に普及している量が少ないため、価格も高くなってしまっていることがあり、「誰でも簡単にオーガニック野菜を食べられる環境づくり」を参入する目的の一つとしているという。
農家の数は年々減り続けている。その中で楽天は、オーガニック野菜を農地から工場、物流まで一貫して手掛けている。野菜は有機野菜の規格「有機JAS認証」を畑から工場まで取得した。国内で出回っているオーガニック野菜は、畑から工場までこうした認証を取っていないものも少なくない。「ここまで行うのは日本国内では珍しい」(梅村マネージャー)という。
楽天・梅村マネージャー
販売は楽天の農業サービス「Rakuten Ragri(楽天ラグリ)」で個人・法人ともに行っている。扱う商品は、野菜セットやカットサラダなど。個人消費者だけでなく飲食店やスーパーなどにも提供している。タニタカフェ(東京・有楽町)や、ロイヤルホールディングスの運営するレストラン「GATHERING TABLE PANTRY」、ホテルチェーンのスーパーホテル、イオングループのオーガニックスーパー「ビオセボン」などに納品している。「まずは飲食店やホテルなどで味の良さを知ってもらい、そこから一般利用につなげたい」(梅村マネージャー)と話す。
〈農家の収益改善や地域の雇用創出に貢献〉
最初の拠点は愛媛県大洲市に設けた。農地だけでなくカットサラダの加工工場も置き、今年2月には冷凍野菜工場を竣工している。
野菜を作るだけでなく、加工品にして付加価値を付けることで、農家の高収益化や工場の雇用の創出につなげている。販路も原体野菜(加工を施さない野菜)よりも広げられる。
今回、冷凍野菜を手掛けるのは、年間通じての商品供給を可能にするためだ。オーガニック野菜の生産量は少なく、農業は天候に左右されやすいため非常に不安定。冷凍加工を可能にすることで、天候などの影響を軽減でき、フードロスの削減にも貢献できる。
また、冷凍工場は2018年7月の西日本豪雨の被害で廃業したシロモト食品の工場を再活用した。この工場でも有機JAS認証の取得を予定している。また、元従業員を含めた地域雇用も積極的に進めている。
冷凍野菜の商品ラインアップは、カリフラワーやブロッコリーで、ライス状に加工したものも販売する。ホウレンソウや小松菜なども販売を予定しており、「利用者の反応を見て、ニーズがあるものを送り出したい」としている。
冷凍野菜も法人への提案を進めている。「ニーズが増えてきたら、新たな作付け計画を作り、展開を進める」考えだ。また、楽天グループのネット販売のノウハウも活用し「まずは草の根的な展開を行い、なるべく早い段階で規模を拡大できるようにしたい」と語る。
今後も農地と加工工場の両輪で展開する考えで、静岡県内に用地を取得して新たに展開する方針だ。また、食品メーカーとの取り組みも「もし、我々の事業方針と合致するならば、一緒に何かできれば」と話す。
梅村マネージャーは「やりたいことの優先順位を決めて今後も取り組む。まずは認知拡大を進める」と語る。オーガニック野菜をどこまで広げられるのか、挑戦は続く。
〈解説【農家の現状】〉
農家の数は年々減り続けている。農林水産省の「農業労働力に関する統計」によると、2019年の農業就業人口は168.1万人で、18年から7万2,000人減っている。平均年齢は66.8歳と高齢だ。
70歳以上で引退すると仮定した場合、2026年には56万人にまで減るのではと楽天は予測している。一方で、2017年の新規就農者は5万5,700人で、流出する人数の方が多い状態だ。
就農者が減ることで、1年以上作物が栽培されていない土地「耕作放棄地」も増えている。農林水産省が2017年に発表した「荒廃農地の現状と対策について」によると、2015年時点で42.3万ヘクタールの土地で農業が行われてない。2026年には46万ヘクタールまで広がると楽天は予測する。
就農者が増えない理由に、農業ビジネスの不安定さが挙げられる。販路は限られ、収入も天候などに左右されるため安定しない。地元のスーパーの信頼を得るのに就農してから3年以上かかるという話もある。
今後もこのような状態が続くと国産野菜が食べられなくなる可能性も出ている。