〈新春インタビュー2018〉近商ストア代表取締役社長・中井潔氏 自動化とコミュニケーション両立

14年5月の社長就任以来、売り上げを右肩上がりに伸ばしてきた中井社長。前期は約650億円の売り上げを達成し、快進撃を続ける。利益よりも売り上げアップを図る戦略で、「欠品のない売り場」「笑顔での挨拶」「身だしなみの統一」など6項目を掲げ、小売業としての基本を徹底させている。ドラッグストアの台頭などによる競合激化の中、食品流通企業はどう動いていくのか。近商ストア(大阪府松原市)の中井社長に詳しく話を聞いた。

〈初のメニューコンテストを実施〉
――昨年を振り返って

今期の売り上げ面では、650億円弱を計画しており、ほぼ前年並みとなっている。ただ、利益率は落ちている。各社同様、人件費高騰が一番大きい。また、農産の相場安と業界全体のデフレ状態が作用している。客数については基本的に増え続けている。この3年で前年を割ったのは2~3回程度だ。

月別で見ると、売り上げは10月だけ計画を割ったが、それ以外の月はクリアした。今年は各社とも同じだろうが、夏場はアニサキスで水産が厳しかった。夏の後半に猛暑から冷夏に変わっていったことや10月の台風の影響も大きかった。

人材難も深刻で、人件費が高騰している。一昨年の1年でパートの人件費だけで1億円以上上がっている。今期の上期でも5000万円以上費用がかかっているが、それでも人手が集まらない。対策として、社員登用を積極的に行っている。当社は年齢構成がいびつで高齢者が多く、30~40代の若手が手薄だ。その層を積極的に採用している。昨年の春は8人、中途採用は年間4~5人採用しており、年々増やしている。今以上に働きたいというパートもいるので、積極的に社員にしている。

当社は基本的に利益よりも売り上げをとりにいく戦略を取っており、他社に負けない単価づけや、ボリューム陳列、あいさつの徹底を心がけている。また、毎月覆面調査を外部に委託して行っている。品揃え、クリーンネス、接客態度、また品出ししている店員に商品の場所を聞くなどのチェックを行い、点数を出しているほか、年に3回は必ず全店舗を回って店長面談も行う。それ以外でも、私は現場主義なので、時間があれば店舗を覗いている。

――その他の取り組みは

昨年秋、初めて調理メニューコンテストを社内で実施し、全社員から新メニューを募集した。陳列や調理のコンテストは既に実施していたのだが、さらにメニューコンテストも加わった形だ。調理の専門家だけのアイデアでは足りないので、パートである主婦のアイデアも募り、優秀だったメニューを商品化した。全4品で、1カ月単位でメニューを変えながら販売している。

また、オリジナル商品として、津軽にある当社の指定農園で採れた「津軽のりんご」を販売している。今後も差別化商品としてオリジナルの商品を増やしていく。安価なものを求める声もあるが、一方で付加価値の付いた商品を求める消費者の声もある。そういったニーズに応えていく。

りんごのほか、畜産では北海道産の高級和牛「北見牛」を扱っている。これも関西のSM(食品スーパー)で扱っているのは当社だけだろう。他社との違いを出していかなければならない。試食販売も積極的に行い、違いを来店客にわかってもらうのが肝要だ。豆腐やヨーグルトなどのオリジナル商品も、提携先を見つけて開発したいと考えている。

――今年の見通しを

景気は決して良くない。人材難もまだまだ続くだろう。楽観視はできない。農産の相場安に加え、水産品の不漁もある。サンマが獲れない状況が続いている上、サバなども獲れない。今まで安価で提供していた商品が高騰している。どう対応していくかが問われている。

店舗に関しては、当社は基本的に既存店の改装をメーンに取り組んでいる。昨年は3店を大改装し、今年も2店の改装を予定している。また、新店に関してもそろそろ出していこうと考えている。いくつか候補はあり、現在交渉中だ。近鉄沿線の駅チカ店になるだろう。

セミセルフレジや完全無人化レジなどの自動化も考えなければならない。当社は今年からセミセルフレジを導入予定だが、業界内の自動化への移行は想像以上に早く進むだろう。ただし、導入すべき店とそうでない店がある。高齢者などは操作に手間取る場合が多い。また、高齢者が多い店では、ヒューマンコミュニケーションがひとつの鍵となる。実際、毎日来る高齢者は、店員との会話が唯一の会話ということもある。そういう意味では、店員とのコミュニケーションは武器となる。自動化を推進しつつ、コミュニケーションも重視する。この両立が大切だ。

〈働き方改革とIoTに対応〉
――女性の社会進出や働き方の変化について

当社にはまだ女性店長が存在しない。なってほしいとは考えているのだが、責任が発生するためなりたがらない従業員が多い。どのような業界でもあるだろうが、単純作業だけでよいという人も存在する。

ただし、女性によりよく働いてもらうために、昨年から育児休業の上限を小学4年生から6年生に上げた。また、近鉄グループでは保育施設を運営している。女性支援をグループ全体で取り組んでいる。

働き方改革にも取り組んでおり、プロジェクトを昨年の5月に立ち上げた。会議の時間帯をすべて午前中に移し、時間も短縮した。現場でも仕事の効率化を図っている。この業界では、前例踏襲がどうしても多くなるものだが、その点を変えていき、細かい部分から時代に合った対応を続けていく。

――食品流通業界を元気にするには

働き方改革とIoTへの対応がメーンテーマとなってくるだろう。いかに早く取り入れて実験し、進めていくかが勘所だ。世の中の動きと消費者のニーズをIoTにうまくつなげる。3~5年後には、少子高齢化などの影響で世の中はより変わるだろう。時代の流れに沿った方策をとる。

〈食品産業新聞 2018年1月1日付より〉