ウルノ商事・宇留野裕太社長「今までの歴史や伝統を踏まえ、誠実さを大切に新しいウルノ商事へ」【業務用卸新社長インタビュー】
茨城県の業務用食品卸ウルノ商事は6月24日の株主総会後の取締役会で、宇留野裕太常務が代表取締役社長に昇格し、宇留野正義社長は取締役会長に就任した。宇留野新社長は「今までの歴史や伝統を踏まえ、新しいウルノ商事の歴史を創っていく」と意気込みを語り、『従業員満足度を高めて選ばれる会社』にする意欲を示した。水戸本店を訪問し、今後の事業戦略について詳しく話を聞いた。
〈「従業員満足度を高めて選ばれる会社」に〉
――就任の意気込みを
昨年、当社は創業70周年を迎えた。食品業界と一緒に成長を続け、地域の食を守ってきた。品質管理が厳しい学校給食をメインに70年やってきているので一日の長があると自負している。
初代は冷凍食品の取扱いを始め、事業を軌道に乗せた。2代目は給食の強みを活かして事業を拡大。3代目の前社長はシステム化を進め、生産性を高めた。在庫・商品管理のシステム化は業界でも進んでいる。
その積み重ねを今回、私が受け継いだ。特に、3代目が大事にしていたのは「約束を守ること」。メーカーが頑張ってくれた分は、しっかりプラスアルファして返せるよう利益をとってくることを大事にしていた。私も引き続き、その考えを継承する。
今年度から5カ年計画を立てた。これまでは顧客満足向上などいろいろな施策を打ち出してきたが、4代目となる私は、「従業員満足度を高めて選ばれる会社」にしたい。主体的に仕事に取り組む従業員を増やし、今までの歴史や伝統を踏まえ、新しいウルノ商事の歴史を創っていく。食品業界は他の業界に比べてデジタル化や働き方改革が遅いと言われることが多い中で、業務用卸の中で面白い企業にしていきたい。
――従業員満足度を高めるためには
従業員満足度について話すと、「従業員を甘やかさないほうがいい」とアドバイスを聞くが、楽にさせるという意味ではない。従業員が納得して、仕事ができる環境を作るということだ。前職の経験で、理解はしたけれど納得していないときが一番働きづらいと思う。たとえしんどい仕事でも、納得感があれば仕事は面白かった。
では、従業員に納得して仕事をしてもらうためにはどうすればいいのか。事業を行う理由付けや経営陣の考え方、事業課題をしっかり説明すること、社員間のコミュニケーションの促進などいろいろな要素があると思う。
また、従業員が参加しやすい、意見を言いやすい会議にすることも大事だ。例えば、新規事業を手掛けるときに、経営陣がほとんど作り上げたものを社員に共有するのではなく、たたき台レベルの段階で社員と共有し、皆で考え、具体化させた方がいいと思う。一般社員でも、主任でも、課長でもいい。やりたいことがあれば発言、行動できる会社にしたい。
これからもっとスピード感が求められる時代がやってくる。誰かが作ったものに乗っかるのではなく、皆で作ったことを皆で頑張った方が、いいものができるし、スピードも上がる。これまで、そういう文化がないので相当苦労するかもしれないが、主体的に仕事に取り組む従業員を増やし、最終的には「自分の子どもをこの会社に入れたい」と思ってもらえる会社にしたい。
〈給食サービス企業へアプローチを強めたい〉
――実績と今期計画は
前期は直販売上66億円。学校給食が30%、老健・病院給食で25%、仕出し・外食10%、ベンダー・観光(道の駅等)10%、受託給食10%、その他15%となっている。今期は直販70億を目標にしている。コロナ禍がある程度落ち着くことと商品の値上げを含んだ数字だ。
――拡大したい分野は
今後も、学校給食と老健・病院給食に注力する。ただし、少子高齢化で食数が減ることが予想される。その一方で、給食センターや学校が統合され、業務効率が良くなりコストが減少するので、状況はあまり変わらないと思う。
一方、老健・病院給食は伸び代しかないので、軸足突っ込んで拡大させたいが、どの卸も注力している分野であり、給食サービス企業の参入もあり競争は激化している。最近は、給食サービス企業も地域に根差した卸企業と組んで食材を卸すことが増えている。当社は茨城県を中心に北関東の地盤は整っている。指定問屋として新たなパートナーになれたら嬉しい。給食サービス企業に向けたアプローチを強めたい。
なお、仕出し・外食はコロナになり売り上げが半減して戻ってない。もちろん事業を止めはしないが、売り上げはあまり見込めないだろう。
――ニーズが高まっている商品は
人手不足等で自然解凍品や加熱して盛り付けるだけの商品など、時短や簡便な商品ニーズがものすごく高まっている。また、老健や学校では栄養強化のニーズが高まっている。
一方、仕出し弁当では、これまで原価主義だったが、最近は商品を見るようになってきた。安さよりも味や簡便性を重視するように変わりつつある。こだわって作っているものでなければ、消費者が選ばなくなっているからかもしれない。
また、HACCPが始まってお客様でも衛生管理のハードルが年々厳しくなってきている。当社も端数など細かい対応をしていたが、今では袋納品になっている。1袋、1箱など数が少ないもののニーズが増えたような気がする。
〈値上げは正直に伝え、誠実さを大事に〉
――値上げについては
この1年値上げ対応しかしてない、と言えるほど値上げばかりだ。正直なところ、ここまでの状況になるとは思わなかった。
当社は、値上げについて正直でありたい。値上げをちゃんとお客様に伝え、その情報をできるだけ早く伝えるよう努力している。
お客様には「安くやります」とは絶対言わない。商品は適正価格で、品質管理は値段以上でやれている自信がある。それは続けていかなくてはいかない。
当社は分からない商品は扱わない。新しい会社と取引をするときも、しっかり工場見学を行い、商品の品質の確認を徹底している。誠実さはいつの時代でも求められる。そこは崩さないで事業を展開していきたい。
しかしごく一部の卸さんでは、サイレント値上げになっていたり、伝票がきたら値が違うなどもあるようだ。ある大規模な給食センター長に話を聞いたところ、食数が多いからか、卸は値上げをほとんど提示していないという。それは良くない。
原料が高騰する中で商品価格を上げるのは今しかない。価格据え置きではその卸に納品しているメーカーはもっとつらい。喜ぶのはお客様だけで、誰かが大変になるとこの仕事も、学校給食の品質も持たなくなる。
〈営業の事務作業を分散、業務効率化進める〉
――卸業の課題は
当社は自社便で、配送と営業が同じだから、運びながら営業するとなると業務の上限が決まってしまうことだ。業績を伸ばそうと思っても、そのやり方だと手が回らなくなる。人海戦術に近いものであり、効率化も進まない。
他社をみると、自社便と委託は別にして、配送と営業を分けているところが結構ある。それも検討余地はあるが、現在着手しているのは、営業の事務作業の分散だ。
営業が行う事務処理は、見積・入札書類作成、成分表収集など結構多い。営業事務が代わりに行うことで省力化が図れて、その分営業の対応力が上がるようにした。
〈冷食日報2022年9月27日付〉