業務用卸酒販店・佐々木、マイナスからのスタートライン、価値を届ける利益構造目指す/佐々木実社長インタビュー

佐々木社長
業務用卸酒販店・佐々木代表取締役社長で、全国酒類業務用卸連合会(業酒連)会長代行も務める佐々木実氏。コロナウイルス感染拡大を受け、料飲店の営業自粛が広がる中、4月7日の緊急事態宣言発令後、一番に動いたのが業酒連だった。

街場の居酒屋からホテルの宴会まで、業務用ビールの需要が激減する中、4月上旬にはビールの返品対応を開始。そして5月後半には、緊急事態解除の「Xデイ」に向け、前倒しでビールの納品とディスペンサーのクリーニングに走り、料飲店の営業再開を支援した。

とはいえ、料飲店の営業自粛が広がる中、業務用酒類需要は4月から5月、前年比8割減まで落ち込んだ。

緊急事態宣言が解除され、都心には徐々に人が戻ってきたが、それでもまだ「接待や宴会などの“社交”が戻ってきていない」以上、6月も6~7割減を覚悟。年間を通しての着地見込みは、「4割減に留まるかどうか」と見る。

「コロナウイルスはこれまで経験のないことなので、手の打ちようがない。販売者と造り手との直取引が進む流れもある。問屋のメリットが与信管理以外なくなると、業務用酒販店の存続自体が厳しい状況」と危惧する。

営業自粛解除は、「新たなスタートライン」だ。「しかもマイナスからのスタートとなれば、さまざまな業態で淘汰が進むだろうが、数年かけて新しい市場構造の在り方を構築したい」。

〈「酒の文化を伝えるのが酒屋の仕事」、秋には希少酒の量り売りを開始〉
生ビールが売上げの過半数を占める業務用酒販店は多い。だからこそ、今回のように業務用市場が完全にストップすると、多大な影響を受けることになる。

同社は、「事業の根幹をなすものは、決して安売りしてはいけない」との信念の元、「“数を売る”からの脱却」を目指し、「価値を届ける利益構造への変革」を図ってきた。同時に、「ビールに依存しない体制づくり」「幅広い提案力を持つポートフォリオ構築」を進めてきたこともあり、4月の売上げは2割減に収めることができた。

所有する2つの日本酒蔵「越後鶴亀」「峰乃白梅」もこの状況下、「越後鶴亀」は「ワイン酵母仕込み」が前年比50%増、「峰乃白梅」も新銘柄「菱湖」が好調に推移するなど、健闘した。

さらに、「苦戦を強いられている時こそ、チャレンジが必要」と、3月には造り手・流通が共にWin-Winとなるコンセプトで開発した純米大吟醸酒「Simplex」(希望小売価格1万円)を「峰乃白梅」からリリース。海外市場を見据え、ボトルサイズは750ml。クロージャーにはヴィノロックを採用した。「愛山」を35%まで磨いたのも、初の試みだ。また、「越後鶴亀」でも人気商品「ワイン酵母仕込み」の酵母バリエーションを増やす方向で開発を進めている。

日本酒と並ぶ柱として育成中のワインにおいては、最大の課題である不良在庫について、「在庫ロスを出さないシステム」構築に向けての取り組みを開始した。

ソーシャルディスタンスが要請された数カ月、オンラインによるコミュニケーションが急速に普及したが、「オンラインには、“匂いがない”“肌感がない”、さらに、(リアルミーティングならではの井戸端会議で)“耳から情報が入らない”。食品を扱うものとして、これは致命傷」と懐疑的だ。「こんな状況下だからこそ、肌で感じる情報がますます求められるのではないか」。

秋から新たな取り組みとして、入手しづらい日本酒や焼酎、ウイスキーなどを、店頭で100mlから量り売りする構想を進めている。

「スーパーやコンビニでは買えない、ギフト需要で送っても飲んだことがない、そんなお酒を集めて、みなさんに自宅で楽しんでもらいたい」。リアル店舗からの発信には、それこそ「匂い」や「肌感」、そして「耳からの情報」がある。かつて日本酒は、酒屋で量り売りされていた。「酒の文化を伝えるのが、酒屋の仕事」との思いが、またひとつ形になる。

〈酒類飲料日報2020年6月17日付〉