日本加工食品卸協会 食のインフラ守るエッセンシャルワーカーとして社会的責任も/時岡肯平専務理事インタビュー〈後半〉
――コロナ禍への対応について
2020年春の緊急事態宣言下では、大げさに言えば命懸けの状況の中で、我々食品卸売業も食品のサプライチェーンを途切れることなく繋げられた。どんなときでもエッセンシャルワーカーとして、食品の流通を途切れさせないという社会的責任を改めて意識させられることとなった。
日本加工食品卸協会でも2020年5月、行政等の指導にも基づき「食品卸売業の物流センターにおける新型コロナウイルス感染症感染拡大予防ガイドライン」を発出し、感染症拡大予防のための具体的な対策を共有した。食品卸の物流センターでも感染事例はあったものの、センター全体が止まるような大きな事態には至らず、成果を挙げられたと思う。
その後も再度の緊急事態宣言、まん延防止等重点措置の実施などあり、適宜情報共有を行っている。
一方で、「新様式」が定着する中で、リモートワークやオンラインミーティングが浸透するなど働き方に変化があった。当業界においても、業務推進の効率化に繋がった面もあるだろう。
――貴協会で開発し、2019年春から運用を開始したトラック入荷予約・受付システム「N-Torus」の現在と今後について
現在導入拠点が70拠点を超えた。原則、日本加工食品卸協会の会員を中心に導入を進めてきたが、2021年の4月から「N-Torus会員制度」を創設し、登録料はかかるが会員でなくても使用できるようにした。これにより、会員卸だけでなくメーカーや小売業の拠点でも導入しやすくし、業界標準に近づけたい。2021年度中には導入拠点が100拠点を超え、単月黒字化できそうな見込みだ。
運営に関しては2020年、N-Torus運営委員会を発足した。安定して利益を生み出せるようになった際、利用料を下げるか、再投資して機能強化を図るかなどもそこで協議して方針を決めることになる。
開発面では、運営に必要なアップグレードのほかにも、ドライバーごとにIDを付与し、拠点ごとではなく共通のIDで管理することでより使いやすくしたり、さらにはトラック入荷予約・受付にとどまらず、入荷情報を庫内のオペレーションと連携させたりなどのアップグレードも検討されている。
インボイス、早期対応が必要に
――2023年10月に導入が予定されるインボイス制度対応について
2020年6月以降、インボイス制度対応専門部会を組織し、集中的に検討を続け、2021年3月一杯で手引書のドラフトができた。現在、関係方面の確認を受けており、必要な修正を加え5月には手引書を公開できる見込みだ。5月以降、その内容を踏まえ、小売業やメーカー団体と具体的な運用ルールを協議していくこととなる。
それと同時に、流通BMSやメーカー/卸間のEDIフォーマットにどう変更を加えるか、制度導入の2年前である2021年10月までに結論を出したい。
その後2年間で周知し、システム開発してもらうということになるが、実は2021年中が準備の山だと思っている。というのも背景があって、公衆電話網が2024年で廃止されることになっており、それに対応した切り替えが流通各社ではまだまだ遅れている。その開発が2022年から一斉に始まるのではないかと言われており、開発者の取り合いになるようだとインボイス対応の開発が本当に間に合うのかということが危惧されている。まだまだこうした危機感が共有されておらず、周知も急がねばならないと思っている。
――環境問題への対応について
日本加工食品卸協会ではこれまでも、環境問題研究会で対応に取り組んできたが、2021年度はサステナビリティ研究会を立ち上げ、より幅広くSDGsの課題にも取り組んでいくことにしている。
もちろん会員各社でSDGs対応は進めているところだが、その根底にある情報共有は協調領域たりうるところで、協会としてそれを共有していこうとしている。たとえば廃棄プラスチック問題については、当協会としての対応宣言をまとめているところで、もうしばらくで公表できると思う。我々は中間流通であり、どこまでコミットできるか限界もあるとは思うが、主体的にかかわっていこうという姿勢を見せたい。
〈食品廃棄ロス削減の取組みが物流効率化にも寄与〉
また、食品廃棄ロスについてはご存知の通り、「3分の1ルール」(賞味期限の3分の1が経過するまでに小売店に納入せねばならないとする商習慣)の緩和の問題がある。これは廃棄ロスのみならず、物流効率化にも寄与することでもある。
現在、一部の小売業で特定カテゴリーを2分の1に緩和したが、まだ全体ではない。賞味期限が180日以上あるすべてのカテゴリーが2分の1に統一されれば、川上の我々卸とメーカーの間は3分の1に統一できる。ところが現状、小売業が3分の1だと卸では3分の1+N日、あるいは4分の1などばらばらな基準となり、メーカーもそれに合わせるための在庫管理が大変になっている。これがきちんと統一できれば、前述の納品リードタイムの問題解決にも寄与することになる。
賞味期限の「年月表示」も同様だ。「年月日表示」だと「日」単位で在庫を管理せねばならなくなり、物流センターではパレットが積み重なり「ミルフィーユ」のようになってしまっている。「月」単位で管理できれば、月ごとのパレットで良いのでそのようなことがなくなる。これらは食品廃棄ロス削減という重要な課題に目が向く中で、物流効率化にも繋がる例になるだろう。
――現在の食品流通環境に対するご意見
製・配・販3層とも、個々の最適化だけでは解決できないテーマが増えている。自分たちの利益ばかりを追い求めた個別最適ではもう回らなくなってきている。一方で、これまでの長年の価値観・商習慣・仕組みが厳然としてある。全体最適が、巡り巡って自分たちの利益に繋がるという考え方の転換がより進むことが求められていると思う。
〈冷食日報2021年4月28日付〉