【ヒット商品の理由】サントリービール「頂〈いただき〉」

〈高アルコール系新ジャンルという新しい流れを創出〉

今年のビール類市場は、6月の改正酒税法施行による店頭売価の上昇が大きなインパクトとなり、各社、想定を上回る消費の冷え込みの対応に追われた。また、ビールメーカーは近年、主力ブランドの派生型商品の投入が多く、新規ブランドを世に問うて、それを定着させるというサイクルは後退している。そういったなかで、7月4日にサントリーが投入した新ジャンル「頂〈いただき〉」は、アルコール7%の〈高アルコール系新ジャンル〉という全く新しいコンセプトで業界を驚かせた。年内までに300万c/sを目標にしており、今年の新規ブランドの新商品では最大のヒット商品となりそうだ。さらにユーザーの期待に応えて、来年2月6日からはアルコール度数を7%から8%にアップし、リニューアル新発売する。開発の背景やヒットの理由を、サントリービールのマーケティング本部ブランド戦略部・宮下弘至課長に聞いた。

サントリービール・宮下弘至課長

サントリービール 宮下弘至課長

登場感から何かが違った。まず、そのタイミングだ。一般的にスーパーの棚割変更は春と秋の2回。7月に発売するのは異例だ。改正酒税法施行による店頭売価上昇に伴い、消費が冷え込むと予想された絶妙なタイミングだった。そしてTVCM。気さくで陽気な人柄が人気の唐沢寿明さんがサラリーマンの役を演じ、「あー疲れた」とネクタイを緩めつつ「7%(パー)なんだよ」とうれしそうな表情を浮かべて、缶からグラスに注ぐと、「うぉぉぉぉ」と雄たけびを上げ、いつの間にか場面が変わり、唐沢さんが山の頂で「俺は今、幸せの絶頂にいる!」と絶叫するというもの。サラリーマンの鬱憤が一気に解消される瞬間だ。「コックぅ~ん」という独特な表現が印象的だ。ターゲットについて宮下課長は「ずばり、毎日ビールを飲む、ビールが好きで好きでたまらないヘビーユーザーです」と語る。

「実は新ジャンル市場は1割弱のヘビーユーザーが5割弱を消費する、という調査結果もあります。ほぼ毎日、家庭で飲む。そういう方はスタンダードビールと新ジャンルの併飲者が多い。2015年にビールカテゴリーが19年ぶりに前年を上回って、ビールが注目されるようになりました。そして新ジャンルユーザーがたまにビールを併飲するようになった結果、新ジャンルに飲み応えが物足りないとか、やや薄いと感じる方が多くなってきたのです。よりビールのような“濃い飲みごたえ”のある本格的な味わいで、できるだけ満足したい、そこが今、ストロングチューハイなかでも500ml 缶にリピートが高い要因になっています」と分析する。

そのうえで「頂」のポジショニングを「金麦」とは正反対の方向にとった。「“金麦”が持つブランドイメージは“幸せな家庭の食卓”というものです。一方、“頂”では、一日の仕事を終えて〈今日の報酬・ご褒美・一日の〆〉みたいな気分を掬い取りました。そのイメージは男っぽい晩酌の世界です。例えば、清涼飲料の“BOSS”は、働く男との相性がいい。“頂”は働く男の〈一日の〆め〉と相性がいい、と言ってもいいでしょう」。ちなみに「コックぅ~ん」の「ぅ~ん」は「〆の満足を表す」ものだそうだ。その“働く男の「一日の〆め」”は発売と同時に行った「絶対もらえる」キャンペーン(10月で終了)にも示されていた。おつまみメーカー、なとりの「一度は食べていただきたい」アソートセット(熟成チーズ鱈、燻製チーズなど)という、働く男の「一日の〆め」としての晩酌シーンを狙った賞品だった。店頭でも、なとりのおつまみとのコラボを行うなど、「ビールが主、おつまみが従」という関係が明確なのだ。これは「食卓の食事と合せる」という近年のマーケティングとは正反対といっていいだろう。

しかし、これまでも新ジャンル市場で高アルコールの提案がなかったわけではない。だから、この人気ぶりは他に理由があるはずだ。「それは味わいという“ファクト”です。かつての高アルコール新ジャンルは、スピリッツを多く使用し、アルコール度を高める商品が多かった。それでは、どうしてもスピリッツの香りが強くなりすぎます。しかし、“頂”は、旨味麦芽を中心に、自社比較で最高の麦芽量を使用し、“力強いコク”とするとともに、醗酵度合いを高めアルコール度を上げることにより、後味のキレと、高い炭酸ガス圧の刺激による“飲みやすさ”を両立しました。これを〈トリプルハイスペック製法〉と呼んでいます」と自信を覗かせる。

ビールが人生において「かけがえのない存在」であり「心地よい相棒」である方にこそ、試して頂きたい、と宮下課長は語る。鎬を削る開発競争のなかで、高アルコール新ジャンルの技術が進歩しているのは、あるいは他社もそうかもしれない。しかし、宮下課長は「カテゴリーの拡大は歓迎します。市場が拡がるほど、注目される度合いは大きくなります。高アルコール新ジャンルの最も代表的な存在になれるようブランドを育てていきます」と力強く語った。

〈酒類飲料日報2017年11月20日付より〉

サントリービール「頂〈いただき〉」