新素材「ナタピューレ」で“食料の過剰と不足の矛盾解決へ”/農研機構

3Dプリンターで射出した成形物 (Aは水とジャガイモ粉濃度22.5%、Bはジャガイモ粉濃度20%にナタピューレを添加したペースト)
農研機構はこのほど、食品研究分野における成果展示会をオンライン開催した。ポスターセッションは終了しているが、全77の研究成果ポスターを農研機構のホームページから見ることができる。

展示会にあたり、食品研究部門に携わる3名によるオンライン講演会も開催。今回はそのなかで米麦日報に関連する講演「次世代食品製造のための農産物粉末の再構築」(農研機構食品研究部門食品加工・素材研究領域、徳安健グループ長補佐)を紹介する。

徳安氏が紹介したのは、2021年10月に発表した新食品素材「ナタピューレ」だ。ナタピューレはナタデココと(1-3),(1-4)-β-グルカン(以下、β-グルカン)を合わせて粉砕したもので、粉末した食材をペースト状にする差異に結着性を向上させる機能を持つ。通常、粉末に水を添加してピューレ状にするとベタついてしまうが、結着性をあげることでまとまりが良くなり、繊維質感と硬さを付与することができる。

例えば、粉末をペースト状にして棒状に固め鉛筆削りで削れたり、チップスのように平たく薄く乾燥したりもできる。また、濃度の低いペーストにナタピューレを加えることで、3Dプリンターでの加工も実現する。「かねてからナタデココで結着性をあげる素材が作れないかという研究は行われてきたが、特殊な機械が必要なことが難点だった。今回、β-グルカンのような水溶性多糖類を添加することで粒子を細かくし、ピューレ状にすることができた」(徳安氏)。

そもそも、なぜ農産物を粉末にする必要があったのか。開発の背景として徳安氏は「フードロスと食料不足の矛盾」を挙げた。「世界では毎年何万tもの食品ロスが出ているにも関わらず、飢餓人口は8億人もいる。特に野菜などの生鮮品は減耗率(生産量に対し、流通を経て食卓に届くまでで失われる割合)が高く、時間が経つと食味や栄養価が落ち、食べることができない。その余剰分を不足時に回せば、バランスがとれるのではないか」とする。インスタント味噌汁など乾燥・加工した農産物はあるが、農産物そのものの食感を維持することは難しく、用途の範囲が限定されている。

ナタピューレによって余剰・規格外農産物を3Dプリンターなどの次世代型食品型製造工程に加工することで、「農産物の次世代産業への利用」「美味しく健康に資する新食品の提供」「フードロス削減に繋がる新産業創出」を目指す。

◆農研機構「研究成果ポスター集」

〈米麦日報2021年11月25日付〉