日清医療食品のSDGs活動、セントラルキッチンと現場で作るハイブリッドな食事サービス
増設の意義と製造される商品の特徴について、ヘルスケアフードファクトリー亀岡の川添昌弘工場長とヘルスケアフードサービスセンター京都の郡司慎也センター長に話を聞いた。SDGsの観点からその取り組みを考察する。
〈計画調理で安全・安心〉
日清医療食品は2001年にヘルスケアフードサービスセンター岩槻を建設後、現在では名古屋、九州、京都、亀岡のセントラルキッチンを稼働。2017年には、これまでの最大15,000食を優に超える日産10万食のヘルスケアフードファクトリー亀岡を建設して話題をさらった。と思いきや、2022年には、東日本エリアをカバーする新たなセントラルキッチンとして、栃木県に日産10万食のヘルスケアフードファクトリー関東を竣工する予定だ。
セントラルキッチン建設を強力に推進する理由について、川添昌弘工場長は「当社には365日、朝・昼・夕、3度の食事を遅れることなく提供する社会的責任がある」と使命を語り「この超高齢社会でかつ人手不足の中でどう食事提供を継続するか。高齢社会はどうしても人口が都市に集中する。地方の施設の方が人手不足に悩みやすい傾向がある。駅前にあるところは少なく、働き手がおらず食事提供に苦戦する施設は日本各地に点在している。そうした中で食事をどうすれば良いのか。1人でも食事が出ないということがないように、セントラルキッチン方式を活用することで現場調理の省力化・安定化を図っている」と意義を語る。
川添工場長は「安定して安全な食事を提供するためにはお客様はもちろん、提供のしやすさにも配慮しなければいけない」とし、「セントラルキッチンで製造した『モバイルプラス』なら、人手をかけず、調理技術を持つ人がいなくても食事が簡単に提供できる」と有効性を訴えた。
モバイルプラスは同社のセントラルキッチンでクックチル方式を活用したオペレーションで、契約先施設へ配送する食事サービス。クックチルとは、加熱調理した食品を急速冷却し、喫食時間に合せて再加熱し提供する調理システムをいう。従来、病院や施設の厨房で行っていた、発注・検収・下処理・調理等の一部の業務をセントラルキッチンが担うことにより効率化を図り、各施設では再加熱・和える等のオペレーションで提供可能だ。
卵焼きの朝食献立(左から、「モバイルプラス」常食、「モバイルプラスやわら御膳」、ミキサー食)
「現地調理だと調理後2時間以内に提供するが、クックチル方式だと計画的に調理できる。賞味期限は加熱調理後5日で、計画的に調理して安全に提供できるのが強み。セントラルキッチンで最大限できる調理をして、病院や施設で手を加えるハイブリッドな食事サービスである」。(川添工場長)
ヘルスケアフードファクトリー亀岡は2017年竣工当初から日産食数を増やし続けている。増加の背景として、川添工場長は「少子高齢化の影響が強い」と説明するが、それだけではない。モバイルプラス誕生後、各セントラルキッチンでは調理研究と連携を重ね、いかにおいしさを向上させるか各調理工程の最適化を図り、検討を重ねてきたという。
ヘルスケアフードファクトリー亀岡では、連続式加熱・冷却製造方式を採用することで品質を高め、かつ自動化・ライン化することで大量に安定して製造している。真空パック包装も、和え物は食材と調味料を別々にすることで、色みをきれいにする工夫にも取り組んでいる。また各支店では、いつセントラルキッチンから食事が届いても食材の重なりがないよう献立を整備するなど、使いやすい環境整備を行ってきた。
〈様々な食種を揃えて「すべての人に健康と福祉を」〉
同社の病院・介護施設の食事継続への思いは、SDGsの「誰一人取り残さない」という理念に調和する。モバイルプラスの食種は医療版・福祉版でそれぞれ、常食、全粥食、減塩食、エネルギーコントロール食の4種類を揃えており、肉・魚・麺・納豆などの禁止食対応もしている。幅広い食種を揃えることは、SDGsの3「すべての人に健康と福祉を」に該当するが、ヘルスケアフードサービスセンター京都ではそれをさらに進めて、常食を食べられない、「噛む」「飲み込む」力が弱くなった方に向けた食事にも対応している。それが、刻まない介護食「モバイルプラスやわら御膳」と「ミキサー食」である。
