細胞農業研究機構、培養肉との名称統一や国際会議・大阪万博に向けて活動、「細胞性食品の販売・流通には安全性の要件と定義が重要」/吉富代表インタビュー

細胞農業研究機構・吉富愛望アビガイル代表理事
細胞農業研究機構・吉富愛望アビガイル代表理事

(一社)細胞農業研究機構(東京都中央区、吉富愛望アビガイル代表理事)はこのほど、設立総会を開催した。

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吉富代表理事に、今後の活動や、細胞性食品の商品展開の展望などを伺った。

――機構の具体的な活動内容は

機構には、「知財委員会」「名称委員会」「安全性・品質管理委員会」「定義・食品表示委員会」「コミュニケーション推進委員会」「大阪万博委員会」の6つの委員会があり、各委員会の進捗が密接に関わり活動している。とくに「安全性・品質管理委員会」「定義・食品表示委員会」と、細胞の知財を検討する「知財委員会」が重要だ。

このほか、「名称委員会」の場合、食品表示委員会と関連し、名称や表記の統一などを検討している。例えば、表現については、国は『細胞性食品』、メディアは『培養肉』と表現しており、表現が曖昧な状況だ。名称についてどのように表現するのか、何を基準に適切な名称を決定すべきかなどを議論する必要がある。なお、各委員会での検討会は月に何度も行われ、委員が代わる代わる出席するほど活発に活動している。

今後のスケジュールでは、シンガポールでの国際会議と大阪万博がタイムライン。2023年秋に、細胞性食品のパイオニアであるシンガポール食品庁が国際会議を開催し、世界各国の細胞性食品の安全性、食品表示の担当者が一堂に会す。当機構も会議に出席し、各国の担当に日本の見解を説明する予定だ。大阪万博に向けても活動しており、同時開催のイベントなどで大阪万博が盛況になるように企画している。

――細胞性食品の商業化実現の展望は

国内開発の細胞性チキンは、早ければ2年後(2025年)までに販売の展望がみえるよう活動中だ。内閣府食品安全委員会のもとで、五十君靜信東京農業大学教授が細胞性食品のリスク評価手法の研究をしている。国内製造された細胞性食品について、商品製造のハザード、リスクの理解に係る最適な評価手法を研究しており、2024年春頃に終了予定だ。

また、当機構では産業界として安全性の考え方や要件について、ことし冬までにある程度意見をまとめる予定だ。それらの内容に基づき、行政が安全性要件を検討するのに1年はかかると見込む。その後に省庁の管轄が確定し、併せて企業の上市に向けた事前相談の指針などが出ると望ましい。

――日本での細胞性食品販売や流通に向けての法整備、食品表示などでの必要事項は

安全性の要件と定義が重要だ。流通では、安全性の要件を整理し、常に最新に更新できるような体制も併せて構築することが大切になる。細胞性食品の販売を認可しているシンガポールは、安全性のガイドラインをこれまでに数十回アップデートしている。もちろん新しい技術は企業秘密に紐づいており情報収集が困難という課題がある。安全性の要件について業界意見を整理する過程で、企業との関係性を築き、効率的な情報収集体制を構築したい。

2つ目は定義で、細胞性食品を肉として扱うか、肉とは別個のものとして扱うかだ。定義に関しては、輸出入を考慮すると、他国の議論も注視する必要があり、他国が細胞性食品を食肉加工品とした場合は日本も同一にすることが望ましい。食品表示に関しては、基礎的な食品表示に加えて、細胞性食品ならその旨がわかるように表示するなど、消費者が誤認しないよう業界で基準を設けることを検討する。

細胞性食品に使う細胞の取扱いに必要なルールは、長いスパンで考えなくてはいけない。日本としては「名前の取扱い」「細胞そのものの取扱い」が大切だ。

「和牛」細胞を使用していないのに霜降りを再現しただけで「細胞性和牛」と表現した場合、消費者や生産者が納得するか、など議題はさまざまだ。日本の「和牛」などのブランドの細胞を使ったものについてガイドラインを策定することが望ましい。「和牛」などのブランドの肉を使った細胞が消費者にどう評価されるのかが未知数だが、世界的に細胞性食品が拡大するならハイエンドだといわれるため、細胞にもこだわっていくことになる。

細胞そのものについては、畜産農家の権利を守り、価値を付与した仕組み作りが必要だ。トレーサビリティに関しては、ほかの業界の枠組みも参照にしつつ、考えていく必要がある。
 
〈畜産日報2023年6月29日付〉

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