全国知事会が農水省に豚コレラ対策と拡大防止のための緊急提言、“国家レベルの危機事案と受け止め、あらゆる手段を行使し事態終息を”

左=小里康弘農水副大臣、右=湯﨑英彦農林常任委員会委員長
全国知事会議が7月23~24日の両日開催され、豚コレラに関して「豚コレラの対策と感染拡大防止のための緊急提言」をまとめた。25日には湯﨑英彦農林常任委員会委員長(広島県知事)らが農水省を訪れ、小里康弘農水副大臣に緊急提言を手渡した。

湯﨑委員長は「依然として野生イノシシの感染が拡大し、養豚農場でも断続的に発生している。国を挙げて対策を強化していく必要がある。農家を守る対策はもちろんだが、さまざまな対策、国の指針がなかなか出ないなかで、岐阜県などでは手探り状態で取り組みを進めている。一方で三重、福井、長野の近隣県でも感染野生イノシシが広がっており、広域的な対応も必要になるため、緊急提言となった。今回の状況は過去に例のない新たな事態と受け止め、総合的な対策、国の指針を定めたうえで、国の事業として財源を確保して取り組んで頂きたい。またアフリカ豚コレラ(ASF)のリスクが高まっている。新たな脅威に対し、空港などでの検疫強化などもお願いしたい」と述べた。

湯﨑委員長によれば、小里副大臣はまずは野生イノシシが課題であり、岐阜では144km に及ぶフェンスを構築し、個別農家では周囲を囲うことで防御していくが、全国に拡大していく必要があるとの見解を示した。その上で「野生イノシシ向けの経口ワクチン散布、ASF対策では検疫探知犬の増頭などの方針を作ってきており、関係者が共有して迷うことなく一丸となり進めていきたい」と述べたとした。また要請に同席した岐阜県の渡辺正信農政部長は、飼養豚へのワクチン使用について「ワクチン使用には賛否ある。岐阜県内農家ではワクチンを求める声があるのも事実。専門家でも全国で意見が分かれる。国に対してはあらゆる手段を行使して事態の終息をお願いした」と述べた。

緊急提言では、5府県で12万頭以上が殺処分され、野生イノシシの感染が複数県に拡大し、終息が見通せない状況だとしている。また食肉価格の上昇による国民生活への影響を懸念している。そのため、国家レベルの危機事案と受け止め、感染拡大防止、撲滅に向け、総合的な対策強化を図り、豚コレラの終息と産地の再生のために、早急に特段の措置を講じることを強く求めている。

具体的には、感染経路や発生原因を解明し、あらゆる手段を行使し事態の終息を図ること、海外由来の豚コレラが野生イノシシを介して家畜へと感染拡大するという、過去に経験のない事態に見合った、ハード・ソフトの対策について、特定家畜伝染病防疫指針に位置づけるなど、対応方針を明確化し、国事業としての財源確保すること。また感染リスクに見合った衛生管理の上乗せ基準を明確化し、農場における消毒作業など飼養衛生管理の強化、ハード整備も含めたバイオセキュリティーの向上、野生動物侵入防止柵設置などの環境整備についてもパッケージで財政支援や、県をまたがる広域的な野生イノシシに対し、国主導の対応方針の決定、地方が取り組む対策の支援充実を求めた。

金融面では、無利子・保証料なしの融資制度創設、発生農場の経営再建に向けた支援措置の充実や、養豚生産を支える、と畜場・流通・飼料など関連事業者に対し、経営環境の激変を緩和する支援措置の創設など、生産振興の観点からの特別支援や、と畜場における交差汚染防止対策について、発生県以外を含め、財政支援の対象とすることを求めている。

その他にも、広域かつ広範囲、長期に及ぶ断続的な発生に備えた獣医師確保、防疫作業の相互応援など、広域的な支援体制強化や、移動式レンダリング装置の配備拡大。アジアを中心に感染が拡大するASF(アフリカ豚コレラ)や、口蹄疫などの家畜伝染病の国内侵入を防止するため、国際線が就航する空港、海港での検疫体制強化、水際対策の徹底、豚コレラなど発生国に対し、畜産物などの持ち出しによる豚コレラウイルスなどの流出防止対策についても働きかけることを提言した。

〈畜産日報 2019年7月26日付〉