「共同醸造」で能登半島地震被災酒蔵の復興を支援、「能登の酒を止めるな!」支援集まる

内閣府非常災害対策本部が発表した「令和6年能登半島地震に係る被害状況等について」によると、6月4日時点の発表では石川県での住宅被害は「全壊」が8,071棟、半壊が1万6,577棟となっている。日本酒を製造する酒蔵も甚大な被害を受け、石川県酒造組合連合会によると「鳳珠地方の日本酒蔵11蔵が全壊、もしくは半壊」と被害状況を明らかにしている。また、道路の復旧も、地形の都合上過去の大地震と比較して進捗が遅く、酒造りの再開はおろか、倒壊した建物の撤去もできていない蔵が相当数あるという。

それでも酒造りを継続すべく、未来を見据えた企画もスタートしている。そのうちの1つである「能登の酒を止めるな!被災日本酒蔵共同支援プロジェクト」は、被災した酒蔵が他の醸造所の協力の元、自らのお酒であるオリジナル酒と共同醸造ならではのコラボレーション酒の2種類を造るという企画だ。応援購入サービス「Makuake」で1月31日に「第1弾」のプロジェクトを公開したところ、最終的には4,100万円を集めるまでに至った。6月7日には「第2弾」もスタートし、こちらもスタートからすでに750万円を集めるなど、注目が集まっている(7月1日時点)。

今回はプロジェクトリーダーを務めている吉田泰之氏(吉田酒造店社長)と、プロデューサーのカワナアキ氏(camoInc.代表取締役)にインタビューし、取り組みの特長や反響、今後の方針などを聞いた。(インタビューは6月10日に実施)

――能登半島の現状はいかがですか

吉田氏=震災から5カ月経過するが、発災直後とあまり変わっていないというのが正直な感想だ。解体が進んでいるのもごく一部で、潰れたままの家屋が多い。また、道路もまだ通っていない部分もある。

特に被害が大きかった北部(奥能登)では送電の復旧にも時間がかかり、断水が続いている地域もある。蔵元もそのような環境では生活できず、金沢など被害が少なかった地域に避難している方も多い。それでも数馬酒造(能登町)のように復旧し、すでに酒造りを再開している酒蔵もある。

――今回の取組のポイントを教えて下さい

吉田氏=蔵が被災し、日本酒の製造が継続できなくなってしまった蔵元が共同醸造に協力してくれる酒蔵に赴き、「自分の蔵のレシピのお酒」と「共同醸造だからこそできるお酒」の2種類を造る。米は基本的には震災前に購入していた米を蔵から「救出」して使うこととなっているが、足りなければ協力蔵の米を使うこともある。

発災直後は能登地方に比べると被害が少なかった金沢、加賀地方も少なからず混乱しており、他県の酒蔵から協力をいただけるのは非常にありがたい話だった。カワナ氏から直接連絡があり、企画を提案してもらったことがきっかけとなっている。

なお、数馬酒造は第2回の時点で外れているが、これは自社での酒造り再開が決定したためだ。

カワナ氏=1月5日の時点で既に企画の概要は決まっていて、すぐに吉田氏に連絡を取った。当社はこれまで日本酒イベント「若手の夜明け」や酒蔵の映像制作などを通じて全国の酒蔵とつながりがあり、電話や通信アプリのLINEを使って直接共同醸造の協力を取り付けていった。

能登以外の地域の酒蔵も「明日は我が身」という想いがあり、なにかできるなら協力したいというスタンスは共通していた。協力してもらえる酒蔵と細かいことを詰め、プロジェクト第1弾がスタートしたのが1月31日。

酒造りも本格化している時期だったため、各蔵元にはかなり無理を聞いてもらった。全国の酒蔵との連携によって共同醸造の負担を分散することで、長い復興支援の中で中長期的に取り組む仕組みを目指している。

――各所からの企画への反応は

吉田氏=蔵元も企画のスタート時点ではメリットを完全に把握しきれていなかったものの、1回経験すると「非常によいチャンスを頂けた」「やってよかった」と話す蔵元が多かった。

「ほかの蔵がどういった造りをしているのか」「新ブランドの立ち上げ方」といったソフト面や、「どういった設備があるのか」「新しい蔵を造るには何が必要なのか」といったハード面まで、教わることが多いと聞いている。特に奥能登の酒蔵は全壊した蔵を撤去し、新たに建て直さなければいけない酒蔵も多い。「いま再建するならどういった設備を入れるのか」「どのぐらいの広さが必要なのか」といったヒントも得られている。

受け入れる側(協力蔵)も初めて石川県産の米や金沢酵母を使う蔵もあり、新鮮な体験を提供してくれていると好評だ。当社も受け入れた側だが、同じ県、同じ品種の米を使っても、能登で栽培されたものと加賀で栽培されたものでははっきりと味わいに違いが現れるなど面白い発見があった。いつもの酒造りと異なるため、緊張感を持って繊細な酒造りができたのもプラスに働いたのではないか。

能登の酒蔵は地元向けの出荷が多かったが、しばらくは地元向けの出荷は厳しい状態が続くと思われる。そのため、別の酒蔵で酒販店との繋がりができれば、新たな販路を開拓できるかもしれない。再建した際に協力してくれる可能性も大きいだろうと見ている。

他にも、被災地では心身ともに疲れ切っている方も少なくない。そんな状況の中で迎えてくれる酒蔵もアットホームな雰囲気で対応し、傷を癒やしてくれている。

――「第1弾」の完成発表会時に金沢で大々的な発表会も行い、さらには「第2弾」の発表もしたが

吉田氏=「第1弾」の協力蔵とは異なるため、皆さんこの場で初めて顔を合わせることとなった。北は北海道、南は長崎と全国から金沢に集まってもらったが、みなさんエネルギッシュで、我々としても元気をもらえた。また、県内のテレビ局や地元紙には全て来てもらったほか、全国紙や東京のテレビ局にも取材してもらったので、知名度は大きく向上したはずだ。

今回の発表会では一般の方向けの試飲会も開催したが、「第1弾」にご賛同してくださった方や、すでに「第2弾」の応援購入もしてくださった方もいる。中には「10万円単位で応援する」と熱いエールを送ってくださった方もいた。協力蔵からもお客様からもエネルギーをもらったので、復興の助けにするとともに期待に応えていきたい。

――改めて「石川県のお酒」の魅力を

吉田氏=石川県は能登と加賀に分けられるが、能登の食文化は海の幸が多いため、海鮮料理に寄り添うようなお酒が多い。印象としては優しさや力強さ、自然がそのまま残っている土地柄ゆえの素朴さがある。一方の加賀は金沢の文化を思わせるような、きらびやかでエレガント、華やかな印象の商品が多い。料理で言えばお寿司などと合わせやすいほか、川魚や山菜など、山の幸との相性も良い。

とはいえ、加賀地方でも日本四大杜氏の1つにも数えられる「能登杜氏」の造り方を継承している蔵も多く、加賀の酒蔵とはいえ能登の雰囲気を思わせる蔵も多い。

――今後の見通しは

カワナ氏=近いうちの話題では、makuake内での販売のほか、酒販店での販売も予定している。特設ウェブサイトに販売店リストも掲載するので、積極的に活用してもらえればと思う。 プロジェクト自体は2025年の夏まで、5回ほど実施する予定。長い目で見て計画を立案しており、「第5回」以降も改めて検討する予定。

〈酒類飲料日報2024年7月2日付〉

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昭和42年(1967年)8月
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昭和42年(1967年)8月
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