〈シリーズ工場訪問〉京都食肉市場 新施設が本格稼働、HACCPを見据えた従業員教育にも取り組む
京都食肉市場(京都市南区、駒井栄太郎社長)は今年3月、新施設の本格稼働を開始した。
同市場では「安全で安心な食肉を提供する施設」「京都ブランドを世界に発信する施設」「環境に配慮した施設」「市民や観光客に開かれた施設」の4つをコンセプトに掲げている。新施設では本棟1階に牛処理エリア、豚処理エリアを配置し、2階にはセミナールームやキッチンルームのほか、見学者通路を設け、実際のと畜処理工程を見学することが可能となっている。
宮田典幸取締役営業第1部長、中村良彦営業第1部営業企画課主任に新施設稼働後の状況、現在の取り組みなどについて話を聞いた。
宮田典幸取締役営業第1部長
――新施設の詳細について
旧施設では1階にセリ場、2階にと畜ラインがあり、事務所は別棟であったが、新施設では1つの建物で完結させることができている。旧施設になかった会議室、セミナールームなどが入ったほか、食育イベントやお肉の食べ方などを説明することができるキッチンルームも新たに設置した。このほか見学者通路を設けるとともに、セリ場の収容人数を拡大させている。
市場本棟フロア図
牛のと畜ラインは動線を考えて配置することでコンパクト化した。今年1月からテストと畜を開始しており、3月末から本稼働を開始した。新施設では衛生面の向上に取り組み、1頭当たりの処理時間が長くなる。さらに、と畜後の清掃に重点的に取り組んだことなどによって全体の作業時間が長くなり作業人員が増えた。ただ、部署を越えて効率よく人を配置するなどの対応によって必要人員を確保して業務にあたっている。本稼働してから4ヵ月が経過して新しい施設にも慣れてきた。きれいな環境で非常にやりがいを感じている。衛生管理については今後のHACCP(ハサップ)の導入を見据えて、新施設の稼働前から従業員に対する教育がしっかりと実施することができた。
――本格稼働後、現在の状況は
昔から買参権を持つ方に加えて、最近では新施設の稼働に伴って京都食肉市場で購買したいと買参権を新規で取得される方が増えている。当市場は全国から買参権を取得できる強みがあるほか、鹿児島、長野の生産者とは昔からのつながりがある。7月の豪雨の時も交通網の乱れなどで通常以上に時間がかかるにも関わらず、ほぼキャンセルが発生することなく、九州のほうからも出荷していただいた。こういう時期だからこそ、「京都にしっかり運ぼう」という出荷者の熱い思いがあり、それを受けて、われわれも今まで以上に高く購買してもらいたいと思っている。今回の豪雨で生産者や関わる人の熱い思いのおかげでうちの市場が成り立っていることを改めて感じた。
――市場の特徴は
京都のイメージとして一見さんお断りの印象を持たれることがあるが、当市場では初めての出荷であっても買参人がしっかりと枝肉を見た上で、きちんと評価する体制になっており、この姿勢は新施設の稼働でさらに強くなっている。より良いものを多く集めて欲しいという買参人からの声が高まっており、それに応えて新規で良質な牛を1頭でも多く入れたいと考えている。
共進会では買参人の方も活気があって熱く、高値であっても自分が納得した牛を買いきる意志を感じる。新施設の稼働に伴って、熱い京都のセリが復活しつつあることを感じている。各地の生産者と話をしていて、雰囲気も良く、良い方向に向かっていると言っていただけている。生産者、買参人、市場の3者が一体となれば末永く良い関係を続いていけるのではと感じており、そこを大事にしていきたい。また、今年度中にはタイ、マカオ向けの輸出を開始できる予定で、今後はシンガポール、米国、EUに向けた展開も考えている。
――現在の注力点および今後の展開について
生産者や当市場などで構成している京都肉牛流通推進協議会が窓口となって、ブランド食肉「京都肉」の知名度向上を目的としたイベント「京都肉祭」を毎年秋に開催している。昨年は悪天候の中での開催となったが、非常に多くの方にご来場いただき、用意した数千パックの精肉が時間内に完売した。5回目の開催となる今年は秋に岡崎公園での開催を予定しており、約2万人の来場を見込んでいる。他のブランド牛肉と比べて「京都肉」の知名度は京都市民の中にもまだまだ浸透しきれていない。また、頭数も少なく、消費者に届けきれていない現状がある。イベントでは4等級以上と和牛の中でも上質な「京都肉」を銘店・老舗の店が工夫して、リーズナブルな金額で販売する。こういったイベントをきっかけに買参人の方ももっと京都肉を付加価値を上げて消費者に提供し、市場での購買につなげていただければと思っている。一般消費者にはイベントと、新施設が完成してメディアがしっかりと取り上げてくれるようになった。テレビの夕方のニュースなどでも何度か放映してもらっている。メディアともしっかり協力しながら、しっかりとPRをしていきたい。
〈畜産日報 2018年8月17日付より〉