セブン-イレブン・ジャパン、デイリーの知見を生かした商品開発【冷食流通インタビュー・CVS】
〈セブン-イレブン・ジャパン FF・冷凍食品シニアマーチャンダイザー米田昭彦氏(まいだ・あきひこ)インタビュー〉
――冷食市場の動向について
冷食は個食や簡便性な度で消費動向の変化に対応し、コロナ期に非常に伸長した。家庭でストックでき、好きなときに食べられるという冷食本来の価値が支持されてきた。その中で人流が増加し、出勤率も仕事も一気に増えて忙しくなっている状況から、調理時間を減らしたいという需要が顕在化して、冷食は幅広いカテゴリーで伸びている。
冷食の市場規模は22年度に1兆2,000億円と聞いている。コロナ禍で厳しかった業務用も戻ってきているが、市販用は今や業務用を上回り、市場を伸ばしている。小売各社も冷食の取扱いを広げているので、冷食市場は23年度以降もしっかり伸びていくだろう。
一方で冷食メーカーからは製造キャパの問題で、旺盛な需要に応えれられない状況も聞く。老朽化しても建て直す投資判断が出来ない工場がある一方で、商機と見た海外の商品が増えたり、新しい商品つくる工場が出てきたりしている状況にあると見ている。
――貴社の冷食の販売状況について
市場の伸びを上回って好調に推移している。トップシールのパスタの販売が伸びたこと、また23年度に冷凍カップ麺を発売してプラスオンになっている。米飯も一食完結型商品が好調で売上げに貢献している。
「7プレミアムゴールド 金のボロネーゼ」は22年に品質に特化したパスタとして発売したが、23年はトップ10に入る売れ筋に成長した。冷凍食品はおいしくないと思っているお客様もまだ多いので、「セブン-イレブンの冷凍食品はおいしいよね」と知ってもらう象徴的な商品として育ててきた。「金の」シリーズはまだ少なく、定番で足元を固めている段階だ。
――メーカー各社の値上げがあった
当社も価格を維持できた商品はほんのわずかで、値上げした商品の動きは区々だ。お客様が求めている価値と価格を考えると同時に、川上まで遡って生産性の向上にも取り組んでいる。工場の稼働を高めるために、我々の数値目標をメーカーとしっかり共有して計画を立てるなどして、コストを抑制できている商品も出てきている。価格を下げるということではなく、適正コストに変えてきたい。
――スーパーでは冷食が集客商品になっているとも言われているが
コンビニでは冷食は薄利多売の商品ではない。冷食は家庭で保存出来て、お店にとっても廃棄が出ず欠品しない点がデイリー商品と違うところだ。またセブンプレミアムでは冷食は計画製造できるので、デイリーとは全く違うコスト抑制ができ、値ごろ感を出せる。
――商品施策について
定番商品をきちんと置きながら、デイリーでは品ぞろえしきれない商品をそろえようとしている。例えば一食完結の米飯では、かつ丼や牛丼ではなく、イーズアップブランドでカルビクッパやコムタンクッパといった家ではなかなか作れないメニューを品ぞろえした。
おにぎりやお弁当などのデイリーメーカーである、武蔵野やフジフーズとは冷凍食品でも取り組みを始めている。こだわりの調理や工程にはデイリーで培った知見があり、そこに冷凍ならではのおいしさを掛け合わせて差別化できる商品を作ることに注力している。
おかづまみやカップ麺がそれだ。冷凍のカップ麺はスープを凍らすだけでは解凍に時間がかかり、ともすると容器を溶かしかねない。それをクラッシュ氷にすることでレンジで6分の調理を実現した。
冷食の売れ筋の一つである、アルミ鍋のうどんもイーズアップブランドで開発した。肉うどんには出汁のクラッシュ氷を入れ、かえしと溶ける順番を変えている。出汁とかえしが混ざり合ったところにトッピングした肉のうまみが溶け込む。冷凍ならではの火にかける調理法がこの段階的な調理を実現している。生の鰹節をのせて全体の味をまとめているのもこだわりだ。
