【最終コーナーに向けて】ビール4社の営業トップに聞く② アサヒビール・黒木誠也常務取締役営業本部長
――1~9月期を振り返っていかがですか。
当社は、近年、“夏場依存型経営からの脱却”“ビール中心型ビジネスモデルからの脱却”を掲げている。とはいえ、今年の最盛期のビール類のボリュームが前年を越えられないのは痛い。1~3月はよくて、4月は厳しく、5月は盛り返したが、やはり6月の改正酒税法・酒類業組合法による影響は否定できない。加えて、東日本を中心に4年連続の冷夏だ。
10月に関しても、前半までは良かったが、台風が2週続けて来襲するなどで、不本意な販売状況が続いている。
――ビール類以外はいかがですか。
1~9月でRTD 計は111%。「もぎたて」が145%、6月に発売した「ウィルキンソン・ハード 無糖ドライ」は好調につき、本年の販売目標を2割増の120万箱に引き上げた。業務用の「樽ハイ倶楽部」は108%。RTD 市場は伸長カテゴリーであり、今後強化していくべきカテゴリーだ。「もぎたて」は、もっと大きなブランドに育てていく。2026年の酒税改定の最終着地に向けて、RTD はますます存在感を増していくだろう。早急にブランド構築をおこなっていく。
ワインは、市場は微増、弊社は輸入はプラス、国産はマイナスで合計前年並みだ。「アルパカ」は昨年142万箱と、輸入ワインブランドNo.1になった。今年もピノ・ノワール、ハーフボトル導入などで「アルパカ」ブランドは107%で推移している。「アルパカ」は輸入カテゴリーだけでなく、国産ワインも含めてワインカテゴリーNo.1ブランドに育てる。そして、それを起爆剤にして、エノテカとアサヒの合計で、ワイン市場No.1を奪取したい。今年は412億円の達成に向けて順調に推移している。
洋酒カテゴリーは110%。モルト原酒不足で「竹鶴」などは供給が追い付かずご迷惑をおかけしているが「ブラックニッカ」ブランド合計では約116%だ。
焼酎は市場環境が厳しく合計で98%。甲乙混和と甲類が前年を割っているものの、乙類は2ケタ増だ。4月に発売した本格芋焼酎「金黒」は、当社の樽生ビール取扱いの料飲店26万店を中心に、積極的に提案している。10月中旬時点で4万3,000店での取扱いとなり間口は拡大できている。一方で、いかに飲んでもらうかが課題。お店のメインボトルにしたり、グラスでも注文しやすくなる販促提案が鍵になる。
ノンアルコールビールテイストは、2012年に発売した「ドライゼロ」が、昨年No.1ブランドになった。ノンアルコールサワーテイストでは、9月に発売した「スタイルバランス 香り華やぐハイボールテイスト」が大変に好調だ。他社にさきがけて市場へ投入したファーストエントリー商品でポテンシャルが高く、味わい的にも完成度が高いと自負している。グラスで提供するなど、業務用でも展開を考えている。
――全てのカテゴリーでNo.1を目指します。
ビール・発泡酒・新ジャンル・RTD・洋酒・ワイン・焼酎・ノンアルの8つのカテゴリーそれぞれで、No.1ブランドを創出する考えだ。例えば、ノンアルコールビールテイスト「ドライゼロ」は、今年、他社の新商品の影響を受けてシェアは落とした。しかし、前年比ではプラスとなっている。つまり、圧倒的に強いNo.1ブランドであれば、他社の攻勢でも影響は受けにくく、その地位は揺るがないことを示している。No.1にこだわる所以だ。
――「スーパードライ」30周年です。
商品的には、3月に「スーパードライ エクストラハード」を、5月にギフト専用の「ジャパンスペシャル」と「スーパードライ 瞬冷辛口」を発売した。「瞬冷辛口」は、当初、8月末までの期間限定販売を予定していたが、CVSを中心に大変売れ行きがよく、10月末まで販売期間を延長した。CM にジョニー・デップを起用するなど話題を喚起し、20~30代の若い層に手にとってもらえた。「スーパードライ」とのカニバリがほとんどなかったのが特徴だ。
――1~6月時点で新ジャンルも課税数量シェア1位になりました。
2005年に参入して以来、初のNo.1だ。当社は新ジャンルにおいてはチャレンジャーであることを忘れてはいけない。なんとか、年間でトップを取りたい。――家庭用の取組みは。
改正酒税法以降、量販店では非価格分野競争が進んでいる。新しい量販の営業スタイルをつくっていかねばと思っている。量販店は店頭売価が上がることで、利益も上がっているが、お酒を購入する顧客は食料品の買い上げ点数が多いことが分かっており、店頭売価上昇によりお酒の買い場が変わることで売上減につながる可能性がある。そこは、例えば、お客様の誘客効果となるようなチラシの提案だとか、メーカーとしてお手伝いできるところがあるのではないか。言い尽くされているが「コト販促」も大きなテーマだ。
――業務用の方針は。
来年3月にリターナブル瓶・樽の価格改定を行う。そもそもの販売数量の減少傾向に加えて、物流環境が悪く、総販売原価割れになっている。これは飲食店次第だが、そのまま販売価格を値上げするという考え方もあるが、例えば、料理とのセットメニューでの価格設定や、あるいは最近顕著なジョッキのサイズダウンではなく、大きなジョッキで、適正な価格設定で提供する、というやり方もあるのではないか。その方が満足感が高いかもしれない。
また、新規店を取り合うということだけではなく、既存店の強化が重要だ。7月から来年6月末までの期間「KANPAI JAPAN 樽生スタンプラリー」を開始した。飲食店に掲示されているポスターにスマホ画面をかざすとスタンプがたまり、20個集めるとKANPAI JAPAN グッズが必ずもらえる仕組みだ。また、誘客のシステムとして、友好企業のニーズに合わせて宴会の店舗をご紹介する「With Asahi」は、本年は15万人の利用を目標としており、来年は20万人まで増やしていきたいと考えている。
――ラストスパートですが現場への方針は。
まず一つ目が、ベースとなる売上と利益をつくること。主要商品をいかに売るかということはもちろん大事だが、総合酒類企業として自分の得意先の売上金額と利益を認識し、得意先に貢献するような活動をしてほしい。二つ目に、全社的なマーケティング戦略・営業戦略上の重要な課題に取り組む。例えば新ジャンルNo.1や、RTD でしっかり間口を広げる、といったことだ。三つ目に、全国10エリアのそれぞれで、その市場に即した目標を掲げ、目標達成に向けた活動をして欲しい。
特に、いまは、二つ目の、今後当社が総合酒類企業として真のNo.1と言われるための、基礎固めのときだ。それを支えるNO.1ブランド、ダントツNo1ブランドをいかにつくっていくかという時だ。その力は当社にはすでにある。自信を持って邁進してほしい。
【プロフィール】くろき・せいや=昭和33年12月13日生れ、58歳。昭和56年早稲田大学商学部卒、同年4月アサヒビール入社、平成13年近畿圏本部営業企画部担当部長、14年宣伝部長、18年九州地区本部副本部長兼営業企画部長、20年エルビー名古屋代表取締役社長、23年エルビー代表取締役社長、26年執行役員アサヒビール広域営業本部長、28年常務執行役員アサヒビール広域営業本部長、29年3月常務取締役兼常務執行役員アサヒビール営業本部長兼量販統括本部長。
〈酒類飲料日報2017年11月8日付より〉
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