エーコープ近畿、北海道「とかち鹿追牛」産直事業20周年、産地交流・消費地交流を継続
〈生販双方の思いをつなぎ、再生産可能な体制めざす〉
(株)エーコープ近畿(大阪府高槻市、正村栄邦社長、店舗数34店)は、国産農畜水産物の販売を通じて、組合員と全国各地の生産者をつなぐ産直事業を展開している。
数ある生鮮・加工食品のなかでもJA鹿追町(北海道鹿追町)とは2002年から「とかち鹿追牛」(乳用種)の販売を行っており、2022年で20周年を迎えた。産直事業として20年も継続しているのは極めてまれだ。この20年の歩みのなかでは、エーコープ近畿のバイヤーや役員、チーフ、パートナーが生産現場を訪問するほか、生産者も店舗を訪れて売り場での応援販売に一役買うなど、取引先を超えた家族のような関係を構築している。
「とかち鹿追牛」は、鹿追町内の酪農生産で生まれた乳オスのヌレ仔を町内に2カ所ある肉牛センター(笹川北斗農場・太田農場)で一貫肥育している。誕生から出荷までの全ての工程が鹿追町内で完結する「町内完結型」の生産体系が確立されているため、2003年6月の「牛トレーサビリティ制度」の施行以前からすべての牛の生産履歴が明確という特徴を持つ。
肉質についても、地域でとれた新鮮な牧草やデントコーン、麦稈・バーレーストローを使用した独自の配合飼料を通じて、脂のうま味だけでなく赤肉のおいしさにもこだわった生産に注力している。平均出荷月齢は18カ月齢、出荷時体重は800kgとなる。
出荷された牛は、北海道畜産公社でと畜され、ホクレン農業協同組合連合会、JA全農ミートフーズを通じてエーコープ近畿へ納品される。エーコープ近畿へは半頭セットで納品され、精肉(アウトパック商品含む)のほか、味付け肉、コロッケや牛丼など総菜にも水平展開している。
エーコープ近畿と「とかち鹿追牛」の出会いは、2001年9月に国内で発生したBSEがきっかけだった。牛肉の需要が激減するなか、2001年12月に前身の旧エーコープ兵庫(2005年4月、エーコープ兵庫、エーコープ奈良、エーコープ大阪が合併しエーコープ近畿が誕生)が当時、生産履歴が明確な安心・安全な牛肉産地を探すなか、鹿追町ではすでに町内一貫生産で明確な生産履歴の整備がなされていることを確認。2002年1月から「鹿追」を前面に打ち出した「とかち鹿追牛」の販売を開始した。
2002年10月には旧エーコープ兵庫とJA鹿追町で農畜産物産地事業に調印し、事業の取組みに「とかち鹿追牛」を位置づけた。それ以降、鹿追町の生産者がエーコープ近畿の店舗に訪れて店頭で応援販売を行うほか、エーコープ近畿の社員(バイヤー、畜産担当者、店舗担当者など)が産地研修を行うなど交流活動を通じて相互理解を深める生販一体となった取組みを進めている。
この間、2015年には枝肉相場や初生トクの高騰など、生産をめぐる環境変化に対応して「産直価格」の期中改定を実施したほか、2014年9月には不飽和脂肪酸の向上のため米油を給餌するなど、生産側でのさらなる品質改善の取組みを行い、「とかち鹿追牛 極(きわみ)」としてリニューアル。2020年春には新型コロナウイルス感染症の影響でロイン系の在庫が滞留した際には、エーコープ近畿が引き受けて、ロースやクラシタの販促を実施している(1カ月当たり各40本)。
このように、20年にわたる「とかち鹿追牛」の産直事業をめぐってはさまざまな出来事、環境変化に直面したものの、その都度、生産者とエーコープ近畿、ホクレン、JA全農ミートフーズらが一体となった相互扶助の関係で乗り越えてきた。そして、2021年3月には悲願だった年間使用頭数700頭を達成している(最終723頭)。
エーコープ近畿の正村社長は「この20年、さまざまな課題があったなかで、お互いに上手く連携をしながらここまで続いている産直事業はない。諸先輩の皆さんが残してくれた大きな財産だ。『とかち鹿追牛』という立派な歴史のある財産があることは本当に嬉しく思うし、わが社の強みだ。これからもっとお客様にPRしていきたい」と語る。エーコープ近畿とJA鹿追町はこれからも30周年、40周年に向けて、生販一体となって双方の思いをつなぎながら、再生産可能な「とかち鹿追牛」の産直事業を展開していく方針だ。
〈畜産日報2022年12月23日付〉