冷凍食品市場の盛り上げ役になれるか、高級飲食店の商品や健康提案、サブスクサービスなど

スーパーに設けられた冷凍食品コーナー
スーパーに設けられた冷凍食品コーナー

冷凍食品市場で、有名料理店が手掛ける冷凍食品といった高単価な商品に加えて、減塩やアレルギーフリーといった健康面を気にする人へのアプローチなど、付加価値提案がより広がっている。こうした商品を活用した人は冷凍食品の利用意向が高い傾向にあり、市場拡大のための新たな可能性を感じさせる。「安くて手軽」な商品が支持されている冷凍食品市場で、どのように広がっていくのか。

〈『高付加価値冷凍食品』購入者ほど冷食の利用意向は強め〉

コロナ禍以前の2019年までの冷凍食品のイメージの多くは「美味しくない」「体に悪い」だった。しかし、コロナ禍を契機に、実際に食べた人たちからイメージの改善が進んだという。業界関係者からは「10年分ぐらいのマーケティングが急に進んだ印象」との声もある。

実際に喫食した人からは「思っていたより美味しい」「具材も入っていて便利」などと話題を集め、販売は大きく伸長した。ネガティブなイメージはまだ残るが、改善は以前より進んだ。

冷凍技術のコンサルティングなどを手掛けるえだまめ(東京都渋谷区)が今年11月に実施した調査(対象は20~79歳の男女1万人)によると、約5割が冷凍食品を月に2回以上を購入していた。

高付加価値商品も支持され始めているようだ。調査では、百貨店や高級スーパー、EC、冷凍自販機で購入できる冷凍された料理などの高級加工品や、健康に配慮された一食完結型の商品、冷凍の一次特産品などを『高付加価値冷凍食品』と位置づけ、この商品を1年以内に購入したことのある人を調べると、16.4%と少なかった。

しかし、『高付加価値冷凍食品』を1年以内に購入した人は、月に2回以上冷凍食品を購入している人の割合が81.4%と、冷凍食品の利用頻度が多い傾向にあった。冷凍食品に満足している人の割合も、『高付加価値冷凍食品』を1年以内に購入した人の場合、63.6%が「とても満足」「満足」と回答した。冷凍食品を購入している人全体では「とても満足」「満足」との返答が41.1%なので、約1.5倍も高かった。

購入者はファミリー層が最も多く、次いで独身層、シニア層、定年前後のミドル層だった。世帯年収600万円未満の家庭は、44.4%が『高付加価値冷凍食品』を1年以内に購入していた。

今後、『高付加価値冷凍食品』を買いたいか聞くと、全体では31.6%だったのに対し、『高付加価値冷凍食品』を1年以内に購入した人は88.5%が、また買いたいと回答した。

高付加価値の冷凍食品を買う人は、外食や中食の代替として購入していたようだ。購入場所は、最も多いのが高級スーパーで、ネット通販、百貨店の食品売場、冷凍食品自動販売機と続いた。

〈飲食店の冷凍商品が拡大 百貨店も注目〉

冷凍食品の付加価値提案は増え続けており、その中で飲食店が手掛ける高級冷凍商品は増えている。その背景には、料理などを冷凍する凍結機の普及がある。

特殊冷凍機を手掛けるデイブレイクの、下村諒取締役COOによると「これまで市場の規模は微々たるものだったが、22年度時点では約150億円になったとのデータもある」という。

凍結機を活用し、百貨店やECサイトでは有名飲食店が手掛ける商品は増えている。「松屋銀座」を運営する松屋は、22年8月に、「ギンザフローズングルメ」という冷凍食品売場を設けた。商品開発には松屋も携わっており、初めて冷凍商品を販売する店舗もあった。計画比を上回る水準で推移しているようで、卸売も新たに開始し、「明治屋」などの高級スーパーに採用された。

大丸松坂屋百貨店は、冷凍食品のサブスクリプションサービス「ラクリッチ」を今年5月に開始した。着実に伸長しており、月額1万2,000円のコースが最も人気で、今後は百貨店に実食できる場を設け、サブスクの販売につなげる。

経営戦略本部DX推進部の岡崎路易専任部長は「首都圏だけでなく地方にも根強いリピーターが存在する。高付加価値冷凍食品の需要を感じている」と話す。

イオンリテールで展開の冷凍食品専門店「@FROZEN(フローズン)」もオリジナル商品を広げている。店舗も5店舗となった。今秋時点での客単価は、通常店舗と比べて約2倍となったという。通常のスーパーで取り扱いの少ないディナー関連の商品の需要が堅調に推移しているようだ。ECサイト上でも販売が広がっている。

冷凍食品専門店「@FROZEN(フローズン)」/イオンリテール
冷凍食品専門店「@FROZEN(フローズン)」/イオンリテール

「ビブグルマン」に選出された「厳選洋食さくらい」は冷凍商品を手掛け、ECでの販売をスタートした。

高級寿司店「鮨銀座 おのでら」も来春に冷凍寿司をECで発売する。また、海外展開や施設向けの販売も視野に、新工場を設置するなど、取り組みを本格化させる。長尾真司社長は「ブランドを広げる非常に強い武器になるのでは」と期待を寄せる。

また、職人不足を補うために凍結機を導入し、事前に調理した商品をECなどでの販売に加え、店舗でも提供している店舗もある。

〈減塩やアレルギー対応も支持広がる〉

減塩やアレルギーフリーといった機能性の高い商品も支持を広げつつある。冷凍食品でも健康関連の商材をそろえたコーナーがスーパーに設けられつつある。身近な小売店でも機能性表示の内容を訴求できるため、一般消費者にアプローチしやすくなったことが要因の一つと言われている。

健康関連の商材をそろえた冷凍食品コーナー
健康関連の商材をそろえた冷凍食品コーナー

三菱食品の商品統括商品開発本部商品企画第一グループマネージャー、伊藤善之氏は「健康という軸は小売店でもラインアップが増えており、冷凍食品でも健康を意識した商品を投入するなど、大手メーカーでも挑戦が広がりつつある。まだ競争が激しくなる段階ではないと思っていて、他のメーカーと共により認知が高まるよう市場を盛り上げていければ」と話す。

また、あるメーカーの担当者は「経済性の合う商品と、付加価値のある商品の二極化の傾向が見られ、小売店でも付加価値商品の配荷を増やせている」と語る。

冷凍食品関連では、日清食品の「完全メシ」や、テーブルマークで展開のフリー食「BEYOND FREE」、三菱食品で提案している糖質をカットした商品群「からだシフト」、野菜をふんだんに使ったスープなどを展開する「GREENSPOON」に加え、味の素冷凍食品が発売した従来品から塩分を40%カットした「白チャーハン」、ニップンで展開のプラントベースのスイーツやワンプレート商品、保育園などに卵・乳不使用のパンを納品しているスタイルブレッドなど、様々なメーカーが取り組んでいる。

〈数量はコロナ以前まで減少するとの懸念も 付加価値提案の可能性〉

冷凍食品市場自体の認知は高まっているが、23年の冷凍食品の販売数量は値上げなどを背景に減少傾向にあった。冷凍食品メーカーの担当者からは「コロナ以前の水準に戻りかねない」との懸念もある。また、高付加価値商品は着実に広がっているものの、節約志向の高まりやコロナ禍の落ち着きなどで販売が減ったサービスもあった。

冷凍食品へのイメージは、「今も安くて便利という印象が強い」(メーカー担当)との声もある。このイメージを打破できる付加価値提案で新たに支持を得ることが、市場の拡大につながるだろう。

〈冷食日報2023年12月27日付〉