〈新春インタビュー2018〉キユーピー代表取締役社長・長南収氏 今後は「食卓を科学」へ
〈「食の主役」分野の拡大、もの作りの原点再確認〉
――17年は2月に社長就任の年でした。振り返ると
当社として45年ぶりに新設したマヨネーズの主力工場である神戸工場で、回収事故を起こしてしまった。2月24日の株主総会で三宅前社長からバトンタッチを受ける直前の時だった。社長交代の挨拶も兼ねて流通関係者への新工場のお披露目の会を開催するはずが、主力商品である「深煎りごまドレッシング」の自主回収のお詫びの場となってしまった。
神戸工場は新しい技術などさまざまなチャレンジを詰めた工場だ。チャレンジの過程でこのようなことが起こってしまい、大変なご心配をおかけしたが、この件を通して我々が一番大切にしなければいけない「ものづくり」の原点となる考え方、一つひとつの工程を積んで作り上げていくということを改めてグループ内に伝えている。
また併せて伝えているのは創始者の中島董一郎が語っていたことだが、お客様は缶詰などのような食品は中身が見えない中で買っていただくものであり、絶対に正直者が作らなければいけない。そして良い商品は良い原料からしか生まれない。そのため、商品に使用する原料一つひとつ、拘った原料を使用しているこれもキユーピーのものづくりの考えの一つだ。
9月には群馬・埼玉県の惣菜店で食中毒事故が発生した。事故では幼い少女が亡くなった。これも食品というのは命と向きあっていることを改めて思い知らされた出来事だ。
当社はベビーフードを製造・販売しているが、当社の品質管理のさまざまなノウハウを盛り込み、安全で安心な商品の提供に取り組んでいる。このベビーフードを始めるにあたって語り継がれていることがある。実は、アメリカで市場調査をしてきた若かりし頃の藤田近男(2代目社長)が、日本も今後赤ちゃんの食事は手作りから加工食品の時代になると訴えたが、中島董一郎から許可が下りなかった。ちょうどそのころ、粉ミルクの異物混入事件が起きた。赤ちゃんはお母さんから与えられた食品を、疑いなく食べる。この事件で改めてそれを学び、ようやくベビーフードに携わることを許された。
だからこそベビーフードにはものづくりの原点、品質の最高基準がある。そういった意味では、昨年は食品に携わるものの責務とものづくりの原点を改めて教えられた年となった。
〈主力の調味料 今後も磨き上げ〉
――17年度の業績について
第2四半期決算の発表時に11月期見込みを、最終的な売上は50億円減の5600億円、営業利益は20億円減で310億円へ下方修正した。修正後の数値を改めて17年度の目標数値と設定し、グループ全体で取り組み、前年クリアできる見込でいる。
この要因としては、海外の調味料やサラダ・惣菜事業が好調だったことがあげられる。物流事業も好調だった。一方で加工食品事業は16年の北海道の台風の影響でコーン缶詰などが休売になったことなどから厳しかった。
家庭内での調理機会が減少している中で、味噌や醤油などの基礎調味料がそのままの形で伸びることは難しいだろう。その中でマヨネーズ、ドレッシングは伸びている。
我々としては、主力の調味料は今後もしっかり磨き上げていきたいと考えている。
現在、野菜をもっと好きになって食べていただこうと、新たなサラダスタイルの提案を進めている。グループ協働で「パワーサラダ」(野菜、タンパク質、フルーツ、トッピングの4つの素材を組み合わせたサラダ)に取り組んでおり、ドレッシングとグループ商材(サラダ、豆、タマゴ加工品など)の拡大にもつなげた。また、マヨネーズは野菜に「かける」「あえる」といった使い方だけではなく、炒める、焼く、揚げる、など色々な調理に使用することで、いつもの料理をもっとおいしく、楽しく、キッチンユースとしての汎用性の広さを提案している。このようにマヨネーズ・ドレシング商品を磨いてきたことも伸びてきた要因だろう。
