食肉の食中毒予防へSNSや動画など活用した情報発信を検討、事業者への指導のあり方も議論/東京都
7月20日に開かれた2021年度「第1回東京都食品安全情報評価委員会」(委員長=穐山浩・星薬科大学薬学部教授)でその方針を決定したもの。これを受けて都では具体的な普及啓発の内容・手法を検討し実施していく。
これまでも都は、食肉の生食を通じた食中毒リスクの予防について家庭や事業者向けリーフレットなどを作成・配布するなどの普及啓発に努めてきた。ところが、近年、全国の細菌性食中毒の年間発生件数の6〜7割がカンピロバクターを要因とするもので、2020年は182件も発生しており、病因物質別では寄生虫のアニキサスに次ぐ発生件数だった。
さらに、カンピロバクターによる食中毒の多くの原因が、「内臓」(推定含む)とされ、都内の食中毒発生状況も同様の傾向だったという。日本食肉消費総合センターによる「食肉に関する意識調査」(2016年度)の結果も、消費者の食肉の安全性に関する知識の認知度が低い傾向にあることが分かっている。このため、6月18日に開かれ情報選定専門委員会で、より効果的な普及啓発の内容・方法を検討すべきと指摘されていた。
当日の委員会では、事務局から、都が実施(2019年5月〜2020年11月)した鶏内臓の細菌学的実態調査の結果も報告された。鶏肉に関しては、過去にも食中毒細菌汚染状況の調査が行われてきた半面、鶏内臓の調査報告は少なかった。市販されている国産鶏内臓を対象に調査したところ、部位を問わず▽鶏肉とほぼ同レベルで細菌汚染されていた▽内臓内部まで汚染されていた可能性が高い▽表面のみの加熱では殺菌されない――といったことが判明し、「鶏内臓も喫食時には中心部までに十分な加熱が必要」と報告された。
こうした調査結果を踏まえ、委員からは「消費者は大きな食中毒の事件があると意識が高まるが、時間が経つと薄れてしまう」「地道な情報発信を継続すべき。ただ、消費者は堅苦しい内容だと頭に入ってこないため、生肉やカンピロバクターといった表現よりも、『とりわさ』といったキャッチーな表現がより関心が高まるのでは」といった意見が挙げられた。また、調理実習など学校教育・食育を通じて、子どものうちから食中毒リスクの重要性を学ぶべきとの声も挙がった。
また、「鶏肉(の食中毒リスク)は牛・豚に比べてインパクトが小さいと感じられる。O‐157など、ほかの食肉の食中毒と比べると大事さが伝わっていない」「新鮮なものイコール菌がいないといった誤解があり、生肉には菌があることを、消費者・事業者に認識してもらう必要がある。とくにカンピロバクターはギラン・バレー症候群を起こす可能性もある。神経系に影響を及ぼすこともあり、(食中毒は)単に体の具合が悪くなることだけのものではないことの認識も消費者にもってほしい」と訴える意見もあった。
事業者サイドにも「生・新鮮であることが高級なイメージがあり、そのことに事業者側も付加価値がある印象を持つことが根底にあるのではないか。肉にはさまざまな種類があり、生食可能なものがあり、消費者も混同しているのでは。どんな食肉が生食可能なのか、一目で分かるような比較表が必要」「お客からすれば、当然加熱してあるのだろうと(加熱不十分でも)信じてしまう。提供する飲食店も、万が一食中毒が発生した場合、法的リスクが伴うことがあることを改めて啓もうする必要がある」「HACCPが義務化されて事業者も関心が高まっている。この機会にHACCPと同様に食中毒について啓もうする必要もあるのでは」と、改めて事業者側への衛生管理の指導の必要性を指摘する声も多数挙げられた。
こうした意見を踏まえ、穐山委員長は「食肉全般の食中毒予防に向けた注意喚起を引続き行う。小中学校の学生や、事業者にも間違った認識があると思われるため、事業者や食肉加工場の衛生管理の指導も検討してもらえればと思う。情報発信では、消費者・事業者に対して、SNSや動画、ユーチューブといった方法の活用など効果的な方法を検討いただければと思う」とまとめ、都に具体的な対応を求めた。
〈畜産日報2021年7月26日付〉