黒毛素牛相場は高値一服、再び上昇の可能性、品質による価格差の懸念も

過去5年にわたって高値相場を続けてきた肉用子牛価格だが、ここ2カ月間、黒毛和種の取引価格は一服感がみられる。全国の主要家畜市場の取引価格(雄・雌平均)は5月が1頭当たり平均79万円と前月から6,373円下落、6月は78.4万円とさらに6,270円値下がりした。もっとも昨対では5月が23.5%高、6月が21.9%高と高値水準にあるものの、7月に入ってからの取引価格も前市よりも値下がりした市場が九州など西日本地域でみられ、10日までの平均では79.7万円で前市から0.4%値下がりしている状況だ。例年、この時期に導入した素牛は、年末年始を過ぎた需要の端境期に出荷適齢期を迎えるため素牛相場は値下がりに転じるパターンとなる。GW明け以降、枝肉相場が軟調気味に推移したことや、7~9月期から配合飼料価格が1年半ぶりに値上がりするなどの周辺環境から購買者サイドも模様眺めの展開に転じたとみられる。

農畜産業振興機構がまとめた6月の全国主要家畜の肉用牛取引状況によると、黒毛和種は雌の上場頭数こそ前年実績を上回ったものの、雄は前年同月比で7.7%も落ち込んでおり、雄雌全体の頭数は同4.8%減と、依然として少ない出回りとなった。取引価格は前月から2カ月連続で値下がりしたが、同21.9%高と高値を維持している。また褐毛和種は開市数が全国3カ所と前年よりも4カ所少なかったことから取引頭数は32.9%減と大幅に落ち込んでおり、価格は前月からやや値上がりして同26.6%高の67.2万円に上っている。交雑種とホルスの取引価格も前年同月に比べてそれぞれ5.1%高、1.5%高となり、黒毛和種以外の畜種は前月から値上がりした格好だ。また、黒毛和種でも上述のように九州など西日本では値下がりがみられるものの、北海道や東北では4月→5月→6月とむしろ値上がりしている状況だ。

もっとも、根本的な素牛不足は解消されてはおらず、牛舎が空いている肥育農家も全国的に多いという。このため、梅雨明け後や年末需要に向けた出荷が始まる秋口には枝肉相場の値上がりが予想され、「少なくとも下げ要因はほとんどなく、再び上昇に転じる」(市場関係者)とみる向きが多い。

当面は今月下旬から8月上旬にかけての枝肉相場の動向がポイントとなりそうだ。この時期に出荷される肥育牛(黒毛和種)の購買当時の素牛価格が59万円(雄63万円前後、雌55万円前後)で、これに飼料費や建物費、家族労働費などの諸経費を加えると生産費は1頭当たり105万程度となる。仮に今後も諸経費が同額で推移したとしても、素畜費だけで20万円もコストアップしていることになり、「出荷時期を迎える再来年明けには、いまの枝肉相場よりもさらに高値になっていないと採算的に非常に厳しくなる」(同)という。このため、夏場にかけて枝肉相場が上昇しなければ、秋口以降の肥育農家の素牛導入意欲は逆に落ち込んでくる懸念もある。また軟調気味とはいえ、和牛4等級以上の枝肉相場は高値水準を維持していることから、肥育農家は高品質志向を一層強めることも予想され、同じ黒毛和種の素牛でも品質により価格差が拡大することも考えられる。