村重酒造・金子圭一朗杜氏 “絶滅した”「きょうかい8号酵母」の可能性を追求、「Makuake」でも話題に【クローズアップ】
ただし基本的には日本醸造協会が頒布する「きょうかい酵母」を使用する蔵が多い。その「きょうかい酵母」にもさまざまな種類があり、6、7、9、10号など、2022年6月現在で20種類ほどが頒布されている。
さて、これを見て「8は?」と思われる方も多いと思われるが、「8号酵母」は昭和52年に「濃醇多酸な酒質となりやすい傾向があり、時流にそぐわない」として、頒布が中止されてしまっており、同協会に資料として残されている程度だ。
その「絶滅した」とも言える「8号酵母」の可能性を探り、ひいては日本酒業界のさらなる発展を図ろうとするのが村重酒造(山口県岩国市)の金子圭一朗杜氏だ。
村重酒造・金子圭一朗杜氏
経歴も異色で専門の教育を受けたわけではなく、もともとは東京の飲食店に勤務していたという。その際にたまたま参加したワインスクールの日本酒講座の講師が同社の前任の杜氏だった縁で日本酒業界に飛び込んだ。
「最初は飲食店と蔵人の兼業で、東京と岩国の往来を繰り返していた時期もあった。3年前に岩国に移住し正式に当社の社員になり、それから少しして酒造りの責任者である杜氏に就任した」という。
現在は前述の通り「8号酵母」の可能性を広げるたびに日々奮闘しており、その取り組みの一環で生まれたのが、アタラシイものや体験の応援購入サービス「Makuake」でも話題となった「eight knot」だ。
同シリーズは「8号酵母」の持つ特性を最大限に引き出せる醸造法とは何かを考え、常に新しい酒質に挑戦しつづけ、毎年の進化が楽しめる日本酒。
金子杜氏によると「Makuakeで同シリーズの“白練”と“藤黄”を発売したところ初年度から大きな反響があり、“8号酵母=村重酒造”というイメージ作りを大きく進展させることができた。“進化が楽しめる”とあって、自分の考えとお客様のご意見を反映させながら酒質の変更を図っており、発売1年目は“味わいをもっと重厚にした方がいい”という意見を頂いた。これは自分が考えていることとマッチしており、2年目は麹の割合を増やし、水の割合を減らすことで味わいをさらに重厚にし、1年目よりもさらに高い評価を頂くことができた。ただし“少しアルコール度数が高い”という意見もあったので、次回は味わいのバランスを保ちつつ、アルコール度数13%程度の低アルコール原酒の設計としたい」と話した。
また、現在一般的には用いられていない酵母で、金子杜氏の取組を見た他の蔵が興味を持ち、8号酵母の特性や扱い方を聞かれることがあるという。その際も得られた知見や特性などは隠さず開示しており、8号酵母の可能性の拡大および日本酒市場の活性化に意欲を燃やしている。
【金子圭一朗杜氏プロフィール】
(かねこ・けいいちろう)=昭和59年生まれ(39歳)。2019年11月村重酒造入社、2019年11月杜氏就任。 座右の銘は渇して井を穿つ。米の吸水状況を見極めることは特に自信があり、酒造りの楽しい時間のひとつ。趣味は筋トレと全国の酒蔵巡り。 同社には日本最大の杉玉「玲瓏」があり、多くの観光客も訪れているが「自分自身含め、当社の社員とボランティアの方たちとともに作ったもの」とのこと。
日本最大の杉玉「玲瓏」
〈酒類飲料日報2022年6月28日付〉