[新春インタビュー]農水省畜産部長・大野高志氏 肉用牛生産基盤強化へ

政府の農業競争力強化プログラムでは「肉用牛・酪農の生産基盤強化」を図り、肉用牛の安定供給に取組むことが示された。肉用牛生産に関連しては肥育素牛の高騰が続いており、肉用牛繁殖基盤の強化が喫緊の課題となっている。その中で、16年には、6年ぶりに繁殖雌牛の頭数が増加するなど、状況は変化してきている。肉用牛に限らず、〝畜産を地域の核に据え、地域を活性化する取組み〟の畜産クラスター事業は今年3年目の取組みとなり、効果によりいっそう目を向けた採択を進めるなど質的な改善を図る。大野部長は「いいトレンドに拍車をかける」と今年の意気込みを語った。

肉用牛については「今の素牛相場や枝肉価格を見ると、畜産クラスターを軸としてもっともっと増やしていかなければならない。畜産クラスター事業では肉用牛増頭の取組みとしてキャトルブリーディングステーションなどへの重点枠も設けた。増頭傾向に加えて、雌牛の繁殖仕向けも35%と高まってきている。こういういいトレンドにさらに拍車をかけていく。これが今年の課題だ」という。

「肉用牛と合わせ、酪農の生産基盤も両輪として強化しなければならない。基盤の強化といっても、いきなり母牛が増えるわけではない。受精卵移植の活用や、酪農で性判別精液を使用することで乳用牛の後継牛を確保し、空いた母牛が受精卵移植で肉用牛を産めるようにする。これらに併せて一回も子牛を生産することなくと畜されている雌牛を最大限有効に活用するためF1の一産取り肥育も支援する」単純に増頭を目指すだけではなく、現状の資源を充分に活用する体制を取っていく。

これらに加え「素牛価格が高騰する中で、肥育農家が繁殖にも取り組みたいという意向もある。畜産クラスター事業で、地域での一貫や、個別経営での一貫を支援したい。技術的な側面は、優良事例や研究結果の紹介を行い、取り組み易い環境をつくっていく」。肉用牛経営では、肥育と繁殖の経営技術の違いから、一貫生産が普及しづらいという側面があった。

「重要なのは、高齢化が生産基盤の弱体化の大きな要因だということだ。作業を外部化し、労働負担を減らして経営しやすくしたい。大変な仕事を外部に委託するという側面だけではなく、繁殖や子牛育成を集中的に行うことで、管理が向上することでもある。獣医師、人工授精師が個々の農家を回って繁殖を行うよりも、技術者の技術の向上も望め、ICTなどを活用したより濃密な管理が可能になる。労働負担の軽減と飼養管理の高度化、両面から推し進めていきたい」

様々な取組みの軸となる畜産クラスター事業は「今年も改善している。要望に応えるだけではなく、都道府県に協力してもらって各協議会のクラスター計画を審査し、効果の高いものから採択する枠組みに変えた。いよいよ今年から本格的に始動する」。また、法人化要件の緩和や家畜導入支援について新規参入以外も対象にするなど、より利用しやすい形に拡充してきた。「畜産クラスター事業も3年目を迎え、地域での収益向上効果等をレビューすることも必要だと考えている。事業者には、計画で設定した目的、目標を達成してほしい」と計画達成による地域への貢献が重要との考えを改めて示した。