キユーピーと広島大学 アレルギー低減卵を開発、主要アレルゲン「オボムコイド」を含まない鶏卵、オランダの学術誌に論文掲載
キユーピーと広島大学は4月26日、主要アレルゲン「オボムコイド」を含まない鶏卵を作出し、その安全性を世界で初めて確認できたと発表した。
日本人がかかる食物アレルギーの中で鶏卵は最も多く、注意していても誤飲や誤食を起こしてしまう可能性があった。商品化などの時期は未定だが、将来的にはアレルゲンを含まない卵を使用した加工食品が誕生する可能性がある。なお、研究成果に関する論文は、Elsevier社(オランダ)の学術誌『Food and Chemical Toxicology』の2023年5月号に掲載を予定している。
4月26日に開かれた会見には、広島大学大学院統合生命科学研究科の堀内浩幸教授、キユーピー研究開発本部技術ソリューション研究所機能素材研究部の児玉大介チームリーダーらがそれぞれ出席した。堀内浩幸教授は「息子が卵アレルギーで、同じく悩んでいる方からの声を頂き、社会貢献を重要なポイントとして頑張ってこられた。社会実装に近づいていると認識している」と語った。
食物アレルギーを持つ人の割合は、11歳までが約90%と、ほとんどが小児だ。原因物質のトップは鶏卵で、全体の約33%を占める。
鶏卵のアレルゲンとなる物質は、卵白に含まれる「オボムコイド」「オボアルブミン」「オボムチン」などがあると言われ、その多くは熱に弱いため十分に加熱すればアレルゲン性は低下する。しかし、「オボムコイド」については、熱にも消化酵素にも強いため、加熱調理や消化酵素を用いた加工を施してもアレルゲン性は失われず、アレルギーを引き起こす原因となっている。食品だけでなく、インフルエンザなどの一部ワクチンにも発育鶏卵が用いられており、そうしたワクチンは重度の卵アレルギーの人に接種することができなかった。
キユーピーと広島大学では、2013年からこのアレルギー低減卵の基礎研究を進めてきた。今回の研究で作出した卵は、ゲノム編集技術により、鶏の受精卵のオボムコイド遺伝子の働きを狙って止め、その受精卵から孵化した鶏が成長し、交配・産卵することで作れる。ゲノム編集には広島大学で独自に開発した技術でオボムコイド遺伝子の働きを止めることで、オボムコイドを含まない卵を作り出した。
こうして作出した鶏卵を食品として利用するために、ゲノム編集による副産物や影響などを解明し、安全性を確認したところ、オボムコイドや副産物が含まれていないこと証明されたようだ。また、ゲノム編集による別の遺伝子の挿入や他の遺伝子への影響も見られず、世界で初めてその安全性を確認できた。
現在は応用研究を進めている。相模原病院と共に臨床試験を進めており、実際にアレルギー低減卵を使用した血清の試験と、患者による喫食試験を2023年4月から行っている。また、「凝固性」「起泡性」「乳化性」などの加工適性がアレルギー低減卵にもあるのかなど、さまざまな食品への利用の可能性も探っている。見た目は通常の卵と変わらず、味についても実際に食べた人からはそん色ないという。
キユーピーや広島大学に加え、相模原病院、坪井種鶏孵化場、東京農業大学、プラチナバイオ、キユーピータマゴを中心に共同で研究を進めているキユーピーの児玉チームリーダーは「実用化に向け研究を進めると共に、ともに取り組む仲間も増やしたい」と話す。
商品としての市販流通の時期について、児玉チームリーダーは「現在は応用研究の段階なので明言できないが、社会実装を目指して研究を進めている。今後良い報告ができれば」と語る。また、「日本人口の1%は何らかのアレルギー患者がいて、困りごとについて聞くと3~4%が卵アレルギーに困っていた。家庭に1人でもアレルギーの方がいるとその家の中では卵が一切扱えないので、1%よりも大きな市場があると考えている。金額は多くないが、社会的な意義は大きいと思う」と述べた。
〈冷食日報2023年4月27日付〉