サラダ・惣菜事業は、パッケージサラダや惣菜の伸長などで好調。パッケージサラダのブランドであるサラダクラブは、グループ内ではキユーピー、アヲハタと並んで3大ブランドの一つと位置付けている。このサラダクラブのパッケージサラダに、昨年4月からパッケージの全面リニューアルをし、キユーピーのロゴもつけている。おいしい野菜には青虫などの虫がついてしまう。そのためお客様に安心して召し上がっていただくために商品化に当たっては厳格な品質管理を行っている。
しかし、万一のことが起きてしまうと、サラダクラブブランドだけではなく、キユーピーブランドへの影響も否めない。サラダクラブではおいしい野菜を使い、品質管理を徹底することがブランド構築の基本と考えており、従業員一同その想いを共有して品質管理に取り組んでいる。今後益々、お客様を裏切ることのないよう努力しなければならない。
サラダクラブブランドの認知向上に向け、パッケージのリニューアルと併せ首都圏で初となるCMを放映もした。しかし認知度はまだまだ低い。今後さらに認知度をあげるため、お客様に手に取っていただける商品開発も進めながら、認知啓発の取り組みも行っていく。
――フードサービス部門については
いろいろな取り組みを行った。例えば「マヨカフェ」。3月1日の「マヨネーズの日」に合わせ、マヨネーズの食べ方の提案を行った。東京と名古屋のレストランを借りて期間限定でサラダはもちろん、ピザやドリアなどを提案した。もう一つが「♯シブサラ」。本社のある渋谷にちなみ、渋谷の地形である谷をイメージした盛り付け、スクランブル交差点にちなみかき混ぜるようなサラダを定義とし、渋谷区内の飲食店さんに協力してもらった。2年目の17年は渋谷中央街商店街や代々木商店街、新宿のタカシマヤタイムズスクエア(渋谷区)のレストランなどに展開が拡がり、それぞれがユニークなサラダを提供した。継続して行うことで野菜摂取の向上、地域の活性化に貢献したい。
また外食でも野菜をもっと使ってもらおうというのがMOTTOVEGE(モットベジ)プロジェクト。賛同する飲食店を「MOTTOVEGEアンバサダー」と名付けており、すでに全国で1万店以上となった。当社はプロジェクトに参加している飲食店を応援するため、「パワーサラダキャンペーン」を企画した。期間中にお店でパワーサラダを注文したお客様へギフト券があたるスクラッチくじをプレゼントした。
〈中国と東南アジアを優先的に〉
――海外展開が進んでいますが
海外売上が5割以上ある先行メーカーさんに比べれば、当社はまだ7%程度。全方位ではなく、中国と東南アジアを中心とした展開をまずは優先的に考えている。
中国は3つ目の工場である南通丘比が操業した。この工場ではロングライフのサラダやタマゴ加工品、そして今まで現地では製造出来なかったビネガーも生産している。これにより、中国ではマヨネーズ・ドレッシングの調味料事業に加え、ロングライフサラダやタマゴ加工品の展開も拡大し、次のステージに向かうことができる。中国でも卵料理は好まれており、需要がある。我々の独自の技術を用いたとろとろの半熟状を再現したタマゴ加工品のおいしさにびっくりしていただきたい。
東南アジアではタイ、マレーシア、ベトナム、インドネシアに工場があるが、まだ届けられていない価値があると思う。フードサービスが中心だがマレーシアでは小売りも強化している。タイ、インドネシアではドレッシングのテレビCMを放映している。
こうした国は早い段階から、自分たちで工場を立上げ、商品化して、プロモーションを行ってきた。そのノウハウが蓄積されたことで、一番新しいベトナムでも早い段階で黒字化した。フィリピンには事務所を作ったし、ミャンマーも検討している。
次に注目されるのが13億人を抱えるインド。厳格でない人も含めればベジタリアンが7割いると言われている。大きな市場としての魅力はある。現在、マレーシアからマヨネーズ、ドレッシングの輸出を開始し、デリーなどの都市で少し実績がでている。輸出を進めながら現地の市場を分析し、今後どう展開させるか検討していく。
