日米TAGの経済効果分析、GDP4兆円押し上げも農産物減少額は600億~1,100億円
自民党は10月18日、TPP・日EU・日米TAG等経済協定対策本部、TPP交渉における国益を守り抜く会合同会議を開催し、日米貿易協定の経済効果分析(暫定値)について、内閣官房と農水省が報告した。実質GDPは0.8%(4兆円)の押し上げ、農産品関税収入減少額は初年度が450億円、最終年度で1,020億円、農林水産物の生産減少額は約600億~1,100億円と試算された。
TPP・日EU・日米TAG等経済協定対策本部の森山裕本部長(衆・鹿児島4)は「TAGはプロセスを経て15日に国会に提出され、24日の本会議で審議する。これまでの前例を考えると、議論が集中するのは影響がどうなるのか、農林水産物の生産額への影響、経済効果分析などが中心になる。全体では日米共同声明の範囲内だが、生産者は不安に思う。政策大綱をまとめ、どのように補正予算で対応するかになる。TAGが良い形でスタートできるようにしたい」とあいさつした。
内閣官房の澁谷和久政策調整統括官は、あくまで暫定値であると断った上で説明した。2015年のTPP協定の経済効果分析、17年の日EU・EPA等の経済効果分析と同じ手法により、TAGの合意内容に基づく関税引下げ効果による総合的な経済効果分析を実施した。貿易円滑化効果は織り込まず、日米デジタル協定のもたらしうる効果についても定量的な試算前提を置いていないとした。それによれば、TAGが無い場合と比較して日本の実質GDPは約0.8%押し上げが見込まれ、18年度GDP水準で換算すると約4兆円に相当し、労働供給は約0.4%(約28万人)の増加が見込まれる。
TPP12の効果分析では、GDPは2.6%の押し上げ、TPP11では1.5%の押し上げであり、差分の1.1%が米国分となるが、TPP12時にはサービスなどのルールが整備されており、貿易円滑化効果を見込んでいた。TAGでは物品の関税だけであり、円滑化効果は見込んでいないため、1.1%を下回る数字だとした。TAGによる関税収入減少額(機械的計算)では農産品全体で初年度は450億円、最終年度で1,020億円に上り、畜産関係では牛肉は初年度190億円、最終年度500億円、豚肉は初年度30億円、最終年度60億円になる。
農林水産物の生産額への影響(暫定版)については、農水省の浅川京子大臣官房統括審議官が報告した。試算対象品目は関税率10%以上かつ国内生産額10億円以上とし、生産減少額は約600億~1,100億円となり、そのうち畜産関係では、牛肉は237億~474億円、豚肉は109億~217億円、鶏肉は16億~32億円、鶏卵は24億~48億円、牛乳乳製品は161億~246億円だとした。TAGとTPP11を合わせた影響を同様に試算すると、農林水産物の生産減少額は1,200億~2,000億円とした。
山田修路議員(参・石川)は「農家の人々は日EU・EPAも含めてさまざまな協定の影響を含めて不安に思っており、今回の試算額以上の不安を持っている。農家の不安を払拭できるような、対策を要望する」と述べた。野村哲郎議員(参・鹿児島)は「農林水産物の生産額減少で最も大きいのは牛肉・豚肉・乳製品になる。農家は試算額だけを見て不安になる。生産量はどうなっているのか。単価が上がっているから、試算額も上がったと思うが、生産農家に影響を与えるのは数量になる」と述べ、試算額だけが一人歩きすることを危惧した。坂本哲志議員(衆・熊本3)は「牛乳乳製品の内訳の計算を知りたい。関税収入減少はalic(農畜産業振興機構)の財源がそのまま減ることになるのか」と述べた。
農水省は対策について、実際にはさまざまな協定が複合しているため、その不安を払拭できるような対策を検討すると答えた。
農産物の数量については「試算自体は対策後の試算であり、農家はコストを削減して所得を確保することで、国内生産数量は維持されるが、安価な外国産が入ってくることで、価格は下がる」と答えたが、生産量の詳細については後日まとめることとした。
機構の財源については「関税収入を基金として積み上げているものもある。今後の対策に支障のないように対応していく。政策大綱において、政府全体で責任を持って毎年の予算編成で確保するとなっている」と説明したが、機構財源の収入減少見通しについても別途報告するとした。
〈畜産日報 2019年10月21日付〉