グリッド、冷凍食品の需給管理自動化システムを日清製粉ウェルナと開発

〈担当者の「経験」をシステムに落とし込み業務時間を大幅削減〉
AIを用いた冷凍食品の需給管理自動化システムを日清製粉ウェルナは導入し、業務時間の大幅削減を実現したという。このシステムを開発したのが、AIを用いた最適化システムの開発・販売などを手掛けるグリッド(東京都港区)だ。
2年以上の歳月をかけて、現場の感覚的な業務をシステム化した。人の手が介在する余地を残すことで、急な需要の変動などのイレギュラーな事象にも対応できるようにしている。プロジェクトを担当した、コンサルティング部コンサルティンググループの稲葉健太氏に聞いた。

グリッドはAIを活用し、オペレーションの最適化などにつながるシステムの提供などを行っている。電力・エネルギーや海運、サプライチェーン、都市交通など様々な場面で採用されているという。
こうした取り組みは、欧米や中国などでは導入が進みつつあるようだ。稲葉氏は「物流のアマゾンなどで導入が進み、注目されている分野だ。一方で、日本ではAIといえば画像認識や音声処理、自然言語処理、最近では生成AIなどのイメージで、AIを活用した最適化についてはまだ浸透しきっていないと思っている」と話す。
今回は、日清製粉ウェルナの工場における需給管理の自動化システムを構築した。稲葉氏は「当社の取締役が登壇したセミナーをきっかけにお話を頂いた。日清製粉ウェルナ社としても課題に感じていたようで、業務ルールの言語化などを進めながら開発していった」と振り返る。
工場では、受注や出荷、在庫などのさまざまな情報を元に、計画的に冷凍食品を生産している。完成品は各地の倉庫を経由して店舗に納品されるが、安定的な製品供給のため需要や各倉庫の在庫の状況に応じて別の倉庫へ製品を転送することもある。
これまで日清製粉ウェルナでは、冷凍食品の需給管理と配送に関する各計画の立案を、専門の担当者が担っていた。しかし、これらの計画予測の組み合わせは約1,800パターンにものぼるほか、担当者の経験などに拠る部分も大きかったため、担当者の負担は大きく、業務の自動化が強く求められていたようだ。
そこで、日清製粉ウェルナで培ってきた業務ノウハウと、グリッドのAI技術を組み合わせ、需給管理の自動化システムを開発した。
稲葉氏は「食品メーカーは多くの製品を抱えており、製品ごとに製造できる工場と、できない工場が違う。また、販売エリアや製品ごとの特性などで条件はかなり変わってくるため、手作業だと職人技のようになっていた。それを踏まえながらいかにAIに置き換えられるかを考えながら進めた」と語る。
今回開発したシステムは、担当者が従来行っていた実際の作業工程をAIシステムに落とし込み開発された。需給計画(製造計画)や在庫転送計画の自動策定が可能となったとする。
このシステムは、過去の出荷実績と受注実績から月次の販売数量の着地見込表を作成し、その見込表と現在の在庫数や工場の稼働スケジュールに従った需給計画を策定できるという。
また、各倉庫への配車依頼台数を決定する配車計画や、倉庫間の在庫移動数を決定する在庫転送計画が策定され、必要な配車台数は在庫状況に応じて随時更新される。そのため、どの製品を、どの倉庫からどの倉庫へ、何ケース送るかをシステムで自動計算できるとしている。
2024年10月から運用を開始した。従来ならば計画の策定に3日程の時間を必要としていたが、システムの導入により1日程度で策定できるようになったという。また、日々の在庫転送の明細作成時間も約2時間から約45分に短縮され、合計で月間50時間程度の業務時間削減が実現したようだ。
また、システムによって立案された計画は、担当者が使い慣れた形式で出力され、日々の状況変化に応じて担当者自身で修正することもできる。意図的に人間の介在余地を残したことで、急な需要の変動などのイレギュラーな事象にも柔軟に対応できるようになっている。
稲葉氏は「プロジェクトとしては2年以上の時間をかけて取り組んだ。試行錯誤を重ね、より実用的なシステムに改善できたのでは」と振り返る。

〈AIは多様な課題に対応できる可能性、様々な改善に貢献か〉
AIを活用した最適化によって、業務時間の大幅削減につなげたグリッド。しかし、AIにも限界はあるようだ。稲葉氏は「AIは決して万能ではなく、例えば、計算時間にも制約があり、機能を突き詰めても計算に最短3時間かかるところを、3分で行うのは、それは絶対にできない。リソースの範疇で、できることと、できないことはどうしてもある」とする。
ただ、様々な分野で活躍できる可能性もあるようだ。稲葉氏は「今回はサプライチェーン・マネジメントの分野でウェルナ社とご一緒させていただいたが、最適化というくくりならば、原料調達や製造といった他の分野でも最適化の余地はある。AIは、多様な課題に対応できる、柔軟性が高い技術であると感じている」と語る。
労働人口の減少などで、人手不足は今以上に悪化する可能性がある。その中で、業務改善や効率化につながる取り組みはより重要になるかもしれない。
最後に、稲葉氏は企業ごとに課題は異なるため、個別に相談することで、それぞれの課題解決につながるシステムの導入を検討する企業も増えているとする。「『AI』や『最適化』というフレーズはあまり耳馴染みのない言葉なので、ハードルが高く感じられる方は多いかもしれないが、これらは課題を解決するための手段の一つでしかないので、まずは相談していただけたら」と話した。
〈冷食日報 3月11日付〉