自民党、2023年度農林関係補正予算を了承、和牛肉需要拡大緊急対策に50億円
〈和牛の増頭奨励は一旦停止、消費拡大、枝肉相場の回復で子牛価格の回復を/江藤会長〉
自民党は11月8日、総合農林政策調査会・農林部会の合同会議を開き、2023年度農林水産関係の補正予算案について了承した。総額は8182億円に上る。
このなかで、物価高騰等の影響緩和対策のひとつに「和牛肉需要拡大緊急対策事業」として50億円を確保した。物価高騰に伴い需要が減退した和牛肉の需給改善を図るため、和牛肉の新規需要開拓や、消費拡大、インバウンド需要の喚起を支援するもの。
このほか、食料安全保障の強化に向けた構造転換対策のひとつに、新規に「緊急時鶏卵安定供給対策」として22億円を盛り込んだ。鶏卵生産者や加工業者などから成るコンソーシアムによる、加工原料向け鶏卵の安定供給を図るため、保存性の高い粉卵製造施設の整備を支援する。
また、「飼料自給率向上緊急対策」に130億円、「食肉流通構造高度化・輸出拡大事業」に71億円、「和牛等輸出のための高度な衛生管理施設整備等による輸出産地の形成」に89億円などが盛り込まれた。
この「和牛肉需要拡大緊急対策事業」は、2020年度から2022年度までの「和牛肉保管在庫支援緊急対策事業」(保管事業)の後継事業として今年度から措置された「和牛肉需要開拓支援緊急対策事業」に相当するもの。“(保管事業より)使い難い”といった現場の声を踏まえて、事業の仕組みなども変更されるとみられる。
会合で江藤拓総合農林政策調査会会長は「(牛肉需要開拓支援緊急対策事業では)ロイン系は1kg当たり800円の需要開拓奨励金を出してきた。しかし、使い難いという声もあり、ロイン系だけでなく、全体として1頭ごといくらという奨励金のつけ方する。これを実施するとなれば流通は改善されると思う」と強調した。
また、江藤会長は昨今の和牛子牛価格の低迷に関して、肉用牛の増頭奨励事業(生産基盤拡大加速化事業)に触れ、「これまで増頭奨励事業で1頭当たり24万6千円(飼養規模50頭未満)の奨励金を出し、畜産クラスター事業では畜舎を立てるなどして、(和牛子牛の)供給能力は大変上がってきている。しかし、なかなか国内需要が伸びず、海外輸出も芳しくないという状況であれば、政策的に増頭を奨励することが正しいかどうかということを農林幹部内で議論させていただいた」と切り出した。
また、「結果、この際しばらくの間は、廃止ではなく、増頭奨励については一旦停止する。子牛のセリ場をみると、経産牛のなかで10歳以上の歳を取った雌牛から生まれた子牛は非常に安く、小さいという傾向が強い。そのため、10年以上歳を経った雌牛は国からしっかり補助を出し、能力の若い雌牛に更新する。分母である雌牛の数は増やさないという体制に変更させていただきたい」と説明した。
そして、「マルキンと今回の消費拡大事業を合わせて枝肉相場を回復させたうえで子牛の市況回復を目指すという風に方針転換をした。子牛価格の安い時代に増頭したいという声も意欲のある農家のなかにはある。しかし、(繁殖雌牛の)分母が増え、子牛の供給力が増えるということは、(奨励金を出すことについて)いまの市場原理から正しくないという判断に至った」と理解を求めた。
〈畜産日報2023年11月9日付〉