発売40周年を迎えた宝焼酎「純」 その歴史と魅力を語る
1977年に発売し、昨年で発売40周年を迎えた宝焼酎「純」。同商品の発売は1974年にアメリカで起こったバーボンとウオッカの消費量逆転現象「ホワイトレボリューション」がひとつのきっかけとなった。
宝酒造は「必ず日本にもその波が来る。そうした時にブームを担うお酒は間違いなく焼酎だ」と確信し、消費が低迷していた焼酎の復権を賭け、研究に研究を重ねて発売した同商品。商品開発の歴史や魅力を、同社の大谷文久・商品部蒸留酒グループ長に伺った。
大谷文久・商品部蒸留酒グループ長
〈焼酎製造のルーツは1864年頃 「純」は発売初年度で70万箱の大ヒット〉
「純」の前にまずは宝酒造の焼酎の歴史をひも解くと、1842(天保13)年に酒造業を開始していた宝酒造の前身である四方合名会社が、1864(元治元)年頃に焼酎の製造を開始したことに始まる。その後1912年に愛媛県宇和島の日本酒精(株)が芋を原料とするアルコールと粕取り焼酎をブレンドして開発した新式焼酎「日の本焼酎」の関東における販売権を取得し、「寶」の商標で発売した。関東における販売は注文が殺到し、供給が追い付かないほどの売れ行きとなった。当時の四方合名社長・四方卯三郎は自社生産を実現すべく「日の本焼酎」の開発者である大宮庫吉を招聘し、1916年に自社製造の新式焼酎販売を開始した。「寶」マークを中央に堂々と配したラベルは現在も大きな変更はなく、自社で製造を始めて今年で102年の超ロングセラー商品だ。
宝焼酎「純」 年表
四方合名が製造・販売を行った「寶焼酎」は、味が良かったことはもちろんだが、壜詰でも発売しており、量り売りがメインだった時代に新鮮さも相まって消費者からは好評だった。
太平洋戦争終了後しばらくは焼酎が「庶民の酒」として需要の拡大が続いたものの、物資の不足などで粗悪品が多く出回ることとなってしまったことに加え、高度成長期の洋酒人気に押されて焼酎の消費量が落ちていたが、転機となるのは1974年にアメリカで起こったホワイトレボリューション。当時の宝酒造の社長・大宮隆は日本にも必ずその波が来ると予測し、日本でその役割を担うのは間違いなく焼酎だと考えた。
宝焼酎「純」発売当時
大宮社長指揮の下、新しい焼酎の開発に取り組み、試行錯誤の末、宝焼酎「純」が完成した。
自然なうまみとまるみ、ごく軽やかな香りを併せ持ちながら、最高にピュアな味わいと、720mlのスクエアボトルを使用した斬新なデザインが発売当時から若年層を中心に受け入れられ、発売初年度で年間約70万箱を出荷。1980年代には空前のチューハイブームを巻き起こし、1985年には678万箱を販売する大ヒット商品となった。
また、当時としては珍しく環境問題に取り組んだ商品でもあった。
発売から2年後の1979年4月には、河川汚染でサケが遡上しなくなった北海道の豊平川に24年振りに遡上したサケが発見され、再び豊平川にサケを呼び戻そうとの機運が高まり、市民運動が発足し、その運動に共感した同社では「カムバック・サーモン・キャンペーン」を展開。同時に北海道限定でキャンペーンと連動したパッケージの「純」も発売し、売上の一部を市民グループへ寄付するなどした。
「発売して40年の間に宝焼酎「純米」や「純レジェンド(現在の宝焼酎「レジェンド」)」など様々な商品も発売し、ブランド育成に取り組んできた。今後も家庭用市場から業務用市場まで、幅広い業態で活性化策を展開し、当社の大事な柱である「純」を引き続き育成していきたい」と大谷グループ長は言う。
〈“純”のカギ“樽貯蔵熟成酒”の生産の地で分かった、“11種類13%”へのこだわり〉
同商品の特徴として「11種類の樽貯蔵熟成酒を13%ブレンドする」というものがある。「樽貯蔵熟成酒」や製造方法について更に詳しく聞くため、「純」のキーアイテムである樽貯蔵熟成酒を製造する宝酒造黒壁蔵(宮崎県児湯郡高鍋町)にて、岡田正文工場長と同工場生産課長の郷司浩平氏にお話を伺った。
岡田正文 黒壁蔵工場長(左)と郷司浩平 生産課長(右)
「まずは“貯蔵熟成酒”をつくる工程だが、原料選びや蒸留方法など、つくりたいお酒によって製造方法を分けている。原料であれば大麦やトウモロコシ、サトウキビなどを使用している。蒸留は連続式蒸留機で行うが、蒸留塔の組み合わせにより、きれいでさっぱりとした焼酎が出来たり、味わい深く一癖あるような焼酎が出来たりする。黒壁蔵での連続式蒸留焼酎は、基本的に貯蔵を前提とした造りとなっており、約2万樽の樽を保有し、貯蔵する樽の素材や期間によって様々なタイプの熟成酒がつくられる。原料、発酵、蒸留、貯蔵、すべての工程の組み合わせとしては無限大に存在するが、黒壁蔵ではその中でも85種類の樽貯蔵熟成酒を保有し、商品に使用している」と岡田工場長。
樽貯蔵熟成酒
貯蔵についても、アメリカンオークやスパニッシュオークなどの樽を使用、1~ 5年貯蔵し商品に使用する。樽はロット単位で貯蔵し、分析機器による成分分析に加え官能検査による品質確認を何度も繰り返し、品質がばらつくことを防いでいる。
また同社は、樽の再生・チャーリング(樽の内面を強火で炭化させること)も自社で行える体制を整えている。「樽作りは非常に難しい。品質への影響があるため接着剤などを使用して漏れを止めることができないので、一枚一枚の樽材を狂いなく正確に組み合わせていく緻密な作業が求められる。漏れ防止のパッキン代わりとしてガマの葉が使えるが、あくまでも正確な作業をした上での話」(岡田工場長)。
チャーリング風景
実際に蒸留を行う連続式蒸留機や樽の貯蔵庫、チャーリングの様子も見せてもらい、最後にはテイスティングの様子も見学させてもらった。郷司氏は「蒸留したての焼酎は荒いが、貯蔵を経ることで、分子の結合の変化や、樽の成分による甘いバニラ香が付与されることでまろやかになり“樽貯蔵熟成酒”として商品に使用される。その1つに“純” があり、“11種類の樽貯蔵熟成酒を13%ブレンドする” という“黄金比率” で商品が成り立っている。先人が研究に研究を重ねてつくった商品。大切に守っていきたい」と商品への愛を口にした。
40年前に新たな価値を創造し、市場を切り拓いてきた宝焼酎「純」。同商品は現在でも多くのファンに支持されているということはもはや言うまでもないが、そこに胡坐をかかず、現在でも宝焼酎「レモンサワー用」や宝焼酎「タカラリッチ」、そして宝焼酎「NIPPON」など、新たな価値を持った商品を続々と市場に送り出す宝酒造。甲類焼酎市場も「レモンサワー」で盛り上がっており、熱はまだまだ冷めそうにない。
宝焼酎「NIPPON」・「タカラリッチ」・「レモンサワー用」
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