チリ・コエクサ社 一次加工品の専用工場で対日向け輸出認可取得、TPP批准を期待/ギジェルモ・ガルシア社長インタビュー

チリ・コエクサ社インタビュー(左から、フランシスコ輸出責任者、ギジェルモ社長、ロランド販売部長)
チリ・コエクサ社インタビュー(左から、フランシスコ輸出責任者、ギジェルモ社長、ロランド販売部長)

2022年の輸入豚肉市場は、コスト上昇と不安定な海上物流事情などを背景にチルドポークの輸入量は減少している半面、スペイン産など欧州産を中心にフローズンの増加が目立っている。

こうしたなか、日本にとって重要な豚肉供給国のひとつであるチリでは10月、上院がTPPの批准を賛成多数で可決した(下院は2019年4月に通過済み)。現地では年内に承認手続きを終えると見込まれており、早ければ来年早々にも、すでに経済連携協定を結んでいる北米や欧州と同一条件でのトレードが可能になる見通しだ。このほど来日した、チリ・コエクサ社のギジェルモ・ガルシア社長ら幹部に2022年の日本向け販売状況と来季の展望を聞いた。

――2022年を回顧して

ことしはエネルギーコストや飼料価格、また人件費、電気代、水道代なども含めて様々なコストの上昇があり、非常に難しい一年となった。来期の見通しも、やはり原材料などの既存のコスト要因は依然として高いまま続いていくことが見込まれている。

とくに飼料価格については、様々な情報を見ているなかで来期も高値で貼り付いていくものと見込まれているため、豚肉価格も高値で推移していくことが予想される。そのような高いコスト環境にあるものの、日本をはじめ確りと海外市場への販売を継続していく方針に変わりない。環境の変化に臨機応変に対応しながら販売していきたい。

上期(1~6月)の日本市場の販売(ボリュームベース)は、前年同期比で増加している。ただ、過去の実績をみると、大きな増減はなく、安定した販売となっている。今期の日本向け販売が伸びていると申し上げたが、具体的には、カスタマースペックや一次加工品などで競争力があった事が全体的に伸長しているが、為替の影響、外的要因の影響により他国と同様の動きを見せていると感じている(コエクサマックスアグロジャパン補足)。

全体的にコストが上昇したものの、これまで通り一次加工品の販売数量は前年同等を維持している。その一方で、ウデ・モモなどスソ物を使った一次加工品に関しては、販売数量は微増している。価格を抑えつつ、付加価値を付けられるような商品を日本の顧客に提供することが上期のテーマだった。

――来期の施策・重要課題は

市場環境が不安定で先の見えない状況にあるため、現時点で来期はこのような方針で進もうといった断定的なことを申し上げることは現段階では難しい。この不確定な要因の中のひとつとして、世界の豚肉の生産と消費の大部分を占める中国の動向がカギとなるが、(中国から伝わってくる)情報の正確性が不明なため、それを基に予想や計画を立てることが非常に難しい。

個人的には、恐らく来年度の豚価は過去最高値を更新するのではと予測している。同じ動物性タンパクの鶏肉は比較的同時並行して生産コストと相場が連動していくが、豚肉の場合は生産コストが上昇した後に遅れて相場が追いついて上昇する傾向にある。そのため、今年の上期は収益が大きく悪化するなかで運営してきたこともあり、来期以降は相場を上げていかなければならないため、過去と比べてもかなり高い相場になるのではとみている。

コエクサの場合、肉豚の重量を1kg増やすには約2.7kgの飼料が必要になる。この飼料コストの7割をトウモロコシ価格が占めている。とくに秋以降も1t当たりのトウモロコシ価格が前年の同時期に比べて約100ドルも上昇しており、それを踏まえた飼料コストの上昇に応じて、豚肉の相場も上げていかなければならない状況にある。

――チリと同様に欧州の豚肉サプライヤーも中国向け販売が減少するなかで、日本など他市場への攻勢をかけています

これまでも継続してやっていることだが、我々の強みを生かした手の込んだ一次加工品やカスタマースペックをはじめ、18年から日本向けに取り組んでいる「熟成ワインポーク」など、他のサプライヤーでは対応し切れないようなカテゴリーを手掛けていくことを重視していく。

