【最終コーナーに向けて】ビール4社の営業トップに聞く〈3〉サッポロビール取締役常務執行役員営業本部長・野瀬裕之氏
――1~9月の販売実績を振り返って。
まずビールだが、「黒ラベル」が101%、「ヱビス」が前年並みだ。「クラシック」はインバウンド需要も取り込み、かなりのボリューム感になっている。業務用専用商品である「赤星」も好調だ。業務用専用の樽生も順調で、いわゆるビールというカテゴリーで複数のブランドをマネジメントして、お客様にポートフォリオとして提案できている。
これは10年前から“ビール強化”を掲げてきたことの成果だ。2010年というと、各社、新ジャンル市場が基軸ブランドが揃うことである程度固まるなか、当社は「ヱビス」とあわせて、全社的にビール、特に「黒ラベル」を活性化するという方針をとった。目に見えるコミュニケーションでいうとCMで「大人エレベーター」シリーズを放映開始した。ビール市場がシュリンクするなか、この4、5年、当社のビールは成長を続け、4社のなかでも特筆すべき数字を出している。
その根拠を考えるに、10年前は新ジャンルが順調に伸びて、黎明期から5、6年経ったときで、“各社ビールは集中化だ”といわれた時代があった。しかし、その後、市場はクラフトビールの成長などを背景に、“ビールは多様なものを受容する”という方向にお客様が変化していった。ビールのマーケティングにダイバーシティが入り込んできた。「黒ラベル」「ヱビス」「クラシック」「ラガー」など、そこに当社のセグメンテーションされた、個性的なポートフォリオが当てはまった。
メガブランドの苦戦は海外有力ブランドを見ても鮮明だ。バドワイザー、ミラー、クアーズなどおしなべて苦戦し、一方でリージョナル個性派ブランドが台頭している。ミレニアル世代がクラフトビール人気をけん引していることが大きな要因だ。
「黒ラベル」は長期低迷していたが、この4、5年は連続して成長している。特に西日本(中四国・九州エリア)では、缶製品の売上げが10年前に比べて約3倍になっている。“黒ラベルがカッコいい”と、20代後半~30代の今まで手に取っていなかった若い方の支持を頂いている。その意味で、ビール業界の中でブランドが若返った初めてのケースではないか。
これは、業務用でタッチポイントを増やしていることの成果でもある。サッポロ生ビール黒ラベル≪パーフェクトデイズ≫やパーフェクトスターワゴンなどを毎年開催し、今年は7月に銀座に「サッポロ生ビール黒ラベル THE BAR」をオープンした。リアルな体験をしてもらうことで、ブランドの世界観を理解して頂いて、支持を頂ける仕組みが出来始めている。
――新ジャンルはいかがですか。
課題は新ジャンルだ。市場は一時期伸び率が落ち着いていたが、クオリティがどんどん進化している。競合品が出ることによって、その傾向が一層強まった。局面が変わっており、新ジャンルの“おいしさ”というところで、もう一度、真正面からクオリティの高いものを提案していくという競争に若干、遅れをとったことは否めない。8月末に「麦とホップ」をフルスペックリニューアルして、計画どおり推移している。
私はこのたびの新ジャンルの競争を、「第二次おいしさ競争」と規定している。これは先に述べたとおり、08年、09年くらいに各社の基幹ブランドが出揃い、それ以降、17年くらいまでは糖質オフやプリン体ゼロなど、機能系に幅が広がる時代だった。新カテゴリーで市場形成ができて、次にセグメントに分かれていくというのは、いわばマーケティングの教科書的な推移だ。いまは多層化したものが、また本質に戻るという段階だ。新ジャンルは酒税増税になり、価格は上がらざるを得ない。なおさら、市場では「さらにおいしいもの」が要求されるし、実際まだまだおいしくなれる。当社も負けないレベルの品質を提案していく。
さきほどビールは多様性の方向と述べたが、新ジャンルは逆に定番化が進む。リーズナブルな価値を提供する商品であり、ある意味、集中化するとみている。
もうひとつ、重要な視点は、新ジャンルが誕生してからすでに15年が経過しているということだ。当時30歳で「本当はビールが飲みたいけど新ジャンルで我慢」という時代から、生活の定番になっていった方も既に今45歳だ。もう一回、更においしさに気づいてもらうことが重要だ。15年という歳月は重みがある。新ジャンルのメイン世代は50歳になっている。今回、「麦とホップ」のコミュニケーションを50歳代に当てた所以だ。
――RTD、洋酒はいかがですか。
RTD市場は毎年堅調に伸びている。当社のRTD全体でも1~9月で5割強の増だ。RTD市場は“食事と合う”という価値が急速に広まっており、年配の方にも支持を受け始めている。「99.99(フォーナイン)」は研ぎ澄まされたクリアなうまさが特長。食中酒のニーズに焦点を当てて、後味シャープで甘味を強く感じないという設計にしている。一方で、当社は「男梅サワー」という梅に特化した商品が大きな支持を得ている。また、市場ではレモンフレーバーが伸びており、「レモン・ザ・リッチ」もレモンフレーバーで3種類揃え、様々な味わいを提案している。
バラエティということでは、料飲店でドリンクの幅広い品ぞろえがあるということは、間違いなく売上貢献する。ビールにしても複数種類取扱いがあったほうが杯数が上がる。同じものだとどうしても飽きてしまうからだ。一般的に酒類のマーケティングは“業務用→家庭用”だが、RTDには“家庭用→業務用”という流れもある。「男梅サワー」などがそうだ。家庭用のRTS「濃いめのレモンサワーの素」もCVSで採用が決まるなど、大変好調だ。
〈現場は確信を持って取引先との課題解決へ〉
――消費増税後の需要対策は。
まずは、プロモーション型の新商品投入、これが基本戦略だ。ビール類では、家庭用ではいくつかの限定商品を、業務用でも、複数のドリンクを提案する。先に述べたとおり、ビールは多様性のあるマーケットであり、一つひとつに意味を持たせ、状態の良い品質で提供する。また“おいしい”に加えて“たのしい”というエンタテイメント性も必要だ。「パーフェクト黒ラベル」の飲用体験は更に進化していく。
――第4四半期ですが、現場に伝えることは。
増税後の需要減退を、業務用でも家庭用でもお得意先様と一緒になって課題解決すること。どうしたらお役に立てるか考えてほしい。エンドユーザーに刺さるプロモーションも用意するので、しっかりと歯車を合わせてほしい。
大事なことは、営業が本気になること。ビールではこの10年の取り組みの成果が数字に表れている。ぶれることなく、確信を持って気持ちを伝えることが、最終的にお客様に伝わる。お得意先様と課題解決に向け真摯に取り組んでほしい。
〈プロフィール〉
野瀬裕之(のせ・ひろゆき)1963年生まれ、福岡県出身、九州大経済卒。1986年サッポロビール入社、2000年商品開発部グループリーダー、07年新価値開発室長、11年焼酎戦略部長、12年ヱビスブランド戦略部長、13年ブランド戦略部長、15年サッポロホールディングス取締役戦略企画部長、19年3月サッポロビール取締役常務執行役員営業本部長。
〈酒類飲料日報 2019年10月30日付〉