【米穀VIEW982】漂流する米政策 Ⅵ 平成30年産に向けて⑬ 髙木勇樹氏に訊く③ 到来する未知の世界に備え不連続・不可逆な対応を

髙木勇樹氏(元・農林水産事務次官、元・農林公庫総裁、現・日本プロ農業総合支援機構理事長)
毎度お馴染み「ご意見番」の一人である農林水産アナリストの髙木勇樹氏(元・農林水産事務次官、元・農林公庫総裁、現・日本プロ農業総合支援機構理事長)に訊くシリーズ。

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――お話を伺っていると、「米政策改革大綱」に始まる一連の流れは、途中確かに一度頓挫しましたが、2010年に到達するはずだった「需要に見合った米づくりの本来あるべき姿」に、10年近く遅れてですが、やっと近づいてきたかのように見えます。

髙木 ああ、そうですね。やっと近づいては来ましたが、まだ同床異夢的な感じでしょうか。ただ今まで、確かにジグザグの、行ったり来たりの世界ではありますが、そこをトレンドで均した直線を引っ張ってみれば、少なくともベクトルは変わっていない、もはや変えようがないという思いはしています。その意味では、あまり心配はしていません。ただ、最初に指摘されたようにスピード感が足りないとは思っています。もはやジグザグしてる場合ではないと。

――というと?

髙木 先日、日経調のシンポジウムでもお話したんですが、平成30年産からなどという目前のことより、10年後、20年後を、私自身は危機感を持って見ています。

つい最近まで過剰問題が悩みでしたが、今ですら生産基盤の弱体化が目に見えてきました。確かに「儲かる農業」をやっている人もいますが、そうした人たちだけで生産基盤を支えるには限界があります。同時に、少子高齢化や所有者不明の土地の増加など、いま静かに進行している巨大な構造問題は数多くあります。それが一挙に噴出するのが10年後、20年後だと思っていて、今までは長い間だましだまし対応してきましたが、それでは対応不可能な事態が招来すると見ているのです。言い換えれば、革新、改革、革命でもいい。今の安倍政権の「○○革命」に果たしてその意味が込められているのかは疑問ですが、ともかく10年後、20年後には、その革命がやって来て、誰も彼も、嫌が応でもその革命に巻き込まれます。そのことを今のうちから覚悟しておかなければならないということです。

その場合の対応策は、今までのようなだましだましではない。つまり日本農業の課題の解決は、今の延長線上にはないのです。不連続・不可逆のシステムや長期ビジョンを出して、国民全体で危機感を共有しなくてはいけない。準備をせよと言っているのです。

といって別に悲観しているわけではなく、希望はあります。「革命」はマイナスの方向だけでなくプラスの方向にも働きます。例えばIT化やAI技術は「異次元の進歩」を遂げているでしょう。発想としては古くからある量子コンピュータなどが実現したら、世の中は劇的に変わるはずです。そうした技術が進むなかで一番の課題は、農村に雇用の場を作ることです。今の言い方で言えば「農村の活性化」ですが、いずれ表現が変わってくるかもしれません。

ともかく、これまで農業・農政が経験してきたことのない未知の世界が到来します。これに対応するに、今までの制度・政策に風穴を開けて、それで良しとしていては済みません。不連続・不可逆の対応が求められます。現代の制度・システムは「ガラポン」せざるを得ません。そうすることで農業を産業として捉え、経営している農家が本領を発揮できる環境、農村を活性化できる環境が生まれることを期待してやみません。

――ありがとうございました。

【プロフィール】たかぎ・ゆうき 1943年(昭和18年)群馬県生まれ。東大法卒、1966年(昭和41年)農林省入省。畜産局長、大臣官房長、食糧庁長官などを経て1998年(平成10年)農林水産事務次官。退官後、農林中金総合研究所理事長、農林漁業金融公庫(当時)総裁など。近年、「農林水産アナリスト」としてデビュー。ライフワークのJ-PAO(日本プロ農業総合支援機構)理事長、JBAC(日本ブランド農業事業協同組合)顧問、やまと凛々アグリネット顧問などを務めている。また地元・高崎神社の神職「権彌宜」(ごんねぎ)でもある。74歳。

〈米麦日報2017年12月6日付より〉

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