[インタビュー] 食品安全委員会事務局長・川島俊郎氏、「戦略的リスコミ」推進

「より戦略的な形で情報提供できれば、と考えている」–。6月17日付で食品安全委員会事務局長に就任した川島俊郎氏(前農水省審議官)。リスク管理機関からリスク評価機関へと、大きく立場が変わるなか、自分の立ち位置を再確認する日々が続く。古巣の農水省では動物検疫に長く携わったほか、国際機関で要職を務めるなど、誰もが“国際派”として認める逸材だ。「諸外国の国際機関と比べてそん色のないリスク評価書が策定できるよう、これまで以上に意識したい」考え。できるだけ多くの国民に評価結果を理解してもらえるかが課題。「食安委だけで食品安全が確保できるわけではない」。リスクコミュニケーションを重視した事務局運営を進める方針だ。

「食安委は、科学的知見に基づき公正中立かつ独立性の高い機関だ。リスク管理機関から移ってきたばかりで戸惑いを隠せない」。農水省時代は動物衛生課長を歴任するなど、動物衛生分野のエキスパートとして重責を担ってきた。同課長時代には、南九州での口蹄疫発生、高病原性鳥インフルエンザの大量発生などを経験、まん延防止に向け陣頭指揮を執った。また、OIE(国際獣疫事務局)では、主席獣医官として日本を代表したほか、日本人初の理事会理事の要職を務めるなど、その名を国内外に知らしめた。「農水省でも、動物の生体についてリスク評価を行ったが、食安委でのそれとは大きく違う。食安委は添加物をはじめ農薬、動物医薬品、GMO(遺伝子組み換え)など非常に多岐にわたる分野を担当している。それぞれの分野ごとで専門的バックグラウンドが異なり、リスクに対する見方も大きく違ってくる」。親委員会や専門調査会、ワーキンググループなどの審議状況を見ながらリスクアナリシスの全体像を把握する日々が続く。

事務局は、審議会合の認定調整や、専門家らが審議しやすいように科学的知見に関するデータを収集するなど、あくまでも裏方に徹することが求められる。「リスク評価は、審議に参加する先生方(科学者で構成される委員および専門委員)の議論が大前提となる。審議が的確かつ公正中立の場になるように、環境を整えるのが事務局の役割といえる。専門家の評価あっての食安委といえる。評価書(案)策定の過程において、専門家らが審議しやすいよう、議論の前提となるデータ整理や根拠論文の照会など、質の高いモノを準備していきたい」。事務局の役割をこう説明する。

「そのためには、事務局の知見も高くしなければならない。科学データの見方も、国際機関や先進国のリスク評価機関でどう見られているかを議論し、国際的にもそん色のない評価報告書を作成したい。そのためにも諸外国のリスク評価機関との情報交換なども進めていく。つい先日(7月26日)も、ドイツのリスク評価機関であるBfR(ドイツ連邦リスク評価研究所)との間で、情報交換などの協力覚書を締結したばかりだ」。これにより、国際機関との覚書締結は、EFsA(欧州食品安全機関)など5機関となった。「日米欧3極を意識して、諸外国からも信頼されるリスク評価機関にしたい」。独立した形でリスク評価機関を持たない米国との連携をどう進めるかが今後の課題といえる。

「国際機関との交流の場としても、情報のやり取りだけでなく、新しい技術の調査・研究も吸収していく。(動物愛護の観点などから)化学物質に対する動物実験もいまはイン・ビボ(動物実験)からイン・シリコ(コンピュータ解析による予測・評価)に移行しつつある。科学的知見の収集も高度なものになっている」。評価書作成にあたっては高度な内容が要求されるだけでなく、技術革新が急速に進むなか、評価の迅速性も求められている。

「食品は健康を維持するうえで重要な要素といえる。そんななか、食品安全に関する基本的知識が正しく理解されることが重要だ。食安委は、科学的データを蓄積してきた。設立から13年をもう一度振り返って、どうしたらリスクコミュニケーションがより十分に機能するかを検討したい」