ビール類税制一本化のスタートは延期が濃厚、政治に振り回される構図続く

昨週末から複数の一般紙が「ビール系飲料の税制見直し延期」と報じた。断定した書きぶりから、いわゆる観測気球的なものではなく、官邸や自民税調実力者の発言の可能性が高い。税は政治そのものだから「一寸先は闇」とはいえるが、現段階では、来年度の酒税改正の可能性は極めて低くなったといえるだろう。

【解説】「本丸」のビール系を見直さないのであれば、当然、ワインや低アルコール飲料などもいじれるはずがない。「平成28年度酒税改正待ったなし」と言われていたのにどうしてこのような経緯となったか。大きな原因が「時間切れ」だ。食料品その他への「軽減税率」をめぐる水面下での自公の綱引きが尾を引いた。軽減税率の制度設計には、まだまだ膨大な時間がかかるといわれる。また、配偶者控除の見直しなども結論に至っていない。

あるビールメーカー幹部は「そもそも昨年の税制改正大綱で“速やかに結論を得る”とされていたことから、春先から業界団体やメーカーにヒアリングなり打診なりがあると思っていた。ところが、全く音沙汰なし。夏からは安保法制の混乱があり、ずっとうやむやになってきた」と振り返る。

追い打ちをかけたのが、軽減税率について、財務省によるマイナンバーを使った還付制度の導入の画策と撤回、という形で混乱が生じたこと、加えて、もともと財務省寄りで、軽減税率導入に難色を示し続け、公明党との交渉を決裂させた野田毅自民税調会長の更迭が決定打となった。「野田会長は口を開けば、ビールは本来のものが飲まれていないので、統一すべきと発言してきた。野田会長のリーダーシップという重しがなくなったので、次期会長はそれに合わせる必要もなくなったのでは」(業界筋)との見方もある。安倍総理と野田会長との財政再建に対する考えの齟齬が背後にはあるだろう。安倍総理の政治信条はなにより憲法改正である。来年の参院選での公明党との選挙協力なしに憲法改正はない。安保法制混乱による支持率低下がそれに拍車をかけている。

今回の更迭を機に、自民税調はその威厳をなくし、今後は税制は官邸で、ということになるのかどうか分からないが「酒類の税率格差の是正」という方向性は揺るがないとみられる。すると、来年ないとすれば、再来年はあるということか。しかし、再来年のことを言えば鬼が笑うであろう。昨年は衆院選挙で「幻の27年度改正」となったが、とにかく、これ以上、政治に振り回される構図が続くのは御免蒙りたい、というのがメーカーの本音だ。