日本酒「いづみ橋」の泉橋酒造、コロナ禍で打撃もネット活用と新商品が奏功、反転攻勢へ/橋場社長インタビュー

泉橋酒造 代表取締役・橋場友一氏
泉橋酒造(神奈川県海老名市下今泉)の銘柄「いづみ橋」は、神奈川県を代表する地酒のひとつだが、このコロナ禍で、大きな打撃を受けていることは他の酒蔵と同様だ。緊急事態宣言下にあった4月は「当社は卸部門で約7割を占めるが、そこが3分の1になった」。しかし全体の売上は半分に抑えた。その理由を「近年、販売業態と販売方法の間口を広げてきたことと、ここの時期に、ちょうど、新商品の発売が重なったことで、助けられた感がある」と話す。

まずは、ネットショップ(通販)の売上だ。実に平年の1年間分の5割を4月だけで売ったという。毎土曜日に開催を続けてきた蔵見学会が財産となった。リストをもとに、2月に「とんぼメールクラブ」を立ち上げていた。「ここからメディア的に日本酒を発信していこうと思っていた。実際は当社製品を購入してもらう場になってしまっているが」と笑う。

折から、SNSでの組織化も進めていた。Facebookのフォロワーは1万人いて、そこからYouTubeの公式チャンネルに誘導できている。4月10日には、例年なら「甑倒し」(お米の蒸し器である甑を仕舞うこと。その季節の造りの終了を意味する、おめでたい日)を社員で祝うのだが、2020年はYouTubeでライブ配信した。密集をさけるため、宴会は中止となったが、「蔵人とトークセッション」も行うことで、大いに盛り上がったという。

次の「偶然」が、秋冬だけでなく、蔵の稼働率を上げるために、日本酒以外の開発・製造に取り組んでいたことだ。まずは同社初の単式蒸留焼酎の製造。昨年5月に製造免許を取得していた。4月13日に、粕取り焼酎「あますことなく」の初リリースにこぎつけた。タイミングは悪いといえば悪いが、折しも厚労省の規制緩和を受けて、すぐに医療用向けの限定スピリッツ免許を取得し、焼酎原酒を、医療用高濃度エタノールに再蒸留。海老名市の要請を受ける形で、市に販売した。

次に、2年前から準備してきて、こちらも5月に正式発売にこぎつけたノンアルコールの「糀甘酒」だ。非アルコール商品で、顧客の層が拡がり、食品としての新たな取引が増えた。また、医療用エタノールとの関連で、介護施設や、保育園など、今まで「酒」ではつながりを持てなかったルートの開拓も見えてきた。

無論、以上のことは、ただの「偶然」ではない。経営努力に裏打ちされてこそ「運」を手繰り寄せたのだ。4月を底と考えれば、6月からの反転攻勢が見えてくる。

2016年7月に海老名駅近くにオープンした直営レストラン「蔵元佳肴 いづみ橋」も6月2日に再開する。輸出も発注が始まっている。6月7日には、人数を絞ってだが、恒例の自社の圃場での田植えイベントも行う。「コロナに負けないで頑張ろう、気持ちだけはポジティブに」と溌溂と前を向く。

〈泉橋酒造〉
安政四年創業、橋場友一社長は六代目にあたる。「酒造りは米作りから」を掲げて、原料の米作りから醸造まで一貫して手掛ける「栽培醸造蔵」だ。麹を手づくりとしていること、生酛造りを中心としていること、搾りも伝統的な槽(フネ)で行っていることなど、日本伝統の酒造りを墨守しつつ、かつ年間1,000石という決して少なくない量を生産し、県内外に出荷するという、稀有な酒蔵である。

〈酒類飲料日報2020年6月2日付〉