マルハニチロ UDF介護食開発、現場の人手不足解消や見た目・味付けにこだわり

マルハニチロ・阿部裕介課長役
〈中央研究所などのリソースを活用、きめ細かい営業活動で売上拡大〉
日本冷凍食品協会が主催する展示会「冷食JAPAN2020」の中のセミナーで10月7日、マルハニチロ業務用食品ユニットメディケア営業部商品開発課の阿部裕介課長役が「UDFとしての冷凍食品の開発」と題して講演した。

UDF(ユニバーサルデザインフード)は、2002年に設立された日本介護食品協議会で、利用者の能力に対応して摂取しやすいように、形状、物性、および容器などを工夫して製造された加工食品および、「形状、物性を調整するための食品」(とろみ調整など)、「自主規格」に定義されている。硬さの段階は区分1「容易にかめる」、区分2「歯ぐきでつぶせる」、区分3「舌でつぶせる」、区分4「かまなくてよい」の4段階に分かれており、パッケージには必ずそれを示すマークが記載されている。

UDF市場規模は年々拡大基調にあり、日本介護食品協議会の統計によれば、2018年は区分1が2015年比61.6%増53億円、区分2が同37.7%増27億円、区分3が同39.9%増83億円、区分4が同108.0%増37億円といずれも大きく拡大。特に区分4は2倍以上に伸長した。

同社におけるUDFの開発は、2003年夏にスタートしたという。きっかけはある委託給食会社との骨なし魚の商談の中で、噛む力が弱くなった人のために骨なし魚をミキサーにかけて再成形しているという話が出て、それを同社で作ることになったことだという。

結果、2004年1月にその委託給食会社で採用され、4月には「やさしい素材」としてNB商品化した。その後「やさしいおかず」「New 素材de ソフト」などさまざまな商品を投入するとともに、売上も拡大し、2019年度には約33億円となった。2020年4月現在で、同社メディケア食品は病院施設向け・在宅向け合計で120品以上にも及んでいる。

各商品に盛り込まれた特徴を挙げると、「やさしい素材」シリーズは、かたさ(物性)を一定にするとともに、調理性は一般的な「蒸す」だけでなく、煮る・焼く・蒸す・揚げると、さまざまな調理に対応。また、栄養成分はエネルギー・たんぱく質・ミネラル・ビタミンなどを常食以上に摂れるよう設計されている。

また「New 素材de ソフト」シリーズ、「みためがシリーズ」は、形が常食そのままでありながらやわらかい、常食に似ているといった「情緒性」を盛り込んでいる。

開発においては、70人を擁する同社中央研究所や、調達部門など同社が持つリソースを活用することができ、基礎研究・生産技術開発・製品化において充実した体制となっている。

営業面では、全国約100人体制の営業部隊を有する。阿部氏は「売上高33億円に対して100人は多いかもしれないが、メディケア食品を売るのは簡単ではない。量販店で○○フェアを実施して大量販売するようなことはできず、病院施設1軒1軒で地道な活動を続けることで、導入してもらう」という。

一方、コロナ禍で特に施設・病院は訪問が難しくなる中で、Web サイトのほかYouTube の動画配信、Facebook の公式サイト、インスタグラム等、デジタル情報を充実させているそうだ。

同社メディケア営業部では、ビジョンとして、マルハニチロは▽おいしい食事をいつまでも楽しめる、豊かな食生活に貢献します。▽お客様の問題解決にお役立ちできる、身近な頼れるメーカーを目指します。▽食の発展と新たな可能性を追求し続けます。――の3つを掲げて事業に取り組んでいるという。

開発課は8人のチームで、誰が、どういったシーンでどのように食べるのか、食べたらどういう豊かさがもたらされるのか、といった食べる人を想像しながらの商品作りを大切にしている。また、開発過程では硬さの評価を基本としながら、付着性・凝集性など含む数値では表せない食感の評価にもこだわっている。品質管理においては、日本介護食品協議会の自主規格に基づいた管理よりも厳格な社内基準を設け、ロット毎の検査や定期的なモニタリングを実施している。

直近のテーマは「人手不足」と「見た目」。介護施設等の調理現場の人手不足は深刻で、安定した硬さの食事を提供できるUDF商品の需要は高まっており、調理におけるさらなる「レス化」の促進、見た目・彩り・味付けのリアル化を一層進めているそうだ。

〈冷食日報2020年10月9日付〉