2018年度チーズ消費は35万tで過去最高を更新、乳業大手が値上げも底堅い需要が継続
チーズの国内総消費量が2018年度(18年4~19年3月)、前年比4.1%増の35万2930t(農水省チーズ需給表)となり、4年連続で過去最高を更新し、底固い需要が続いている。
家計調査(18年1~12月)でも支出金額で7.2%増、購入数量で5.4%増。2018年春は乳業大手の市販用チーズの大規模な値上げがあり、消費への影響が心配されたが、堅調な家飲み需要と、“認知症予防”や“血管年齢若返り”などの情報が注目されたことによる中高年層取り込みが下支えした。
ただ、市販用のボリュームゾーンであるスライスチーズ、シュレッドチーズが、価格競争力の高い新興勢力の攻勢で売上至上主義・利益なき繁栄のデフレスパイラルに陥っている傾向にあるのが懸念材料。
取り巻く環境は、国内外の乳価上昇に伴う原料チーズ価格の上昇、TPP11、日EU・EPA発効で進む輸入自由化と、国産チーズとの競合問題など厳しさを増しており、企業の立ち位置によって戦略は分かれるものの、チーズ市場の質的向上・拡大を目指すには、チーズのどの品目でも継続的投資ができるような「利益を生む構造」にしていくことが必要で、ここに向けての各社の事業の舵取りに関心が集まる。
「新興勢力の伸び率が尋常ではない。近年チーズの付加価値が上がり、売り方も価値を上げていく流れにあるが、今のプロセスチーズは逆行していて価格ありき、安い輸入原料で設計した価格競争力をもった商品がシェアを伸ばしている。安い原料で作った製品に価値は付けられず、結果チーズの価値を下げることになり、この味で良しとする消費者が増えてしまうことが先々不安だ」(原料供給者)。
2018年度チーズ市場は、消費量約20万tの業務用が物量ベースで前年比微増、消費量約14万tの市販用が3%増とみられ、引き続き好調に推移した。しかしメーカー別、品目別でみると、値上げした乳業大手の雪印メグミルク、明治、森永乳業がプロセスチーズ最大品目のスライスで苦戦、値上げしていない新興勢力の商品、PB(プライベート・ブランド=流通・小売業者のブランド)品へ需要が流出しコモディティ化(高付加価値を持っていた商品の市場価値が低下し、一般的な商品になること)が加速した。
2018年度チーズ市場は、消費量約20万tの業務用が物量ベースで前年比微増、消費量約14万t市販用が3%増とみられ、引き続き好調に推移した。しかしメーカー別、品目別でみると、値上げした乳業大手の雪印メグミルク、明治、森永乳業がプロセスチーズ最大品目のスライスで苦戦、値上げしていない新興勢力の商品、PB(プライベート・ブランド=流通・小売業者のブランド)品へ需要が流出しコモディティ化(高付加価値を持っていた商品の市場価値が低下し、一般的な商品になること)が加速した。
ベビーチーズはトップシェアの六甲バターが、値上げを見送ったこともあり、近年伸ばした上にさらに伸ばし圧倒的No.1のポジションを確立。新興勢力も品ぞろえを強化し、量的拡大が最も進んだ。このカテゴリーも好調理由は値頃感、そしてバラエティの豊富さで、団塊世代が退職し、居酒屋飲みから家飲みに移行、年金暮らし・節約志向の中で支持されているのが特徴的だ。
6Pチーズもまた団塊世代が支えている。「昔の60代はチーズをそんなに食べなかったが、今の60代は雪印6Pの味を子どもの頃から知っており、酒のつまみにしながらおいしいチーズに探求心もある。今の子どもが激安スライスやシュレッドの味に慣れて満足してしまうと、その先のおいしいチーズを食べなくなる不安がある」(原料供給者)。激安品が広がる懸念はここにある。
〈売場に広がる“激安品”〉
ある大手量販店の現在のチーズ売場では、「驚きの価格」のPOPがついた税抜158円のPBスライス7枚入りが下段陳列され、NB(ナショナルブランド=メーカーによるブランド)スライス7枚入りと30~60円位の差がある。シュレッドもグラム当たり1円を切った安価な大袋入りが下段陳列され、これらを週末には家族連れらが迷うことなく買っていく。
差別化しにくいスライスとシュレッドだから、と見過ごすわけにいかないのは、この傾向が現在ほかのチーズにも広がっているからだ。3連休最後の夕方になるとその店の在庫量にもよるが、カマンベールも安価な輸入ものが先に品切れになる。乳業大手の商品と比べ40~50円安いデンマーク産商品が早々に売り切れ、値札が残っていることで、国産品の購入を躊躇(ちゅうちょ)する買い物客の姿もある。明治の直近のカマンベールの販売状況からも、値頃感あるものに需要が流れている模様で、チーズ市場好調の裏にある激安品の存在と、これがますます広がることによる問題を考えなくてはいけない時期にきている。
〈“価格より価値”で選ばれる商品も〉
一方、価格ではなく価値で消費者に選ばれている商品もある。手でさける意外性とおもしろさが支持されている雪印「さけるチーズ」は、パッケージの見た目も似せてきた輸入品と30~50円差があるが、固定ユーザーをつなぎとめている。食べると明らかに違う物性や味わいが理由であり、北海道生乳100%使用の原料の優位性もあるとみられる。
同様に北海道生乳を100%使用し、新鮮さで海外品に勝るのが森永「フレッシュモッツァレラ」。明治と雪印のカマンベールであり、改めてこの優位性を価格競争に巻きこまれにくい「価値」として強調していくことも重要だ。
〈他業界からもチーズ売場に参入、「大豆チーズ」やスライス状のチョコレート〉
競合相手は新興勢力だけではない。旺盛(おうせい)なチーズ需要の一部を取り込もうと、近年は業務用では油脂加工メーカー、市販用では大豆加工食品メーカーなどのチーズに似せた製品の台頭が相次いでいる。小売用では量販店のカット野菜売り場に、フリーズドライのチーズやクルトンのような「大豆チーズ」と呼ばれるものが陳列され、サラダ売り場には削ったり溶かしたりできる硬い“豆腐チーズ”がフレッシュモッツァレラの横に並ぶなど、意表を突いた開発商品や提案が目立つ。また数年前からスライスチーズ売場では、菓子メーカーのスライス状のチョコレートが定番化されるなど、明らかに他業界からの売場参入がじわじわと進んでいる。
〈業界発展には“全品目で利益を生める構造”が必要〉
攻められる一方で、新たな売場に進出する動きも一部ある。シュレッドが現在、イオンの精肉売場の「簡単・らくらくメニュー」コーナーに、鶏肉と調理用ソースとのセットになって「チーズタッカルビ」「パネチキン」家庭用キットの一食材として売られている。メニューは流行次第で変わるが、キットの中にチーズをセットして販売する取り組みは、今後さまざまな食品分野、売場で展開できそうで、チーズを販売する側も営業先がチルド日配品部門に限らず、新ルート開拓のチャンスとなる。アグレッシブな提案力、広い視点からの製品開発で、新たな価値を創出し、すべての品目で利益を生める構造にしていくことが求められる。