JFOODO「魚介類に最も合う食中酒は日本酒である」を世界各地で一貫して訴求/大泉裕樹事務局長インタビュー
コロナ禍で世界中が混乱した1年となったが、メーカーや輸出業者、業界団体が現地でのプロモーション活動に腐心した結果で、暗い話題が多いなかでも一つの希望の光となった。
中でも2020年、日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)は「魚介類と日本酒の相性の良さ」を前面に押し出したプロモーションを世界各地で実施した。2020年12月から米国とフランス市場向けに「Unlock Your Palate(味覚を開放する)」としたコンセプトのプロモーションを実施し、現地での需要を喚起した。
今回は同センターの事務局長である大泉裕樹氏に取組の背景や詳細、成果などを聞いた。
日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)・大泉裕樹事務局長
――プロモーションを実施する背景を教えてください
ここ最近、日本酒の輸出金額はよく知られている通り増加を続けており、今回プロモーションを行った米国では2019年まで5年間の平均成長率は11%増、フランスでは18%増となっている。とはいえ、現地のアルコール飲料市場におけるシェアを見てみると、清酒はアメリカでは0.1%、フランスでは0.03%にとどまっている。
また、「日本酒は知っているか」と聞いたところ、74%が「知っている」と答えたが、「どんなアルコール飲料を知っているか」と聞いたところ、「日本酒」と答えた消費者は2%にとどまっており、いわゆる「純粋想起率」の低さが課題となっている。
日本酒が選ばれるまでには3つの課題がある。
〈1〉取扱店舗が少ないためそもそも発見されない
〈2〉お酒のカテゴリーを選ぶ段階で日本酒が想起されない
〈3〉日本酒を選ぶ段階で、消費者やソムリエに日本酒の知識が無く、法的記載事項の記載しかない裏ラベルをみても選べない
――という課題である。
〈1〉については、日本酒を取り扱う外食店舗を増加させる活動を進めている。これまでに米国や欧州で30回以上、約900人のレストランオーナーやソムリエに対して取扱い開始に向けたセミナーを実施した。
〈3〉は、どういった情報を裏ラベルに載せればよいかについて欧州で調査を行った。欧州で人気の酒類のラベルの分析や専門家への聞き取り調査を経て、2019年8月に日本酒の輸出用「標準的裏ラベル」を開発した。
〈2〉だが、これを解決するために今回のプロモーションを行うこととなった。「魚介類に最も合う食中酒は日本酒である」という新たな連想関係を創り出す活動だ。
――プロモーションの詳細を教えてください
日本酒は「魚介類の生臭さを発生させにくくする機能」と「うま味を増幅させる機能」を持ち合わせる点で、白ワインに対して優位性を持つ。具体例を出すと、イワシといった青魚やイクラなどの魚卵などは、魚介類に合うと言われている白ワインでも合わせづらいことがあるが、日本酒は魚介類の生臭さを発生させる原因となる鉄分をほとんど含まないほか、魚介類の生臭さを感知するレセプターを塞ぐため、しっかりとペアリングを成立させることができる。
加えて、日本酒は白ワインの5倍以上アミノ酸(うま味成分)を含み、魚介類に含まれるうま味成分との相乗効果でうま味を増幅させることができる。また、「うま味」は日本で発見されたものだが、すでに世界中で認知されている。
そこで現地での消費をさらに活性化させるべく、和食のみならず「魚介類に最も合う食中酒は日本酒である」というポジションを確立させることを目指し、理解・納得をしたうえで他者に推奨する消費者を増やすことをコミュニケーションのゴールとした。
また、「“うま味”でペアリングを楽しむ」という概念を普及させ、魚介類には日本酒を合わせることが一番であると実感させることも目指した。
キャッチコピーは「UNLOCK YOUR PALATE(味覚を開放する)」。魚介類と日本酒を食べ合わせることによる「新しい味覚の解放」を表現したものである。
――施策の内容は
ニューヨークでは、インフルエンサーやオピニオンリーダーをはじめとした現地の方々に対し、ペアリングセットを保冷機能付きのフードロッカーで提供。フードロッカーを「アンロック」することもキャッチコピーにかかっている。また、ペアリングセットを監修したのは現地で知名度が高いシェフのヨハン・スヴェンソン氏。話題性の確保にも努めた。
この体験をより豊かなものとするべく、ペアリングに合わせた動画も制作した。動画内では蔵元も出演しており、日本酒に込められた想いや歴史を学ぶこともできる。
ペアリングに合わせたプロモーション動画
――現地の方はどう評価されていましたか
「コロナ禍で行動制限がかかり、食に関する楽しみが少ない中だったので、フードロッカーを使って日本酒に合うペアリングメニューを受け取るという体験はとても楽しかった」「うま味の増幅でペアリングを選ぶという概念は新しくイノベーティブだ。実際に体験してみても楽しく、新しい発見だった」と高く評価いただくことができた。動画についても好評で「自宅にいながら、今飲んでいる日本酒が作られた酒蔵に連れて行ってくれる動画はとても楽しく、日本酒や酒蔵への理解が深まった」とコメントを頂いている。
――今後の展開は
我々は2017年に発足し、米国、英国、フランス、香港、台湾、シンガポール、中国の各地で日本酒のプロモーションを行ってきたが、どの地域でも一貫して「魚介類に最も合う食中酒は日本酒である」というポジションを獲得することを目指してきた。今後もこの軸は変更せずにプロモーションを進めていくつもりだ。とはいえ、新型コロナウイルスの影響は無視できない。各国の影響を考慮した上で、施策を進めていく。
――農林水産省が2025年度の日本酒の輸出金額を600億円と定めましたが
達成可能だと思っている。先ほども述べたが、マーケットシェア、純粋想起率ともにまだまだ低いにも関わらず、2020年は240億円に到達している。今回紹介したような取組を継続して行う他、取扱い店舗をさらに拡大させることで実現可能であると信じている。
輸出を手掛けるメーカーも、プロモーションを行うだけでなく、取扱店舗拡大に向けたクロージングまでしっかりと実行するなど、現地での活動を活発化させれば決して達成できない話ではない。当然我々としても支援していく。プロモーションを活用しつつ、さらに拡大させていければと考えている。
〈酒類飲料日報2021年3月25日付〉