アルミ鍋の肉うどんは昨年秋に発売したが、そのこだわりがお客様に伝え切れていない。アルミ鍋でこうした挑戦をしていることを知ってもらえるように、テレビ番組などの取り組みを実施している。
〈カップデリのヒットが冷食のヒントに〉
おかずはおつまみと惣菜を分けて提案していこうと考えている。家族が食卓を囲むことが減り、1日3食という形も変わってきている。そうした変化に合わせて、用途や量目、品ぞろえを見直そうと考えている。
デイリーのカップデリのヒットはヒントになる。社内で情報交換しながら、冷食でやるならどんなメニューがいいのか考えて、いろいろテストしていきたい。
冷凍スイーツにもチャレンジしたい。昨年はクレープやティラミスの取り扱いを始めた。おはぎは冷凍品を解凍して提供するとおいしく、廃棄も出ない。私はFFも担当しているので、垣根を作らずに考えたい。
またミールキットなどもこれからテストしたい。即食ではない、家の冷蔵庫にあったらうれしいという世界を、冷食としてアピールしていきたい。
――販売施策について
まとめ買いで値引きする販促は行っているが、新しい商品のこだわりを伝えるプロモーションに地道に力を入れていくことに軸足を置いている。テレビ番組での紹介もそれが狙いだ。
テレビ放送後は非常に売れる。値引きしても売れるといえば売れるが、やはり冷食がおいしいことを伝えていきたい。おいしさを伝えられる商品開発をしていくという意志を強く持って取り組んできたが、今年もそれは同じだ。
23年度はどうしても価格の話が多くなってしまったが、新商品の投入によって数量も前年並みを維持した。今後も新しい商品を出し続けなければ、数量は前年割れになると思う。来店1000人中30人しか冷食を買う人はいないのが現状だ。間口を広げる取り組みをしていく必要がある。
〈SIP ではCVS でできなかった品揃えも〉
――他のCVS との差別化について
各社、冷食には力を入れていると感じる。当社の場合は売り場を広げたのが早かったこともあり、いまは冷食のケース2台、アイス1台が標準となっている。商品を置くスペースが広く、品ぞろえは比較的充実しているのではないかと思う。少ない店で80アイテム、標準店で100アイテムを品ぞろえしている。
品揃えの点では、イーズアップはヨーカ堂が作ったブランドだが、コンビニでも一食完結型の米飯をはじめとして、取り扱っているのも特徴だ。
コンビニで取り扱うと、従来の委託工場では生産キャパが不足するため、委託先をデイリーメーカーに切り替えた。生産規模の拡大によるシナジー効果も出ている。
生産については、もともと当社の規模に対応できる委託先を探すのが難しいのだが、冷食工場のラインは生産品目が固定化しているので、新しい需要への対応が難しい現状がある。そのため関係の深いデイリーメーカーに委託生産の軸足を移している。現在、大規模な冷食専用工場が武蔵野とフジフーズとで2工場(群馬・茨城)ある。
相乗効果はアルミ鍋商品にも言える。アルミ鍋うどんは従来、ヨーカ堂ではチルド商品として作っていたが、廃棄ロスなどの問題で、23年に取り扱いを廃止する方針があった。冷凍のアルミ鍋商品に切り替えようとしたが、委託先メーカーの生産キャパが不足していた。デイリーメーカーで作ることになった経緯がある。これらの共同開発において、ヨーカ堂は原材料など川上の知見が深いので、勉強になっている。
2月末に新フォーマット店「SIP ストア」(SIP=セブン‐イレブン イトーヨーカドー パートナーシップ)を開く。ヨーカ堂の知見を取り入れて生鮮や冷凍食品を広げたテスト店になる。
フードデザート問題(=生活環境の悪化のなかで健康的な食生活の維持が困難となった都市の一部地域)と言われる現象もあり、生活環境の変化が起きており、コンビニにはチャンスがある。SIP では冷凍肉や刺身、焼き魚、素材品など、これまでのコンビニでは売り場がなくてできなかったものをテストしたい。
〈冷食日報2024年2月19日付〉