存在感高まる「ゴーストレストラン」“味が何よりも重要”、ネットの評価が注文に直結

ゴーストレストランのオペレーション風景
看板を出していない飲食店「ゴーストレストラン」の数は着実に増えているという。実態を厳密にはつかめないが、店内飲食はできず調理場だけを集めた施設「クラウドキッチン」が増えているほか、飲食店で別のブランドを使い、デリバリー向けの商品を作るというケースも増えている。ただ、ネットの評価が直に反映されるため、実店舗以上に厳しい面もある。

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東京都新宿区の住宅街の一角にある建物。そこを目指して多くの配達員が集まる。ここには、オンラインデリバリーに特化した飲食店が複数入居するクラウドキッチン「Kitchen BASE(キッチンベース)」がある。

キッチンスペースは約2坪と小さいながらも、調理には困らない広さだ。施設のスタッフが料理の受け渡しなどを行うため、実際の店舗よりもオペレーション面での負担は少ないという。

展開するのは、スタートアップ企業のSENTOEN(セントウエン、東京都千代田区)。新型コロナウイルスによるデリバリー需要の急増以前からゴーストレストランを手掛け、需要の高まりを機に新たに複数の拠点を立ち上げた。現在は4カ所を運営している。

新宿区の施設には、ラーメン専門店「一風堂」などを手掛ける力の源ホールディングスも入居している。近隣の自社店舗と比べて、売上は高水準にあるという。

SENTOENの独自ブランド「NY屋台メシ!!チキンオーバーライス」も同じ施設内にある。飲食店のシェフが料理を監修し、月商は多い時で約450万円を記録した。このブランドはフランチャイズ(FC)展開も行っている。中野の施設では飲食未経験だがFCへの参加を決めた男性がいた。「調理や販売方法などのノウハウなどを教えてくれるため、非常にやりやすかった」と話す。売上も着実に伸長しているようだ。

デリバリープラットフォームを運営する出前館も、クラウドキッチンを併設したデリバリー拠点を都内に3カ所持つ。入居したテナントには、売れるメニューや価格帯など出前館で培ったノウハウを提供している。「埋もれてしまわないようにするにはどうすべきか、アドバイスしながら進めている」(清村遙子取締役)という。

「カプリチョーザ」などを運営するWDI JAPANでもゴーストレストランを開始した。「召し上がったあとの満足度により評価される」(同社担当者)との考えから、盛り付けや梱包などにも力を入れる。他の外食企業もゴーストレストラン参入やデリバリー専門店の立ち上げなどを進めている。

ゴーストレストラン自体は、寿司の宅配を専門に行う「銀のさら」(運営はライドオンエクスプレスホールディングス)のようなところがあった。近年、メニューの幅や店舗自体の数が急速に広がった背景には、デリバリー需要の急増と、開業までのハードルの低さが上げられる。

一般的な飲食店を新たに立ち上げる場合、初期投資に数千万もかかることがあり新規開業のハードルは高い。しかし、ゴーストレストランの場合、イートインスペースがないため人員にかかる費用を抑えられ、広いスペースも必要ない。クラウドキッチンなどの施設を利用すれば設備がある程度用意されていることもあり、開業にかかる資金を抑えられる。また、入居した事業者にデリバリーで戦い抜くためのノウハウなどを提供しているところもあり、未経験者でも参入しやすい。坪当たりの売上や販売できる食数は、実際の店舗より高水準になることもある。

ただ、簡単な世界ではない。SENTOENの山口大介代表は、この業態を「最初は写真などの見せ方が重要になるが、継続して利用してもらうには味が大切」と話す。

ゴーストレストランで一般のWEBサイトに掲載されているところは少なく、多くはデリバリープラットフォームのアプリやサイトのみで情報を見られる。そのため、利用者の評価が今後の継続利用や新規利用の獲得につながる。「美味しいと評判になればリピートにつながる。大手チェーンに比べて宣伝力で劣る個人店も同じ土俵で戦えるのでは」と力を込める。

別のゴーストレストランを見てみる。飲食店の運営やコンサルなどを行うGlobridge(グロブリッジ、東京都港区)は、同社のオリジナルブランドや提携した飲食ブランドのメニューを、加盟店の厨房で調理する「ご近所キッチン」という施策を行っている。加盟店は1,000店を突破した。

参加ブランドは、グロブリッジのブランド「東京からあげ専門店あげたて」に加え、鍋料理店「赤から」、ピザの「森山ナポリ」などがある。加盟店の特性に合わせて作る料理は決めているという。味や品質はブランドの水準をクリアできるように様々な取り組みも進めている。

「東京からあげ専門店あげたて」を立ち上げた、グロブリッジの平石貴大さんは、この業態について「ネットでの戦いは良いも悪いもはっきりと出る」と語る。

デリバリーを主体とする場合、商圏は拠点から半径2〜3キロに留まる。店舗と違い、商圏の外から利用者を呼び込むことはできない。そのため、「評価を大きく落とせば、その分利用者は減り、挽回も難しくなる」(平石さん)という。

「エンドユーザーは良い店を求めており、情報に敏感になっている。調理時間は短く、届いたときに満足してもらえる、店内喫食とは異なる、デリ バリー独自の取り組みが大切では」と述べる。

デリバリー市場の成長と共に存在感が高まるゴーストレストラン。伸びたとはいえ、他国と比べると、日本のデリバリー市場はまだ成長の余地を残すとの見方が強い。その中でゴーストレストランは、一般の飲食店とは違う成長を見せるかもしれない。

〈冷食日報2021年8月10日付〉