一方、北米ではQ&BFOODSの長い歴史がある。次の展開を見据えてブランド展開を目指し、「深煎りごまドレッシング」をキユーピーブランドで販売し始めた。大型量販店などでいい手ごたえを感じている。これがうまくいけば、マヨネーズと合わせてキユーピーブランドを浸透させていきたい。
ヨーロッパは17年1月にポーランドでM&Aによりモッソキユーピーポーランドを立ち上げた。この会社はポーランドで3~4番目のマヨネーズなどのメーカーだが、自社で食用油を搾るので、原料としてだけでなく食用油も販売している。ここを拠点にマヨネーズなどで東欧の市場を開拓していく。西欧はオランダにある協力工場でマヨネーズを作ってもらい、販売している。
――2018年はどんな年になりそうですか
3年間の8次中期計画の最終年度となる。これをしっかり達成して、翌年(19年)のキユーピー創業100周年を迎えたい。現在の課題として、少子超高齢社会、単身者対策、Eコマース・ネット販売の増加などがある。これまで伸びてきたCVSでも国内既存店の連続増収がストップとなった。今後益々、GMS(大型量販店)やSM食品スーパーなどのリアル店舗から間違いなくネットの世界への買い場が移行していくだろう。
また家庭内食の減少も予想される。こうした中、マヨネーズ・ドレッシングなど食の名脇役である主力商品の調味料をさらに磨き上げると共に、「食の主役」分野の拡大をしっかり取り組む必要がある。今年は100周年を迎えてさらに飛躍するために「主役化」となる商品を確立するための準備の年と位置付けている。
「食の主役」とは、主食的な食品でもあるが、その人にとってなくてはならないもの、主菜化という意味もある。例えばタマゴ。この20年間、卵の生産量は変わっていないが、消費チャネルが変化している。以前は6割が家庭での消費で4割が加工食品だったが、今はほぼ同量、今後は逆転して加工品の割合が高まる時代が来ることも考えられる。
日本人が年間に食べる卵の数は16年度、1個増えて331個と言われている。ところが、ある調査では朝食用に卵料理をする人が減っているという。朝の忙しい時の料理の準備や片付けを簡便化していることが影響しているようだ。パン、コーヒー、ヨーグルト、バナナといったセットで、みんな準備や後片付けが簡単だ。
こうした中でタマゴを主役化するにはどうするか。今までタマゴ加工品は業務用をメイン販売していたが、今後は家庭用にも需要が拡がってくる。
サラダも野菜だけなら脇役だが、そこに卵や肉などのたんぱく質が入るパワーサラダなら主役のメニューとなる。また、これまで新商品の開発には「売り場を科学しろ」と言ってきたが、今後は売り場に行かない人が増えるため、「食卓を科学」しなければいけない。単身者は何を食べているのかを分析し、「こういうものが欲しかった」といってもらえる商品を開発しなければいけない。それには外部の力を借りることもいとわない。グループ内にとどまらず、外部の力も活用しながら、新たな価値をお届けしたいと考えている。
――「食品産業新聞」新年号のテーマはサステナビリティ新時代と食品産業です。企業価値の向上に取り組んでいることは
3組に1組が離婚し、母子家庭が増え、子供の7人に1人は貧困ともいわれる。もし何らかの理由でお母さんが料理をできないと、子供は学校給食のみが栄養の補給をする場となってしまう。今日の日本でそんなことがあるかと思ったが、それが現実。
17年から食育や子どもの貧困対策に取り組む団体の支援を目的として当社が設立した「みらいたまご財団」があるが、その助成団体の活動報告を聞き知った。
居酒屋を経営する女性がこうした子供たちをなんとかしてあげたいと、毎週木曜日はカレーの日として夕方に温かいご飯を食べさせている。栄養だけでなく、会話もできるようになる。今度は勉強を見る場を提供する。
17年はこうした子どもの居場所作りなどを取り組む20団体に、活動支援を始めた。当社でできる社会活動は独自に行うが、当社でできない子ども食堂のような人を支援する活動も大切だ。「みらいたまご財団」を作ってよかったと思っている。
〈食品産業新聞2018年1月1日付より〉