日本水産「冷食の間口の広がりは想定以上、今後も食卓での利用増に取組み」/熊谷賢一家庭用食品部長インタビュー
ニッスイ個別の売上高で家庭用調理冷食が前年比2.0%増184億円、約半数が家庭用の農産冷食が2.5%増54億円と前年を上回った。カテゴリー別では、惣菜、麺類が2ケタ増、弁当品、スナックが1ケタ増だった一方、米飯は前年に及ばなかった。
大きな流れとして4~6月は前年大幅増の裏年で惣菜、麺類中心に苦戦ぎみだったが、前年に休校等で苦労した弁当品が戻って補った。7月以降は4回目の緊急事態宣言発出で再度行動が制限され、東京2020大会もあって巣ごもり需要から惣菜、麺類が盛り返し、たこ焼きを中心とするスナックも伸長した。
中でも麺類の伸びは想定以上だった。当社の主力は「ちゃんぽん」であり、冬場はともかく夏場に伸びる要素があまりない。また、歴史も長い商品で配荷もほぼいき渡っていて、通常では伸ばせる余地が少ない。にもかかわらず、「長崎風皿うどん」と合わせて大きく伸び、人々のライフスタイル変化による間口の広がりを感じさせられた。
一方、米飯は主力のおにぎりをこれまで3工場体制で生産していたが、7月にそのうちの1つ、北九州ニッスイの火災があり、生産が滞った。現在は既に他工場への移管等で生産体制を整えたが、需要のピークである8月に仕掛けられず、11月まで十分な提案ができなかったことが響いた。これから再度訴求・提案を強化する。
――上期の施策と成果
1つは、食卓惣菜を冷食でどう広げるかをテーマに取組み、鶏肉加工品の商品を投入した。特に東京2020もあって家飲み需要と若年層の取り込みを目指し、今春「フライドチキン」「同旨辛」、期中の6月に「おうちTIME」4品を発売し、新しい市場をある程度取り込むことができた。
もう1つは、家庭内調理が増加する中で素材品の拡大に取組んだ。農産品では今春、大容量タイプの「宮崎産ほうれん草 大容量」および「カットレモン」などを、秋に「ブルーベリー大容量」を発売。フルーツ類ではアイスメーカーと店頭コラボにより使い方を提案した。
さらに、「シーフードミックス」等水産素材品の商品投入・提案を強化した。冷食売場の素材品は農産品が中心だったが、水産品も同じように使える。水産売場との競合にはなるが、加工度の高いものも含めて提案していきたい。
今秋新商品ではブランドコラボの「松屋監修牛めしおにぎり」は味への評価も高く計画通りの進捗。「今日のおかず 大串やきとりもも」はこれまで家庭用冷食としてはなかったタイプの商品で、新しい冷食ニーズ・食シーンを探ったものとして発売した。
――市場環境をどう見るか
今後もっと増やすということが課題。データを見ると若年層、単身層が増えており、新しい間口が出てきている。シニアへの対応はもちろん重要だが、若年層に使ってもらえれば未来の需要にも繋がるわけで、さらにトライしていきたい。
コロナ禍の2年間で、食卓で冷凍食品を使う機会が増えるという、冷凍食品の新しい形のイメージが見えてきたように思う。そう考えれば中長期的にまだまだチャンスがある。短期的には、先行き不透明な不安の中で皆が生活しており、消費者心理が読みづらい状況にある。さらに原料供給、天候、物流、為替も含めて不安定であり、それに対応できるかどうかもポイントとなる。タイの鶏肉供給が良い例で、日本だけの問題ではなくなっている。
冷食の売場で言えば、従来のSM(スーパーマーケット)、GMS(総合スーパー)に加え、ドラッグストア、ディスカウントストアでの露出が高まっており、それが冷食市場の拡大にも繋がったと見ている。一方で、皆同じような売場になりつつあるという面もあり、次はどのように進むのか。またCVS(コンビニエンスストア)は独自の売場を作っており、また「無印良品」に代表される新しいプレーヤーもいて、これらは冷食の魅力を高めるのではないかと見ている。
〈今後は市場の拡大に応じた供給体制整備が課題に〉
――下期以降の重点施策は
上期同様になるが、食卓での冷凍食品の利用機会を増やすこと、鶏肉加工品であればフライドチキン、やきとりとこれまでと異なる切り口の商品の定着、そして素材品の拡大を継続して目指す。また、おにぎりの利用者・食シーン拡大が大きなテーマだが、これは前述の生産面の問題があり、もう少し時間をかける。
また、コロナ禍で店頭施策が難しい中で、SNS活用を強化し、料理研究家による「今日のおかず」のアレンジレシピ提案など、直接消費者に個で届くような施策を展開している。どの程度の効果を挙げられるかは未知数だが、新しい販促の形を、試行錯誤・研究も含め進めていく。
――足元での課題は
冷食に関しては生産キャパがマックスに近くなっており、生産体制の強化が1つの課題だろう。人手不足も慢性化する中で、生産能力があってもできないことも多々出てきていて、市場が拡大する中で、供給体制をどう整備するか。
その中では、これまでも取組んできたことではあるが、省人化・生産性向上のための設備を入れるなど、少しでも多く作れる体制づくりに日々取組んでいる。実際に生産性は上がっているのだが、それ以上に市場が拡大している印象だ。
今後人口減による胃袋の縮小は確実だが、それでも冷凍食品の需要は、人口構成の変化だったり、皆さんに価値を認めてもらったりといったことで増えていく可能性が高い。それも見据えた生産体制の整備が必要になるのではないか。
また、原料、人件費、燃料費、物流費などあらゆるコストが上がっている上、為替も円安にふれており収益確保が厳しくなっている(※本取材後の11月19日に値上げを発表)。海外生産現場も人件費上昇など同様で、海外だから安く作れるという時代は終わりに近付いているように思う。
〈冷食日報2021年12月17日付〉