【月曜プラザ・特別篇】堂島商取システム問題、ホントのところ
〇・・・商品先物取引のシステムには、堂島商取が採用している「板寄せ」と、東商取が採用している「ザラバ」との2種類がある。「板寄せ」は、特定時間内で売買注文を均衡させて価格を決める方式。「ザラバ」は、随時値決めして売買を成立させる方式。どちらにも一長一短があるが、どちらが主流かと言えば、明らかにザラバだ。国内だと、例えば株式市場がザラバを採用している。したがって、取引システムを板寄せからザラバに移行させることは、他市場参加者にも参加を促進する、つまり取引拡大の手段の一つと見られている。現在試験上場中のコメ先物でも、かつては東京穀物商品取引所がザラバを採用していた。だが、東穀取はコメ先物(現在の東京コメ)を当時の関西商品取引所に移管、当時の東京工業品取引所と合併することで、現在の東商取が成立。一方、結果的にコメ先物を一手に引き受けることとなった関西商取は、現在の堂島商取へと名称変更して現在に至っている。国内の市場で現在、堂島商取のコメ先物だけが、ほとんど唯一板寄せを採用していることになってしまっているのは、そうした経緯による。だから堂島商取でも、何年も前から、市場振興策の一環として、ザラバへのシステム移行は何度も議論されてきていた。積年の課題と言ってもいい。今のところ、「コメ先物が本上場となれば移行を検討する」段階でペンディングになっていた。
〇・・・そうした環境にあったことをまず頭に入れておいていただいた上で、まず今回の事態、表面上に見える事実関係だけを整理しておく。今年9月4日、東商取が、堂島商取に対し、自社ザラバシステムを導入して欲しいと打診。堂島商取は9月13日の理事会で、受け容れを仮決定するが、その際、附帯決議がなされた。曰く、12月5日の理事会で導入を正式決定するが、それまでに同じザラバでも他システム候補が浮上してきた場合、その検討を妨げない(東商取システムをキャンセルする)。実際にSBIホールディングス(株)のシステムという別候補が浮上してきたため、12月5日の理事会は紛糾したが、SBIシステムの導入を決議するまでには至らず、とりあえず東商取システムの導入断念だけが決議された。堂島商取は、期限だった12月8日までに、違約金およそ2,000万円(諸説ある)を支払って東商取システムをキャンセルしている。12月20日の理事会で再びこの問題を議論するが、現段階ではSBIシステムを導入するか否かは、そもそもこのタイミングでザラバに移行するのかどうかも含めて、まだ確定していない。
〇・・・表面的な事象だけを挙げつらえば、まるで堂島商取が駄々をこねているように見えてしまう。しかし、どうもそうではない。ボタンのかけ違いは、最初から始まっていた。まず東商取が最初に打診してきた自社ザラバの提案だが、このときの回答期限は9月8日。打診したのが9月5日だから、これはあまりにも性急な要求だ。「システム変更という巨大な投資を必要とする決断を、わずか3日で下せというのも、ご無体な話」(関係者A)。また東商取システムは、つまりJPX(日本取引所グループ=東証+大証)システムだから、確かに市場振興の意味で利便性は高い。だが、「JPXシステムは、拡張性に乏しい側面がある。例えば仮にJPXを堂島商取のコメ先物に導入した場合、現行の東京コメ、大阪コメ、新潟コシの3商品のまま固定で、新商品を乗せることができない。細かな商品設計の変更にも対応していない。いや、対応していないわけではないが、仮に変更する場合、またもや巨大な投資が必要になる」(関係者B)。もう少し指摘しておくと、実は現行の堂島商取システム(インタートレード)でも、小規模なシステム変更でザラバに移行できなくもない。ただ、この段階では他に妙案もないため、堂島商取としては東商取の打診を受け容れざるを得なかったわけだ。附帯決議を付け加えたのは、言わば苦肉の策ということになる。
〇・・・次に、SBIシステム候補が「急浮上」してきたかのように見えるが、これも違う。堂島商取自身、「ザラバに移行するのであれば」という前提で、もともと挙がっていた候補の一つだった。ただ、そもそもザラバへの移行が正式決定していなかったため、具体的なシステムの中身を詰めていなかっただけのことだ。皮肉にも東商取の打診によって、堂島商取はSBIに具体的検討を要請するに至った。JPXとSBI、2つのザラバシステムを比較すると、「投資額はほぼ同水準だが、SBIのほうが拡張性が段違いに高い。それもあるが、堂島商取がSBIを推す理由は、恐らくSBIの背後にある巨大な市場ではないか。正直なところ東商取とは比べものにならない。つまり同じザラバを導入して市場振興するなら、少しでも大口の可能性のあるものを選択したのではないか」(関係者C)。
〇・・・こう言っては何だが、「たかがシステム」の問題で、ここまでこじれてしまった原因は何か。一言で言えば、「コメ先物に対する情熱の違い」と指摘できる。「本来ならコメ先物は、資金が潤沢にある、経営に余裕のある取引所が、長い時間をかけて育てていくべき商品。ところが堂島商取は、むしろコメに賭けているといっていい。極端な話、コメ先物の本上場が叶わなければ、堂島商取は廃業を余儀なくされてもおかしくない。だから堂島商取は、コメのためなら何でもする姿勢」(関係者D)。「東商取は、“経営難”と言うと言い過ぎだが、少なくとも年々営業収益を落としているのは事実。これを何とかしたい、ありていに言えば、カネが欲しい。堂島商取も確かに商品先物取引業としてはジリ貧にあると言っていいが、不動産その他の、言ってみればサイフの異なる資金が潤沢にある。その資金をシステム導入料の名目で取り込めば、とりあえず目前の問題は、一時的にせよ回避できる。コメ先物など無関係」(関係者E)。「本当なら、我が国で商品先物を継続的に発展させていこうと思ったら、コメのように取りかかりやすい、普及しやすい商品を入口に、長い目で育てていく気概が必要。しかし、残念ながら東商取には、その余裕がない。結果的に商品先物の将来を潰す行為と分かっていても、退くに退けない立場」(関係者F)。
〇・・・ここではあえて紹介しないが、堂島商取の受託会員の一部を東商取が取り込んでいるとか、その取り込まれた受託会員が連名で意見書を提出したとか、堂島商取の理事長を誹謗中傷する怪文書が流れたとか、こう言っては何だが、「稚拙なやり口」(関係者G)が多すぎるほど聞こえてくる。
〇・・・ここからは個人的な意見。東商取でも堂島商取でもどちらでもいいが、お客さんの存在を忘れてはいないだろうか。コメ先物は、我が国唯一のコメ市場であり価格指標だ。なくなって困る最大の被害者は、東商取でも堂島商取でもなく、現物を扱う業者なのではないか。確かにコメ先物は今年、本上場を果たせなかったが、実は少しずつ良い環境になりつつある要素もある。どうか「こんなこと」で、72年ぶりに復活したコメ先物の小さな灯を消さないでいただきたい。(岡野)
〈米麦日報2017年12月15日付より〉