テクニカン、液体凍結機「凍眠」の販売広がる、さまざまな場所で活用進む液体凍結の普及拡大目指す
マイナス30度まで冷やしたアルコールで食材を凍らせる液体凍結機「凍眠(とうみん)」。食材へのダメージを少なくできるなどのメリットが支持され、食品工場だけでなく、飲食店や食材の生産者らにも広がっている。
この機械を開発したテクニカン(横浜市都筑区)は、コロナ禍以降大きく注目を集めており、飲食店や食材の生産者からの機械の引き合いが増えているという。最近では、鮮度の高い生酒を、蔵元と手を組んで冷凍で販売しているほか、ロス削減を意識している企業や生産者などに向けた提案も強めている。
山田義夫社長に現状や今後の施策などを聞いた。
〈2022年度の売上は前年比で1.8倍以上に飲食店などに普及〉
――冷凍の市場についてどう感じますか。
冷凍が便利だというのは多くの人に広まってきたと感じます。元々日本は、冷凍技術の普及が他国と比べて遅れていたと感じていましたが、コロナ禍に冷凍食品を活用する人が増えて、防腐剤を入れなくても長期間保存でき、味の劣化も少ないことが知られ始めたと思っています。多くの場所で冷凍品の販売が見られるようになりましたが、その質は高くないものも少なくない。それでも、一度いい冷凍を知ってもらえたら、それを欲しいという人は増えると思っています。
実際、我々の売上も2022年度は24億で、前年と比べて1.8倍以上に伸びています。
――食品工場以外にも広がっています。
以前ならば冷凍機を活用する方の多くは食品工場で、飲食店や生産者にはそれほど広がっていなかった。それがコロナ禍に入ってからは比率が大きく変わり、食品工場が最も多いのは変わりませんが、飲食店もそれに追随する個数で、生産者からの引き合いも出てきています。元々は小型機をやっていなかったのですが、ニーズが出てきたため販売したところ、順調に推移しています。飲食店の場合、多めに食材を凍らせてコストの削減につなげているほか、フードロスの削減にもつなげていると聞きます。飲食店は差別化をしなければ生き残れない。冷凍技術が飲食店の調理を変えつつあります。
それでも、冷凍技術全体では液体凍結の存在はまだまだ小さい。ただ、液体凍結の技術を我々で独占するつもりはなく、他社と共に液体凍結の良さをより広げたい。切磋琢磨しながら冷凍のレベルを引き上げることにつなげられればとも思っています。
――今、力を注いでいることは。
「凍眠」ブランドの認知拡大が一番です。冷凍機だけでなく、「凍眠」のロゴを掲載した商品も販売しています。多くは、生肉や魚、フルーツでしたが、最近では料理やお酒にも広がり、コンビニの「ローソン」でも刺身などを扱っていただけています。ローソンの刺身は元々わずかな店舗での販売でしたが、現在は1万店以上で取り扱いがあります。
こうした商品は、「凍眠」の良さを知ってもらうことが最も重要だと思い、品質の監修だけやらせてもらって、売上についてはお金を一切頂いていません。ブランドのタッチポイントを増やすことが目的で、実際に食べた方からの引き合いも出てきています。テクニカンで食品問屋をやるつもりはなく、機械やとしてそこはしっかり提案していく。いずれは「凍眠」イコール高品質、という風に感じてもらえるようにしたいですね。
〈小売店の運営などにも注力アルコール凍結の認知拡大へ〉
――他に力を入れていることは。
自社で運営している冷凍品の専門店「トーミンフローズン」(横浜市都筑区)もその一環です。機械を卸している食品工場や生産者、飲食店の方々から冷凍品を買い取り、商品を販売しています。「凍眠」ブランドのショーケースという位置付けですね。月商は700万円で、平均客単価は3,000円ほど。中には10万円以上購入される方もいます。次の店舗については色々考えてはいるのですが、まだちゃんと決まっているものはないです。(仙台に2号店はあるが、直営ではない)
今年から本格的に取り組みを進めている「冷凍生酒」についても今後も広げたいと考えています。店舗だけでなく、ECで販売しているほか、一部の飲食店でも採用されており、10月中旬までに5,000本以上を販売しました。ただ、飲食店の多くは自身がよく知っているお酒を扱うことが多いので、こうした日本酒があるということを知ってもらうための活動も進められればと思います。今は約30の蔵元に参加していただけており、今後は新たに10の蔵元の参加を予定しています。また、酒蔵の方たちと新しい取り組みも検討していて、実現に向けて進めているところです。
伊藤忠商事と提携して進めている「凍眠市場」も順調で、イオンリテールさんで展開の「@FROZEN(アットフローズン)」や、コープデリ生活協同組合連合会(さいたま市南区)などに採用されてました。こうした取り組みからも「凍眠」の良さや存在を知ってもらえるようになる。拡大していきたい。
他にも、営業所を今年から広げており、北海道・名古屋・大阪に開設し、今後は福岡にも開所予定です。
――今後の展開は。
例えば、九州の端に住む生産者の方から、物流の仕組みが大きく変わってしまうため、生肉の場合だとそこまで遠くで売ることができない、という声がありました。ただ、冷凍技術によって長期間の保存ができるため、距離はどこまででも。ドライバーの方にとっても、時間を左右されにくくなるため、負担軽減につながる。
一方で、瞬間凍結を採用していても、その技術力は千差万別なので品質的に疑問視したくなるモノもある。「凍眠」はそうしたものとは違う、しっかりした製品であることをアピールしたい。
今後もあらゆるものに挑戦したい。食品ロスの削減や物流の問題解決につながる可能性も秘めており、凍結の文化はまだまだ広がると確信しています。液体凍結を最初に開発した人間として、どこまで広げられるか、挑戦したい。この技術はまだまだ可能性がある。会社のスタッフも増え、まだまだ伸ばせると思う。昔はそこまで注目されていませんでしたが、ようやくここまで来られたという感じです。良い冷凍のボリュームを増やすと同時に、日本には良い冷凍技術があることを広く知ってほしいですね。
〈冷食日報2023年11月7日付〉