さらに、コエクサにはTAK S.A.という一次加工品専門の工場があり、従来はチリ国内向けの商品を製造していたが、昨年、日本向けの輸出許可を取得したことで、今後はスライスやポーション、インジェクション、マリネート商品などを展開していく。工場は1カ月当たり1千tの生産キャパシティがあるほか冷凍倉庫をはじめとする物流網が完備されている。

3Dスキャンによる定量スライサーも導入しており、日本の顧客からの細かな要望に対応することができる。日本市場で差別化をしていく手段のひとつとしても、TAKの工場を活用していきながら日本の顧客に商品をお届けしたい。すでにいくつかの顧客向けにサンプルなどを製作しているところで、来期以降、本格的な生産が始まる予定だ。

――養豚事業の進ちょくはいかがでしょうか

2021年に自社農場が拡張され、現在、1日当たり1,800頭(2シフト)の出荷・と畜体制となっている。工場は1日当たり2,200頭のキャパシティがあり、冷凍保管施設もそれを十分受け入れられる収容能力がある。そして、現在、新たに2カ所の農場を新設するプロジェクトを進めているところだ。

政府からの承認を受ければ、2023年3月からプロジェクトがスタートする運びとなっている。この2つの農場は委託の肥育農場で、第三者に出資する形で、コエクサ社が豚舎の関連設備や飼料、技術支援、獣医薬品の提供など肥育に必要なものを支援する。コエクサの繁殖農場から導入された子豚を肥育し、最終的にその肉豚をコエクサで引き取る。

チリでは環境問題などから新しく養豚場、とくに大規模な施設を建設するのが非常に難しい状況にある。当社の豚肉事業の持続的な発展を考慮した場合、小規模の農場を分散・展開することで、コエクサのと畜・加工処理頭数を拡大させていく必要がある。この2つの農場も環境面を配慮して、小規模な施設であり、最新の飼養管理システムを導入することで少人数での管理運営を可能としている。こうした事業モデルはチリでは初めての取組みで、今後はほかの企業も追従してくるものと考える。

――最後に、TPPの批准について

今後の日本とチリの貿易関係でとても大きなキーになってくる。まずは、上院で承認されたことに対して非常に嬉しく思う。非常に長い交渉期間を経るなかで、この間、不明確な部分もあったが、今回どうにか承認された。今後、署名された暁には、従量税区分を活用するなどして今まで日本に入ってこなかった商品なども、供給することが可能となる。豚肉生産に関するチリの強み・優位性を発揮して、日本のお客様にそのような商品を届けることができるのを楽しみにしている。

〈畜産日報2022年12月22日付〉

媒体情報

畜産日報

食肉に関する全ての情報が分かる日刊の専門紙

畜産日報

近年の食肉をめぐる情勢は、世界の需給変動や、口蹄疫、鳥インフルエンザなどの家畜の疾病問題やBSE輸入制限の緩和など制度の変更、新たな規制などにより大きく揺れ動いており、企業の業績にも大きな影響を与えております。畜産日報では、こうした食肉をめぐる毎日の動きとともに行政・業界の対応、需給・相場の動向と見通しなど、解説記事と合わせて分かりやすくお伝えしております。昭和35年の発刊以来、食肉業界から最も信頼されている日刊の専門紙です。

創刊:
昭和35年(1960年)3月
発行:
昭和35年(1960年)3月
体裁:
A4判 11ページ
主な読者:
食肉卸、量販店・食肉専門店、外食、輸入商社、生産者組織、行政機関、海外機関など
発送:
東京、大阪の主要部は直配(当日朝配達)その他地域は第3種郵便による配送 *希望によりFAX配信も行います(実費加算)
購読料:
3ヵ月=本体価格22,572円(税込)6ヵ月=本体価格44,788円(税込)1年=本体価格86,962円(税込)