「マルちゃん」はなぜ「大会公式麺」の座を獲得できたのか?1984年7月28日 ロサンゼルス・オリンピック開幕【食品産業あの日あの時】

東洋水産 1986年6月からの“マルちゃん”マーク 画像は東洋水産ホームページから
東洋水産 1986年6月からの“マルちゃん”マーク 画像は東洋水産ホームページから

東洋水産の「マルちゃん」ブランドは、1984年のロサンゼルス・オリンピックの「大会公式麺製品」に選ばれた。なぜ、「マルちゃん」は「大会公式麺」の座を獲得できたのか。

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7月26日(日本時間7月27日)、パリ・オリンピック2024が開幕する。日本オリンピック委員会(JOC)のウェブサイトによれば、現在「TEAM JAPAN パートナー」に名を連ねる食品関連企業は2社(※)。

※米国ザ・コカ・コーラ・カンパニーは国際オリンピック委員会(IOC)と契約するワールドワイドオリンピックパートナー(中国・蒙牛乳業と共同)。

オフィシャルパートナーの味の素(契約カテゴリー:調味料、乾燥スープ、栄養補助食品、冷凍食品、コーヒー豆)は、現地に特設される選手団向けレストラン「JOC G-Road Station」での軽和食の提供に協力するほか、日本航空(JAL)と協力して機内やラウンジで期間限定の特別メニュー「Powered by 『勝ち飯』TEAM JAPANパリ2024応援メニュー」を提供する。

また、丸大食品(オフィシャルサポーター、契約カテゴリー:ハム、ソーセージ)は6月より順次「燻製屋シリーズ」などでTEAM JAPAN パリ2024公式ライセンス商品を発売、対象商品を購入したレシート画像で応募するとTEAM JAPAN公式ライセンス商品などが当たるキャンペーンを展開中だ。

「TEAM JAPAN パートナー」という制度に耳馴染みのない人でも、「がんばれ!ニッポン!キャンペーン」には聞き覚えがあるだろう。JOCがアマチュア選手強化資金獲得のため、選手・役員の肖像権を利用できるマーケティングプログラムを開始したのは1979年(昭和54年)のことだった。モスクワ・オリンピックを翌1980年に控えて導入されたこのキャンペーンは、JOCが各競技団体に所属するアマチュア選手の肖像権を一括して管理し、CM出演などの対価を選手強化費用に充てる、当時としては画期的なものだった。

結果としてモスクワ・オリンピックでは日本選手団が出場をボイコットしたことで目論見は外れたが、4年後のロサンゼルス・オリンピック(1984年)では多くの企業がこの枠組みに参画した。中でも食品・飲料関連企業の存在感は大きかった。

コカ・コーラは「コカ・コーラ」が大会公認清涼飲料であることを最大限にアピールするため、女子飛び込みの馬淵よしの(当時コラル・ギャブレス高。のちに女優・タレント)、男子陸上棒高跳びの高橋 卓巳(当時高瀬高教員)をCMに起用。対するサントリーはスポーツドリンク「NCAA」のCMに柔道の山下泰裕(当時東海大教員、現JOC会長)、競泳女子平泳ぎの長崎宏子(当時秋田北高)を起用。糸井重里による「がんばった人には、NCAA。」などの一連のコピーも話題となった。またヱスビー食品は自社所属の陸上選手、瀬古利彦、佐々木七恵らを最大限に活用し「S&B ディナーカレー」などをPRした。

なかでもひときわロサンゼルス・オリンピックに賭けたのが「マルちゃん」ブランドの東洋水産だった。同社は1984年、グループ会社総勢9859社(当時)の総力を結集し、女子体操のホープだった森尾麻衣子(当時明星学園高校)を起用した企業広告「競う人の、力になりたい。」を展開。同時に大会公式マスコットのイーグルサムをあしらった「赤いきつね」「緑のたぬき」「ワンタン麺」といった商品を発売した。

同社が他の日本企業と大きく異なったのは、JOCだけでなく米国の組織委員会とオフィシャルに提携し、「大会公式麺製品(海外では公式スープとの表記もある)」の座を獲得したことだった。1972年にカリフォルニアに米国法人を設置し、1977年よりロサンゼルス郊外で即席麺の現地生産を開始(同社ウェブサイトより)するなど、かの地は同社にとって特別な場所でもあった。

東洋水産 海外即席麺事業 画像は東洋水産ホームページから
東洋水産 海外即席麺事業 画像は東洋水産ホームページから

「マルちゃん」ブランドのカップ麺がメキシコで9割近いシェアを誇っていることはよく知られた話だが、元をたどればこれも80年代前半、ロサンゼルス周辺に多数居住していたメキシコ系移民が故郷にお土産として「マルちゃん」製品を持ち込んだことから火が付いたと言われる。

1980年代~2000年代にかけ、食品関連企業にとってオリンピックは世界に名を売る絶好のチャンスであり、また実際にビジネスへの反響も絶大だった。こうした風向きが変わったのは2010年代からだ。

米国マクドナルドコーポレーションは費用対効果が見込めないことなどから、1976年のモントリオール・オリンピックから続くIOCとの契約を、2018年の平昌冬季オリンピック限りで終了。またコロナ禍での開催で議論を呼んだ東京2020大会(2021年)では、スポンサー企業にも批判の声が投げつけられた。

前出の味の素のように単に広告に起用するだけでなく、本業である「食」を通じてアスリートや競技団体を直接支援する企業も増えている。食品業界以外でもトヨタ自動車が今回のパリ・オリンピックを最後にIOCとの契約を終了することを表明しており、スポーツの祭典とスポンサーシップをめぐる関係は大きな転機を迎えていると言えそうだ。

【岸田林(きしだ・りん)】

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