ドイツのASF(アフリカ豚熱)1年間で7農場に発生確認、400km離れた飛び地も、ゾーニング協議は事前準備段階

〈慎重かつ早期の交渉開始に期待〉
ドイツでは2021年7月に、家畜豚においてアフリカ豚熱(ASF)がポーランド国境沿いの地域を中心に発生した。ことし5月にはフランスやオランダ国境沿いの地域でも発生し、この1年間で家畜豚における発生は7事例に上り、発生地域はドイツ東部、南西部、北西部に広がりを見せ、400km離れた飛び地での発生も見られる。

日本向けの豚肉などの輸出は、家畜豚で発生が起きる前の2020年9月に野生イノシシにおけるASF発生を受け、停止している。世界的な豚肉供給国のドイツからの輸入再開が注目されるが、ゾーニング適用に向けては飛び地での発生がネガティブな材料となるだけに、今後の動向が注目される。

ゾーニング=ある空間を用途に応じて分離すること。一般的には病原体によって汚染されている区域(汚染区域)と汚染されていない区域(清潔区域)の区分けなど。

2021年7月に発生した1~3例目は、ポーランド国境沿いのブランデンブルク州での発生となった。1例目は313頭(幼豚169頭、母豚83頭、若齢豚58頭、種豚3頭)を飼養する、繁殖に取り組む有機農場、2例目は2頭を屋内飼養し、3例目は4頭を屋内飼養する小規模農場だった。2例目と3例目は3km離れた地点に所在していた。2021年11月にはメクレンブルク・フォアポンメル州で、飼養規模4,000頭の大規模農場での4例目の発生となった。

ことしは、南西部でフランス国境沿いのバーデン・ヴュルテンベルク州で35頭を飼養する有機農場で5例目が発生した。7月2日には、北西部でオランダ国境沿いのニーダザクセン州の農場(1,786頭飼養)で6例目が発生した。5例目農場周辺では、野生イノシシにおけるASFが確認されておらず、さらに東部の発生地域からは約400km離れている。また、ブランデンブルク州でも2021年7月以来となる7例目(1,300頭飼養)が発生した。

ASF発生国からの日本向け輸出は停止されるが、国によっては二国間協議によって、ゾーニング適用となれば、同国内の非発生地域であれば輸入が再開される運びとなる。農水省消費・安全局動物衛生課によれば、現在、ASFにおけるゾーニングが適用されているのはハンガリー、ベルギー、チェコの3カ国のみで、フランスは未発生ながらも、発生時に備えた交渉を既に開始している。

交渉を開始するには、書簡及び質問票に回答する必要があり、ドイツや発生国と隣接する諸国については、交渉開始の事前準備の段階にあり、早期の交渉開始・ゾーニング適用が期待される。ASF未発生の北米地域に関しても、事前準備段階だという。

ただし、ドイツのように飛び地での発生が続発するとなれば、ゾーニングが適用されるのは非常に厳しい状況と言わざるを得ない。これまでにも、ポーランドにおけるゾーニングが適用目前まで進んだが、協議中に感染野生イノシシの発見地域の拡大、飼養豚における発生拡大が見られたため、見送られた経緯がある。

世界的な生産コスト高、豚肉現地相場高、為替円安が進行する状況下では、供給先を少しでも多く確保することが、食料安全保障の面からも重要となる。日本国内では豚熱(CSF)の発生が依然として続いているだけに、仮にASFの侵入を許してしまった場合には、有効なワクチンが存在しないこともあり、日本の養豚業界に取返しのつかないダメージを与えてしまう。家畜疾病の侵入リスクがある限りは、ゾーニング適用を認めるべきではないが、慎重かつ早期の交渉開始が期待される。

〈畜産日報2022年7月8日付〉