日本食肉輸出入協会「食肉の安定調達、安定供給」に尽力、会員へ迅速な情報提供を/熊本義宣会長インタビュー
日本食肉輸出入協会は、総合商社や専門商社、通関業など、食肉の輸出入業務を行う企業(会員31社、賛助会員2社)で組織する任意団体。2023年度の通常総会でマルハニチロ(株)の熊本義宣氏(執行役員 食材流通・畜産 副ユニット長)の会長就任を決めた。
熊本氏は1988年に旧大洋漁業に入社、その後30年にわたり、量販店や外食向けの水産物の直販部門での販売業務、ホタテをはじめとした貝類の調達などに携わってきた。昨年から現職の食材流通・畜産 副ユニット長に就き、これまで水産物の調達・販売で培ってきた経験を生かし、同社の畜産部門を統括している。熊本新会長に食肉輸出入業界を取り巻く現状や課題、就任の抱負などを聞いた(※取材は7月上旬に実施)。
――現在の輸入食肉を取り巻く情勢は
食肉に限らず、輸入品については、現在の円安傾向は非常に頭が痛いところだ。日本に輸入するのと、現地で消費するのとでは、同じドル価格であっても大きなビハインドになる。一方で、日本市場では、とくに食品において価格を重視する傾向が強く、仕入れ値は上昇しているものの、それに伴って売り値は上げられていない。
2022年は年間を通じて、食品をはじめさまざまな値上げが行われたことで、値上げ交渉は比較的受け入れられやすかった。しかし、今年度に入り、エネルギーコストや人件費など、コスト自体は依然として高騰しているなかで、為替動向などで値上げ交渉がし難い環境となり、より厳しい販売状況となっている。
――第三国の需給動向や買い負けについては
日本は為替で非常に不利な環境にあるなかで、買い負けするという状況はますます強くなると予想される。現在、中国や欧米においては景気の低迷により調達は落ち着いているが、今後、中国など競合国の買いが強まることがあれば、再び市況は高騰する。
ロシア・ウクライナ紛争の経験を踏まえ、将来仮に輸出国が自国での消費や隣国への輸出を最優先するという状況になれば、お金を出しても買えない事態となることが想定され、食料安全保障という観点からみても非常に深刻な問題である。こうした環境下で買い負けしないためには、日本のマーケットにおいて、調達価格に見合った価格形成をしていかなければならない。
――家畜疾病の問題もありますが
先日、ブラジル・エスピリトサント州の家きんにおいて高病原性鳥インフルエンザが発生した。このように、鳥インフルエンザやアフリカ豚熱といった家畜疾病は畜肉特有の課題であり、輸出国で疾病の発生が確認された場合、日本の食肉輸入に大きな影響を及ぼしかねない。当協会としては、迅速に情報をキャッチし、会員に対して適切なタイミングでの伝達に努めていく。
――多くの課題があるなかでの会長就任となりますが、抱負や方針は
食肉を取り巻く情勢は不透明感が強まっているなか、「食肉の安定調達、安定供給」を理念とする当協会の存在意義がより問われてくると思う。こうしたなかで、農水省をはじめ行政との連携を通じ、当協会だからこそ得られる情報を“いち早く”会員に提供していくことがもっとも重要な役割だと考えている。また、会員の要望を聞き、大使館などを経由した海外との情報共有や、各所への要請活動なども引続き行っていく。
2022年にはカナダ・バンクーバー港でのクレーン衝突事故発生に伴う対応を協議し、協会としてコンテナ船事業会社に対し、「輸入食肉貨物引取対応へのご協力」を要請した。このように、双方向にコミュニケーションをしっかりと取りながら、会員同士や行政、海外マーケットをつなぐ“懸け橋”となっていきたい。
――これまでの活動から引き継ぐ点や新たな取組みは
引き継ぎ案件としては、輸出国(豪州)からの要望を受け、「輸入食肉の期限表示のためのガイドライン」の見直し(賞味期間の延長)について、方向性を議論している。現行のガイドラインにおける課題などはある程度整理されたものの、協会としての具体的な対応方針については、引続き協議していく。
また、2022年に協会のホームページを刷新した。これに伴い、今後は会員がいつでも情報にアクセスできるような機能を持たせるなど、ホームページを活用した情報発信についても充実を図っていきたい。
――食肉の輸出促進への取組みは
当協会ではこれまで「輸入」に重点的に取り組んできたが、昨年、新たに輸出事業者を目指す会員を支援する第一歩として、農水省食肉鶏卵課の担当課長補佐を講師に招き、「食肉輸出に関する説明会」を実施した。今年度も引続き、農水省などと連携を図りながら、情報収集を含め、協会として食肉の輸出促進にどのように取り組んでいくかを検討していく。
〈畜産日報2023年7月26日付〉