酪農及び肉用牛生産の方針案、「需要増加に応じた安定供給、海外市場獲得、産業の持続的発展めざす」

自民党は2月26日、東京都千代田区の党本部で農林・食料戦略調査会、農林部会、畜産・酪農対策委員会の合同部会を開き、新たな「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」(以下、酪肉近)や家畜改良増殖目標などの骨子案を議論した。酪肉近は、食料・農業・農村基本計画と同様に概ね5年ごとに見直されるもの。すでに昨年から農水省の食料・農業・農村政策審議会畜産部会で議論を重ねてきており、今回は初めて新酪肉近の骨子案が示された。

今後、この骨子案をもとに内容を詰めていく流れだが、生産基盤強化に向けた「規模拡大」の捉え方や、需要に応じた牛肉の生産・供給のために「早期出荷」という表現があることについて、平場の議員からも異論が相次いだため、来月に予定する次回会合までに誤解を生まないような表現に改めることで一致した。このため、骨子案の書きぶりも大きく変わる可能性がある。

今回、農水省がされた骨子案によると、畜産をめぐる状況変化を踏まえたうえで、「海外市場を含めた拡大が見込まれる需要に応えるための生産基盤の強化」「次世代に継承できる持続的な生産基盤の創造」のテーマのもとに、
〈1〉生産基盤強化策
〈2〉需要に応じた生産・供給の実現、流通の合理化
〈3〉持続的な発展のための対応
――の3つの柱にそった各種の取組みの方向性を示している。これらの取組みによって生産基盤を強化することで、将来の目指す姿として、「国内の高い畜産物需要に応じた国産畜産物の供給を実現する」「戦略的な輸出により積極的に海外市場を獲得する」「産業として持続的な発展を図る」ことを掲げている。

たとえば、〈2〉需要に応じた生産・供給の実現、流通の合理化では、牛肉のA4以上の格付率が増加している半面、消費者が健康志向や食味・食感の良さ、価格の安さを理由に、適度な脂肪交雑を求める傾向にあるとして、求められる品質の牛肉の安定供給の必要性を指摘している。そのため、骨子案ではオレイン酸の含有量に着目した改良の推進や、出荷月齢の早期化、和牛繁殖雌牛の再肥育、交雑種雌牛の「1産取り肥育」を進めることで、脂肪交雑が多い牛肉に加えて、適度な脂肪交雑の牛肉の供給も推進することが盛り込まれている。

こうした文脈から、出席した議員のなかには、「いま消費者が求めている牛肉はA5ではない、消費者のトレンドに合わせた格付の見直しが必要では」と、牛枝肉取引規格を否定するような発言も上がった。これに対して、赤澤亮正畜産・酪農対策委員長(衆、鳥取2区)は「格付け制度は客観的な仕組みだ。A3の価格が上がれば(それに相当する肉牛の)生産頭数も増えてくるわけであり、我々がA5をつくれと言っているわけではない」と、理解を求めた。

野村哲郎農林部会長(参、鹿児島)も今回の骨子案が党役員会で詰めずに示されたことを明らかにした上で、「これまで(A5のような)芸術作品をつくろうとしてきた農家もいるなかで、国が早期出荷をやれと言っているわけではない。ここ(概略版に)早期出荷を書くと肉用牛生産の大きな方向転換だと思われてしまう」と指摘。赤澤委員長も誤解を招くような表現は改めるよう検討する意向を示した。

このほか、肉用牛・酪農経営の増頭・増産について、「中小規模の家族経営も含めた農家が規模拡大を進められるよう、地域全体での増頭を推進する」と記述された点にも、一部議員からは「家族経営も規模拡大を図るべきと読める。クラスター事業など、意欲があってもそこに乗れない農家もいる。これからの酪肉近はそうした経営もサポートすることもメッセージとして発することが必要では」といった反発があり、こちらも全農家が規模拡大へ向かっていくものと誤解されないよう、表現を改めることとなった。

〈畜産日報2020年2月27日付〉