9基の蒸溜器を所有する佐多宗二商店が「蒸溜セミナー」
焼酎「晴耕雨読」「不二才」などで知られる同社の代表取締役佐多宗公氏は、「焼酎は3つの文化で成り立っている」と話す。ひとつは日本古来の「麹の文化」。
そして中国から伝わってきた原料となる「芋の文化」。さらに、メソポタミア文明時代に生まれ15世紀にヨーロッパで確立された「蒸溜の文化」だ。日本、中国、ヨーロッパ、3つの文化が交じり合って生まれた焼酎だが、酒税に寄与しなかったこともあり、清酒と違って焼酎の研究はあまり進まなかった。20年ほど前からようやく、麹や酵母の研究が始まったが、「焼酎は蒸溜するから、ほとんど味は変わらない」と言われ、蒸溜については軽視されていた。
だが、2000年代に焼酎「刀」をヨーロッパに売り込みに行ったところ、ヨーロッパの造り手から「酒質は蒸溜器にあることを教えられた」と佐多氏は振り返る。2005年にフルーツブランデーの造り手ジャン・ポール・メッテ氏と出会ったことが契機となった。
蒸留の回数により、エージングできる期間が変わることも知った。「甕に入れて長期熟成させた焼酎はまろやかになるが、へたっているともいえる。通常の直接加熱で一回蒸溜だと、飲み頃はすぐに終わる。腰が強く、50年へたらない蒸留酒こそ、あるべき姿だと思う」。
昔から、もろみの粘度が高い芋焼酎には「直接加熱蒸溜」が使われる。同社では、サイズや形が異なる5基の直接加熱蒸溜器を所有するが(一基は常圧・減圧兼用蒸溜器)、2006年にはイタリアのグラッパに使われる蒸溜器2基4台を導入。「間接加熱蒸溜」の手法も取り込んだ。2008年には、ドイツのアーノルド・ホルスタインへオーダーメイドした蒸溜器を追加。さらに昨年、フランス製のガスバーナー直火式蒸溜器も加えた。9基の蒸留器を所有する蒸留所は世界でも稀だ。
〈「蒸溜」を追求することで、無限の可能性が生まれる〉
セミナーでは、同社部長中原章仁氏がそれぞれの蒸溜器について、造りや特徴を説明した。「同じレシピの料理でも、火加減や使う鍋によって味わいが変わるのと同じ。蒸溜こそ、焼酎の醍醐味」。イタリア製の6・7号機は、クリアで軽い仕上がりになり、柑橘系に向いている。また、ドイツ製の8号機は、もろみの香りを忠実に表現した造りに。9号機は「まだ使い始めたばかりなので試行錯誤している」が、蒸溜×蒸溜時間×ボタニカルの組み合わせは数限りなく、無限の可能性を秘めている。
同社では昨年末より「赤屋根製造所」ブランドとして、同社が造る芋焼酎をベースにボタニカルを浸漬して蒸溜した「AKAYANE ボタニカルスピリッツ」、「AKAYANE オー・ドーヴィー」、ひとつの蔵で発酵・蒸溜・瓶詰した「シングル焼酎ディスティラリーオブスピリッツ」の3ラインを展開。「ボタニカルスピリッツ」は、4回の蒸溜過程を経て製品化。ジュニパーベリーのみを使った「クラフトジン」のほか、「山椒」や「生姜」などを展開。いずれもボタニカルは国産の無農薬・有機栽培・無化学肥料。「オードヴィー」は、同社が造る「角玉梅酒」に漬け込んだ梅を破砕し、ワイン酵母で発酵させ、フレンチオークの新樽とコニャックの古樽で寝かせて造った。「シングル焼酎」は、間接蒸溜の焼酎と直接蒸溜の焼酎、かめ壺貯蔵焼酎などをブレンドした。今後は「オリエンタル」シリーズという名で、クミンやフェンネルなどのスパイスを漬け込んだスピリッツや、6つのボタニカルを使った「春」などの新商品、さらに梅に続くオードヴィーの開発も予定する。
〈酒類飲料日報 2018年3月12日付より〉
佐多宗二商店 の蒸留器9基の特長
AKAYANEシリーズ価格表