「モバイルプラスやわら御膳」はセントラルキッチンで集中調理とテクスチャ(硬さ・凝集性・付着性)の計測を行い、安全性を確認した上で契約先施設へ配送する食事サービス。黒田式高齢者ソフト食開発者である黒田留美子氏が監修した。
郡司慎也センター長にこだわりを尋ねると、食材、切り方、調理、簡便性、おいしさの5つがあがった。
食材は安全性を考慮してクックチル方式に使用できるものを選択。食材は繊維を断ち切るように切り、口の中に取り込みやすい形状にカット。調理では、料理に合わせた浸透圧を考え、圧力鍋を利用するなど細部にこだわった工夫や、通常のお肉が食べられない方にも成型することで食べられる工夫を施している。配送先施設では温める、和える、カットするだけで提供が可能で、献立作成の手間はない。出汁の香りがする高齢者になじみのある味付けで、食欲をそそる見た目を工夫。飽きのこない豊富なメニューを多く揃えている。
郡司センター長は「セントラルキッチンで手間を惜しまず多くの調理工程をふむことで、安全に提供できる。誤嚥性肺炎の危険があるきざみ食に代わる新しい食事だ。同様の食事を施設で作るとなると、特別な調理技術が求められるとともに、通常より数時間前から調理をしなくてはいけない。やわら御膳だと簡単に提供でき、労力負荷軽減につながる」と強調した。
一方、ミキサー食はミキサーにかけてペースト状にした食事である。特筆すべきは栄養価の高さだ。郡司センター長によると、各施設では食材、出汁、とろみ材を入れてミキサーにかけており、ミキサー食のためのレシピを作成する等、現場の負担は大きいという。
「ヘルスケアフードサービスセンター京都のミキサー食は、すべての食材で適切な加水率を決め栄養価を高めている。施設ではそれにとろみ材をつけて加工もできる。機材がない、技術がなくても、提供可能だ」と特徴を語った。
ヘルスケアフードサービスセンター京都の日産食数は介護食の生産を開始した頃、1000食に満たなかったが、今では「モバイルプラスやわら御膳」「ミキサー食」合わせて6000食まで増加した。利用施設は100件。小ロットの発注にも対応している。
〈セントラルキッチンにおけるSDGs〉
このように、日清医療食品はセントラルキッチン活用による食事提供でSDGsの3「すべての人に健康と福祉を」に取り組んでいる。また、安全・安心な食の提供や、一括調理による未利用食材の廃棄削減などの点は12「つくる責任つかう責任」にも貢献する。それだけではない。クックチル方式商品の製造は計画調理が可能で勤務時間が一定であり、8「働きがいも経済成長も」にもつながる。「セントラルキッチンのお仕事は業務を細分化することで一度に多くのことを覚えなくてもよく働きやすい。基本的にベルトコンベヤーによる搬送方式をとっているので、人が食材を取りに行って渡すことを減らし、働く社員への負担を考慮している」。(川添工場長)
さらに、2022年のヘルスケアフードファクトリー関東の建設は2拠点を持つことで、仮に1拠点で地震や災害が起きた時のバックアップ体制の構築の意味もあり、11「住み続けられるまちづくりを」にも該当する。
〈クオリティが年々向上、食数も伸長〉
日清医療食品は全国で1日あたり130万食を提供している。そのうち、セントラルキッチンがカバーする現在の日産食数の合計は約13万食。それでも10分の1に過ぎない。超高齢社会の進展の中で、セントラルキッチンを活用した食事継続の取り組みは続く。
入社から9年、同社でセントラルキッチン畑をずっと歩んできた郡司センター長は「今後もクオリティを上げより多くの方々に選ばれる食事にしていきたい」と期待をかけた。