日清食品冷凍「日清本麺」、培ってきた「麺」の知見を集結 「今までにないほどの本気の開発」【ブランドの創りかた】
日清食品冷凍「日清本麺」プロダクトマネージャー三島健悟さん
〈「麺」そのものに注力〉
商品コンセプトは、「日清が本気で創った、うまい麺」。ブランド名もここから来ている。このブランドの開発で最も力を入れたのは、「麺」だ。ゆで時間や配合はもちろん、麺の長さ、細さ、水分量、厚みなど細部での調整を行い、構想から6年もの時間を経て発売にこぎつけた。すするときに麺の香りが立ち、食感はゆでたてのような歯切れの良さを実現した。スープも麺の風味を活かせるよう調整したという。
実売価格は200円台の後半を想定しており、市販の冷凍食品としては少し高単価となっている。三島さんは「約10年マーケティングに関わってきたが、今までにないほどの本気の開発でした」と話す。開発には日清食品ホールディングスの安藤宏基CEO も携わり、「全社一丸で作ったと言える」(三島さん)商品に仕上げたという。
〈冷凍ラーメン市場への貢献も〉
なぜ「麺」を主役に開発を行ったのか。三島さんは「この先、冷凍ラーメン市場をどんなマーケットに昇華させたいかと自分たちに問いかけたとき、同じやり方ではこれ以上の付加価値にならないと思ったんです」と話す。
冷凍ラーメン市場で人気のメニューは、担々麺や汁なし麺、ちゃんぽんなどだ。約20年前からこの傾向は大きく変わらない。手軽に調理することができ、具材が充実している点も支持されている。一方で、ラーメンでは一般的なしょうゆラーメンや味噌ラーメンは、冷凍ラーメンではそれほど大きな支持を集めていなかった。三島さんによれば「しょうゆや味噌といったど真ん中のラーメンということに、冷凍ラーメンとして真正面から挑戦した時代はあまりなかった」という。
「ラーメンに長年取り組んできた企業が、一般的なラーメンとして間口の広いしょうゆなどに本気で取り組めば、市場に何らかの新しい貢献ができるんじゃないか」という思いから企画は始まった。
初期段階では、流行りのメニューやご当地ラーメンを扱う案もあった。しかし、日清オリジナルで勝負したいという考えから取りやめた。話し合う中で出てきたのは、長年取り組んできた「麺」で勝負するというアプローチだった。ここから、最高に美味しい麺と、麺を引き立てるスープの開発が始まった。
まず、日清としての「理想の麺」とは何かという議論からスタートした。そして、冷凍ラーメンでどこまで美味しい麺を作れるかにも挑戦し、数値だけでは測れない感覚のすり合わせを行った。この理想の麺を量産化するための体制も整えた。さらに、この麺のおいしさをどのように伝えるべきか、ブランド作りにも多くの時間を割いた。
初めての試みだったため、開発は一筋縄ではいかなかった。三島さんは「1歩進んだと思ったら2歩下がっていたなんてこともあった」と振り返る。
約6年を経て今年9月、「日清本麺」はようやく発売に至った。
〈今までにないからこその不安と自信〉
これまでとは大きく異なる商品に、不安はなかったのだろうか。三島さんは「ないと言えばうそになる」と語る。「美味い麺だけを争点にしたため、そこを分かってもらえるのか、コンセプトを感じてもらえるのかは、実際に食べてもらわないと分からない。そこは怖いところです」と話す。
ただ、同時に商機でもある。
外食やフードデリバリー、中食などの業態間の垣根は、コロナ以前から薄れつつあった。コロナ禍に入ってからこの傾向はより進んだと見られる。
三島さんは「冷凍ラーメンは即席麺ではなく外食と比較されることが多い。冷食の中で多少高くても、外食と比べるならばコスパに優れていると感じてもらえると思います」と推察する。加えて「自社での調査やバイヤーさんの試食の評価が良かったことも、自信になっています」と語る。
また、冷凍食品売り場に訪れる人は冷凍ラーメンへの関心度も高いため、これもチャンスになると同社は捉える。
冷凍ラーメンの強みは、手軽かつ外食よりも値ごろな点だ。チルド麺よりも利便性に優れ、具材も初めから盛り付けられている。コンビニでは高付加価値の商品が順調に推移しており、スーパーでも特徴のある商品ならば勝負できる素地があるという。
今後の販売戦略は、店頭のデジタルサイネージなどを活用して、開発ストーリーや商品の長所を伝える。SNS やテレビ媒体を活用した販促も予定している。三島さんは「発売してからが勝負。まずは徹底的にやります。ラーメン好きに1度食べて欲しいですね」と話す。
今後について、三島さんは「冷食市場でラーメンをより当たり前の存在にしたいです。むやみに商品を出すのではなく、まずはこの2品をしっかりと育てていきます」と力強く語った。
〈冷食日報2021年9月8日付〉