チーズ総消費量が5年連続で最高更新、2019年度35.8万トン

量販店のチーズ売場
〈2020年春は業務用打撃、家庭用は再び拡大路線〉
チーズの総消費量が2019年度(4~3月)前年比1.5%増の35万8229t、5年連続で過去最高を更新し、拡大が続いている。
2019年度のチーズ需給表(単位;トン、%)

農水省「チーズ需給表」抜粋(単位=トン、%)

 
家計調査は購入数量で約4%増。市場は物量ベースで業務用チーズが微増、家庭用チーズが3%増となり、消費の伸びに一服感が出ていた家庭用が、新型コロナウイルスによる家庭内消費増で2月・3月に大きく伸び、数字を押し上げた。
 
ただ、消費量が多い業務用の方がコロナの影響を受け、今期出足の4~5月が30%減、うち外食向けは60%減と打撃が大きく、コロナ前までの需要の回復が見込めず苦しい状況。
 
一方、家庭用は4~5月が20%強増となり6月も高止まり、コロナ終息が見えず在宅勤務がある程度定着し生活様式が変わる中で展望はあるものの、各社とも業務用と家庭用の両事業があり、主戦場の違いで様相は異なる。
 
もともと健康にいいイメージの食品のチーズが、今後どの業態からどのレベルまで生活の中へ入り込み、消費を持ち上げることができるのか、各社の事業の舵取りに関心が集まる。
 
「景気低迷で節約志向が一層強まり、外食を減らし、家飲みが増える。その一方で健康でいたい、免疫力を上げたい思いは強いので、今後なんとなく健康にいいイメージのチーズをおつまみに食べる場面が増えてくるものと予測」(メーカー)。
 
2019年度チーズ市場は、消費量約20万tの業務用が、物量ベースで微増、約14万tの家庭用がコロナ特需で2月・3月それぞれ1ポイントずつ押し上げ、物量で3%増、金額で2%増となり、前年に続き伸長した。
 
〈業務用は提案力の勝負に〉
業務用は近年、シュレッドチーズやスライスチーズなどが製菓製パン、外食、惣菜、冷凍食品など使用先が大きく広がり毎年じわじわと消費量が拡大。旺盛なチーズ需要の一部を取り込もうと、油脂加工メーカーなどがチーズに似せた製品で参入するなど、競争は激化している。その中でのコロナ打撃があり、量的な完全回復が望めない中で、今後いかにユーザーが使いやすい加工品・価格帯・温度帯・容量を揃え、低価格・高級の両極のニーズに応えていくか、提案力の勝負となりそうだ。
 
〈堅調な家庭用、若者獲得が課題〉
家庭用チーズについては近年、家飲みや内食志向による需要に支えられ、2015年度から2018年度の4年間で市場が20%以上拡大。2019年5月には31カ月ぶりにマイナスに転じ、そろそろ一服感が出てきたかと思われていたが、コロナ特需で再び拡大傾向となっている。4月単月は23%増、5月は26%増。
 
外出自粛で最初に売れ行き好調となったのが、パスタ料理に使う粉チーズや幅広い料理に使えるシュレッドチーズ、スライスチーズだった。その後は自粛期間が長引く中で菓子作りに使うクリームチーズや、家飲みのおつまみ向けのベビーチーズ、さけるチーズ、カマンベールチーズなどが店頭で高回転した。

2019年度家庭用チーズ市場(食品産業新聞社推計)

2019年度家庭用チーズ市場(食品産業新聞社推計)

 
在宅勤務が続く中で今もその流れが続いており、週末の夜のスーパーでは店頭でじっくり品定めする男性の姿もあり、今までチーズをあまり買っていなかった人も流れ込んできていると見られる。
 
おつまみチーズ代表格のベビーチーズは今、販促無しでもよく売れる状況だが、カテゴリートップの六甲バターは現状に甘んじず、おつまみ以外の用途を開拓している。ベビーチーズと餃子の皮で作る簡単レシピカード(ABCクッキングスタジオとタイアップ)を大手スーパーの店頭に陳列、料理使いを促し若い女性の購入を取り込もうというのが狙いだ。
 
このカテゴリーは家庭用チーズの中で14年度以降最も伸長率が高く、団塊世代が職場退職して居酒屋飲みから家飲みに移行し、年金暮らし・節約志向の中で支持されている。19年度も5%伸長、4〜5月は家飲み消費拡大で2ケタ増となり、この先も規模を拡大していくにはおつまみ以外の用途拡大と若い女性の獲得が重要となっている。
 
6Pチーズもまた状況は同じだ。ベビーチーズと形こそ違うが、用途はほぼ同じで団塊世代が支える構図も一緒。ベビーチーズより歴史が古いだけに団塊世代のユーザー比率はより高く、カテゴリートップの雪印メグミルクが、若い母親と子供の獲得に16年から本格着手、成果を出しつつある。
 
ただ、これらベビー、6Pは一つひとつが個包装してあること、むいてそのまま食べられる手軽さが、他のチーズと比べた時のメリットでもある。若者でもターゲットを女性にするか男性にするかで、購買欲をくすぐるポイントは異なり、どの切り口が最も響くのか、よりきめ細かなマーケティングが求められそうだ。
 
〈栄養価値、情緒的価値を今まで以上に訴求〉
「市場拡大のジレンマ(消費が拡大した結果、価格重視の消費行動が顕著になる)に突入か」(乳業OB) 
 
消費5年連続拡大の裏には、新興勢力の低価格品による消費の量的拡大があったことは否めない。既にシュレッド、スライスでは価格重視の消費行動が定着、近年はカマンベール、モッツァレラチーズにも広がり、国産品から安価な冷凍流通品(海外品)に消費が一部流れている一幕もある。
 
初めて買う人を取り込むには価格も重要な要素ではあるが、今後、市場の成長ステージを質的拡大に移していくには、この状況をどう変えていくかが課題となる。
 
一方、価格でなく価値で消費者に選ばれているおつまみ、おやつチーズもある。雪印「さけるチーズ」だ。パッケージも見た目も似せてきた輸入品と30〜50円差があるが、食べると明らかに違う物性や味わいで差別化できており、ユーザーをつなぎとめている。
 
またシュレッドも、付加価値品が一部の消費者に選ばれる場面が出てきている。代表例は東京デーリー「香り際立つパルミジャーノブレンド」で、似た配合設計の大手スーパーPB品はコロナ特需時に品薄状態。使い慣れているチーズのワンランク上の商品は、生活者に受け入れられやすく時流にも合致している。
 
人口減、高齢化、デフレ深刻、“ウィズコロナ”時代の中で、過去最高のチーズ消費量を維持しつつ、質的拡大へいかにステージを持ち上げていくかは、現段階では家庭用にかかっている。家飲みおつまみ、日々の家庭料理で、チーズ消費量が増えるよう栄養価値、情緒的価値を今まで以上に訴求し、市場の価値を上げていくことで、量と質の両面での成長市場といえる。
 
〈食品産業新聞 2020年7月20日付より〉