日本ハム、AI・IoT活用「スマート養豚プロジェクト」で養豚場の働き方改善、人手不足など解決へ

日本ハム中央研究所・村上博所長(左)、NTTデータ・杉山洋第四製造事業部長(右)
〈健康状態の悪化検知、種付け・分娩時期推定などの飼育支援システムを構築〉
日本ハムは12月19日、インターファーム、NTTデータ、NTTデータSBCと共同で、生産現場である養豚場にAI・IoTを活用した「スマート養豚プロジェクト」を開始すると発表した。豚の健康状態の悪化検知や、繁殖母豚の種付け時期、分娩時期を推定する飼育支援システムを開発する。AIによる画像判定技術の開発は初の取組みとなり、システムの構築により、養豚場の働き方を改善し、人手不足など社会課題の解決をめざす。今月からインターファームの知床第一農場にカメラや環境センサーを導入して実験を始める。

同日、東京都内で説明会が開かれ、同プロジェクトの背景や目的の説明、システムのデモンストレーションが紹介された。説明会で日本ハム中央研究所の村上博所長は、国内畜産業における社会的課題や、同プロジェクトの概要を説明した。

村上所長によると、ニッポンハムグループの国内生産事業は2018年3月現在、3つのグループ会社で牛(年間出荷頭数:約4,000頭)、豚(約62万頭)、鶏(約7,100万羽)を出荷している。このうち、養豚業の生産工程では、飼育者の判断や経験値への依存度が高い一方、現在は▽大規模化による1人当たりの飼育担当の増加▽慢性的な人手不足による技術低下や成績の不安定化▽畜肉需要増大での一層の効率化、飼育の最適化の必要性――といった課題に直面しているとした。

そこで、プロジェクトを通して、
〈1〉長時間労働などに頼らず、働きやすい環境で今以上の管理が行き届くようにする
〈2〉経験値に頼らず、豚にとって最適な飼育管理を行う
〈3〉ヒトの目には届かなかった豚のシグナルを捉えることで、より精密な管理手法を開発し生産性を向上させる

――ことが出来る管理支援システムを開発していきたいと、プロジェクトの目的を紹介した。具体的には、IoT技術(カメラ・各種センサー)を駆使し、温度やエサ・水消費量、ガス濃度などの豚舎環境や、カメラや音声による豚の行動をデータとして収集。さらに、ヒトによる経験やノウハウに基づいた判断と照らし合せることでデータとして蓄積する。

蓄積データをもとにAIを活用し、豚の飼育管理状況を分析、判定するプログラムを構築し、リアルタイムで現場状況を確認することが出来るようになり、飼育管理の最適化・省力化を実現させる。

プロジェクトでの成果については、豚の健康状態の悪化を検知する技術や、繁殖母豚の種付け時期、分娩時期などを推定する技術を通じて、養豚の効率化、省力化などのトータルサポートを実現する飼育支援システムを開発していくとした。さらに、AI・IoT技術を活用してノウハウを蓄積することで、グループ内の農場デジタル化、IoT技術活用の足がかりとする方針だ。

村上所長は、「飼育支援システムの開発で、豚の成長に最適な環境を提供する。また、社会的貢献の観点でも意義あるものにしたいと考えている。畜産業をより働きやすい環境にすることで、畜産業に興味を持つ若い世代の人々にも安心して選んでもらえるようにしたい。それにより、畜産を持続可能な産業として発展させることが使命だと考えている」と抱負を述べた。

村上所長の説明後、NTTデータ製造ITイノベーション事業本部の杉山洋第四製造事業部長から、デモを含んだシステム構築のポイントが説明された。今月からインターファームの知床第一農場にカメラ18台、環境センサー4台を導入し実験を開始。現在、AI技術により、子豚・母豚を個体認識し、その行動や位置情報の分析、ヒートマップによる密集度の可視化などに取り組んでいる。これらの収集したデータで、豚に特化した独自の学習モデルを開発中で、来春には知床事業所への段階的な導入を予定しているという。杉山部長は、「収集したデータをもとにシステムを構築することで、養豚場の効率化に取組む。今後も日本ハムと連携しながら開発を進めていく」とした。

今後は、「来春の知床農場での実装を踏まえて、改善、発展について検討していく」(村上所長)とし、両社では将来的にはプロジェクトを通じ、グループ内外問わず畜産現場全体を活性化させ、社会課題や地域課題の解決を目指していく。

〈畜産日報 2018年12月20日付より〉